8.epilogue.
8.epilogue.
戦争を見た。スキルと呼ばれる魔法紛いの光景を見た。そして、未来を見た。
時に、預言者と呼ばれる世界最強の力を持った人間がいた。彼は『歳を取らない』という設定がなされたこの世界で、唯一年を取る人間だった。故に、不自然に思われないために、預言者は姿を隠し、長い年月を掛けて預言者は秘匿な存在となった。例えるならば殺し屋か。影で暗躍する、力を持つ者。
そこまでの存在に預言者がなるには、長い年月を必要とした。歳を取り、死に向かう身体を自らの力で干渉し、若返らせ、預言者は長い、通常ではありない時間を生きた。生きていた。
数々の予言を残し、恐ろしい力で革命までをも起こした。預言者が、この世界にもたらせた影響は数多い。
預言者が本名を捨ててから、どれくらいが経っただろうか。余りに長い年月を行き過ぎたか、さすがの彼の能力も、衰えを見せ始めていた。機微なモノだが、衰退の始まりだ、と預言者は感じていた。ここまで――何百年、何千年と――持っただけ、素晴らしい、と彼は頷くだろう。
干渉の力による若返りも最期と決めて、預言者が自身の終焉を決めてから、数十年後。死の直前で、彼は知る。
「来たか……」
「おう」
預言者の前に、漆黒の勇者が現れた。勇者の現れ、つまりそれは――世界の終焉の始まり。
時が、来たのだ。余りに良いタイミングで。最期、と決めた最期の、もう二度とリピートする事のない人生で、預言者の旧友との約束を果たす時が――。
別の世界に移動し、その存在が数字の羅列によって組み上げられたただのデータだとしても、預言者は、『坂月は』、自身を人間だと信じている。ユイナも、ソーサリーも、そして勇者も、その仲間達も。全員が、確かに個々の意思、自我を持つ人間だ、と。
故に、既に機械に支配された現実を知っても、預言者は諦めない。
予知し、助言し、助け舟を出す。ユイナが、そうしたように、今度は彼が、その立場に立つ。
例えばこんな話。
ただ強いだけの傭兵が、在り得ない死者に目を付けられ、世界を救う物語を紡ぐ話。
例えばこんな話。
ただ強いだけの傭兵が、世界を救う勇者となり、助言を貰う話。
例えばこんな話し。
勇者に助言した人間が、過去に、世界の滅びと共に全てを失った話。
例えばこんな話し。
勇者に助言した人間が、全てを失って尚、進もうとした勇者の影に隠れたとあるお話。
人それぞれ、例え、どんな目立たない人間にも、その人生があるのだ。
そして第二の人生を、坂月明人は預言者として進む。
(完)
伍代ダイチです。最後まで読んでくださった方はありがとうございました。お疲れ様です。
空想科学祭FINAL参加作品、ディラック・アーカイブス。期限ギリギリの完結、申し訳ないです。
SF作品ともいえないような駄作で申し訳ないです。作品の構想を練る時間がなく、実はこの作品は外伝の様な位置につけてあります。ですが、一応、これ単体でも読めるように書いたつもりです。どうでしたでしょうか。
書き直したい気持ちで一杯です。期限内投稿の難しさを痛感したような気がします。
これからも頑張りますので、どうか他の作品もよろしくお願いします。
(跋)