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2.Drop the everythin'.―2

 すると、坂月の視界一杯に白が広がった。少女の顔だ。幼げの残る可愛らしい顔は雪の様に真っ白。目は僅かに赤みが掛かっていて、アルビノ、という存在を思い出させる。かと言って生気が感じられないわけではなく、元気一杯の少女、という印象が強かった。年齢は坂月よりも僅かに若いだろうか、そう、感じられた。

「大丈夫か……?」

 状況の把握できない坂月はとにかく助けてくれた少女の身を案じた。少女は言葉に反応して坂月の不安げな表情を一瞥した後、視線を戻して一回の深く、確かな首肯。

「大丈夫……、それより、早く逃げないと」

 少女は言った。小さく、可愛らしい声で。

 逃げないと、その言葉の意味が判らない程坂月も馬鹿ではない。だが、何故、少女が自身を助けてくれたのか、くれるのか、坂月にそれまでは分からない。

 だが、現状が現状だ。壁の向こうから「待て」とDF連中の声が響く。DFは三人いた。どうにかすれば一人くらい壁を乗り越える事は出来るだろうし、最新鋭の装備を駆使し、坂月、いや、二人の先周りをする事も容易いだろう。

 少女の言葉に疑問をぶつけている暇はない。坂月は頷いた。

「こっち!」

 すると少女は突然、坂月の手を取って細い道をくねるようにして走り出した。ただ、真っ直ぐではなく、まるで上からマップでも広げて道を選ぶような不規則な動きで少女は坂月を先導した。

 坂月は少女と歩幅を合わせながら走り、思う。

 どうしてこうなったのか、どうして、助けてもらったのか。

 息が切れる程に走りながらも、たどたどしい口調で坂月は声を上げた。

「な、なぁ!?」

 少女からの返事はなかった。だが、呼びかけが届いていないようではなく、坂月は無言の返事と解釈して勝手に続ける。

「なんで助けてくれたんだ!?」

 まだまだ聞きたい事は山ほどあった。短い時間ながら、数多くの事が起きすぎたのだ。だが、坂月は――走りながらという事もあって――ただそうとしか聞けなかった。

 そして、返ってきた返事は、「現在進行形で助けてるつもりだけど?」という坂月の表情を一瞥もしない冷たく感じてしまう言葉だった。

 坂月は、今は話す時ではないか、と判断して、言う。「ありがとう」

 夢中になって走っていると、どこかの町並みが二人の両サイドを流れ始めた。坂月は見覚えのない町まできたのか、と思わず不安になる。

 暫くして、少女はやっと止まった。そこは、適当な町から一歩外れた建物の影だ。外や道からは覗き込まないと二人の姿が確認できないようになっており、一瞬ながら身を隠すには最適な場所だった。

 そこで二人の手はやっと離れた。坂月は呼吸を整えるよりも前にまず、空を見上げた。建物と建物によって視界は狭くなるが、そこから確かに空は見えた。日は傾いている。視線を落としてコネクトを展開しようとして、坂月は止まった。

「コネクト、開いちゃだめ」

 そう、少女に腕を取られ、止められたからである。

「どうして?」

「逆探知だよ。それくらい何百年も昔からある技術でしょ?」

「あ、あぁ。成る程」

 言われ、坂月は手を落ち着かせた。

 互いに呼吸を整えて、一段落付ける。走り、汗もかいた事で、裏路地の湿っぽさがやけに肌に纏わり付いていた。服をパタパタと仰ぎながら、坂月は少女に視線を投げる。

「ありがとう」

 そう言って、握手を求めた。

「いえいえ」

 少女はそんな事を言いながら、差し出された手を握りなおす。

「で、どうして助けてくれたんだ?」

 そこから数秒も経たずして、坂月は聞いた。助けてもらったとは言えど、相手は見ず知らずの女の子だ。可愛らしく、男の性として坂月も思わず気を許してしまいそうになるが、状況は異質以外の何物でもない。突然国所属の軍隊から負われ、その光景を眺めていたかの様なタイミングで少女の助けが入る。冷静になって考えてみれば、恐ろしい状況だった。まさか、少女も罠ではないか、と思わず考えてしまいそうだった。

 そんな坂月の心中を知ってなのか知らずか、少女は溜息の後に言う。

「今、世界中に広がってる『エラー』の事は知ってるよね?」

 坂月はその問いに首肯で返す。

「そのエラーがね、アカシック・チャイルドのせいで出現したんじゃないか、ってDFは思っているみたい」

 少女はそこまで言って、溜息を吐き出した。本当に呆れているような、そんな雰囲気が坂月にも伝わってくる。

「その、聞いて悪いが、アカシック・チャイルドってのは一体?」

 坂月はここで、とやっと問うた。DFの口からも出てきたアカシック・チャイルドという名称。坂月は聞いた事も文字として見た事もなかった。余りテレビ等のメディアを使わない坂月だが、誰もが知っているような名前であれば坂月も聞いた時点で分かる。

 坂月の言葉に、少女はキョトンとして、首を傾げながらも、言う。

「自分の事も知らないの?」

「は?」

「君も、アカシック・チャイルドだよ?」

「え?」

 少女の言葉に坂月は首を傾げて返す事しか出来なかった。アカシック・チャイルドとは何なのか、坂月には理解できない。できそうにない。

「ま、待て、俺がアカシック・チャイルドだとかいうのは、置いておいて。アカシック・チャイルドってのはどういう人の事を指すんだ……?」

 分からない言葉があれば辞書で引く様に、坂月は一から理解しようとアカシック・チャイルドという言葉について聞いた。

 するとやっと少女は坂月が全くアカシック・チャイルドに付いての知識がないと気付いたか、驚いた様な表情の後に、説明する。

「アカシック・チャイルドっていうのは、ディラックの海にその身一つで干渉して、森羅万象の記録『アカシック・レコード』にアクセス出来る人の事だよ」

「成る程、全く分からん」

 さっぱりだった。坂月には少女の言葉が一つとして理解できないでいた。その現状プラス、裏路地の不快感が坂月に纏わりつき、坂月はやっと我に返ったような気がした。そして、疑ってしまう。この、眼前の小さな少女は、頭がおかしいのではないか、と。

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