2.Drop the everythin'.―3
そして坂月は思ってしまう。逃げないと、と。助けてくれたのも、考え方が異常で、『イッてる』からだ。と坂月は考えてしまった。当然といえば当然でもある。もし、坂月がDFに連行されそうになっている人を見かけたら、まず助けないだろう。DFは絶対正義であり、間違い等起こすはずがない、と思ってしまうからだ。当然、連れて行かれる人間を悪人に見るだろう。
例え、自身が同じ境遇に立っているとしても、坂月は気付けない。自身は何もしていないと知っているからだ。仮に、の考えはこの状況では全くできなかったのだ。
そう考え出すと、面倒が嫌いな坂月でもとめられなかった。そして思わず、身を引いてしまった。
「わ、分かった。とにかくありがとうな! じゃあ」
そう早口でまくし立てるように言って、坂月は踵を返し、早急にこの場からさろうと走り出してしまったのだ。
坂月の背後からは何も聞こえなかった。少女が坂月の遁走を止めようとするかとも思えたのだが、どうしてかそうはせず、坂月は余計に不安に思ってしまったのだった。
「な、なんだったんだよ。あの女……」
吐きすてるようにそう言って、坂月はとりあえず駅を探したのだった。
1
坂月の目覚めは気分的な意味で最悪だった。あの後、坂月はなんとか駅を見つけ、近未来化した特殊な電車で地元まで戻り、辺りを警戒しながら帰ったのだ。少女から禁止されていたが、返ってからコネクトを展開させて確認してみると、バイト先からの店長のコール履歴で履歴が埋まっていたが、言い訳する気も起きずに寝てしまったのだった。
今日もシフトに入っていたな、とコネクトに載った予定表を確認した坂月はバイト先に向かう事にした。
少女は逆探知がどうこう言っていたが、自宅でコネクトを展開しても何もなかったがため、坂月は無理矢理に自身が昨日体験した出来事を記憶の奥底に封じていたのだ。意図的な行為であり、微かに頭を過ぎる記憶だが、とにかく自身に言い聞かせて誤魔化した。
一度シャワーを浴び、心はさっぱりしないが体をさっぱりとリフレッシュさせたところで、坂月は身支度をして自宅を出た。
昨日、必死に走って戻った道をゆっくりと歩きながらバイト先へと向かう坂月。どうしても、昨日の記憶が過ぎるが、無理矢理に振り払って自分を誤魔化した坂月。道中は警戒をしなくとも何事も起きず、坂月は昨日DF連中に見つけられた場所も容易く通り過ぎてあっという間にバイト先までもう少し、という場所まで来た。
だが、
「マジかよ……」
坂月は足を止めた。先の光景を見て、坂月は現実に引き戻された。
店の入り口から三人の襟詰の姿が見えたからだ。顔だって坂月にはハッキリと見て取れた。昨日の、三人だ。まるで坂月担当だと言わんばかりに昨日と同じ顔が揃っていた。
坂月は、仕事なんてしている暇はなかったのだ。
連中姿をまじまじと見ている暇なんてなかった。坂月は即座に建物の影へと身を隠して、一瞬の内に荒げた呼吸を落ち着かせようと奮闘する。
(なんで、なんでだよ。くっそ……)
そして、コネクトを展開して店長に何があったのか、と聞こうとするが、
――『コネクト、開いちゃだめ』
少女の言葉が脳裏を過ぎり、坂月は手を止めた。
(でも、何でだ……!? 自宅でコネクトを開いたんだぞ!! 逆探知して自宅まで押しかければいいじゃないか……ッ!!)
坂月は焦る。これでもかという程に焦る。どうすれば良いか、ではなく、どうしてこうなったのか、と探ってしまう。だが、それは無駄な事。今、現状では、ともかくこれからの打開策を考えなければならないのだ。だが、焦燥に駆られた坂月は冷静な考えを取れなかった。
そして、そんな時だった。
「やほ、昨日ぶりだね」
何故か聞き覚えのある、可愛らしい声がすぐ近くから、聞こえて来たのだ。