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7.the end of everything.―2


 視界が、白に呑まれた事で消滅し始める。上から下に。下から上に。右から左に、左から右に、と。視界が完全に消滅するまで、坂月はユイナと視線を重ね続けた。互いにその身が消滅するまで、視線を話さなかった。

 助けて貰った身で、恩返しをしようと思っていたが、出来なかった。一緒にいたいと思ったが、そうはいかなかった。

 坂月が白に飲み込まれ、ユイナが、黒に飲み込まれる。伸ばす手もない。最期の最期まで、二人は、その悲しく、笑んだ表情を重ねていた。




   6




「……、ッ、あ……」

 坂月は死んでなどいなかった。当然だ。『ユイナが全てを捧げて』彼を生かしたのだから。

 僅かな呻き声を上げる事は出来たが、視界が何故か戻らない。だが、全くないわけではなく、明瞭にするには時間が掛かると坂月は感じた。

 ぼやける視界で辺りを見渡しながら、坂月は長年寝ていたかの如く動きが鈍った身体を動かして起き上がる。その際に触れた地は草の感触がした。ぼやける視界が緑と青に染まっている事から、ここが草原の様な場所ではないか、と坂月は推測する。ふらふらとよろめきながらも足に力を込め、坂月は直立を確保した。

 未だ視界はぼやけている。手探りで周りに何もない事を確認して、ただ視界の回復を待った。

 暫くすると、フェードインするかの如く、視界は鮮明に景色を捉え始めた。

 そうして見えてきたのは、坂月の予想通り、青い空と新緑の草原が広がり、地平線を描く大自然の景色。空を埋めない程度に漂う雲が青のコントラストにメリハリをつけて見た目を何倍も良くなっていた。

「ここは……?」

 坂月はゆっくりと、歩き出す。辺りを見回しながら、変わらない景色を確認するように。

 近未来化された世界に、こんな大自然の景色が在ったのか――そう、思った時だった。

「ッ!!」

 坂月は、思い出す。

 長く眠っていたかの様な感覚で記憶が一時的に閉ざされていたか、だが、坂月は確かに思い出す。

 ――ユイナ。

 気付いたら即座に行動。足を止め、右手首を二回軽く叩き、コネクトを展開する。

 あの、世界が滅びる寸前の光景が脳裏を過ぎる。そして、彼女の、最期の表情も。続けて、自身が謎の白に飲み込まれた事も、鮮明に思い浮かぶ。

 コネクトが展開され、様々なアイコンが壁紙の前に並ぶ、トップ画面が表示される。そこに表示されるのは――一通のメールの受信履歴。

 焦燥に駆られているかの如く、坂月は即座にそのメールを展開する。

「ユイナ……」

 当然、差出人の欄には『ユイナ』の名前が記されている。本文には、長文が書かれていて、坂月は息を呑み、画面をスクロールさせながらその文を口内で溶かしながら読む。

 ――『明人へ。私は飛行機内で開始した予知アクセスで、「全て」を知ってしまった。だから、きっと私は、君がこのメールを読んでる時には、もういない。きっと、明人は私が無理矢理に明人を生かした事に悲しみを感じてると思う。でも、そんな責任はいらないからね。そして、本題。今から書くのは、飛行機内で見た記録。これで、全部ハッキリすると思う。ショッキングな事が書いてあるけど、落ち着いてね。取り乱さないでね。きっと、明人なら大丈夫』

 坂月は『本題』に入る前に、一度溜息を吐き出して空を見上げる。建物がなく、やたらと大きく、広く感じる事の出来る今まで見た事のない青空。暫く眺め、心を落ち着かせる。

 そして、覚悟。決意。坂月は再び視線をコネクトの画面へと戻す。

 ――『まず、第一に、私達がいた世界は「境界線ディバイドのガンマサーバー」だって事。サーバー。つまりね、この世界。私達が生きる世界は「仮想空間」なんだよ。「現実」ので、人間が作った機械のサーバー上に設置された仮想空間。私達は、そこに意識だけを投影された、云わば偽者の人間。私達の本当の身体はね、機械が管理する「現実」に、あるんだよ。意識だけが、この世界――境界線ディヴァイドにあるの。突飛な話しでしょ? 信じられないけど、これが、事実なんだよ。私達は、ただの0と1の集合体。そのアバターを操作する意識が、あるだけ』

 ユイナの文は、余りに可笑しな文だった。とてもじゃないが、理解の範疇を超えてしまった文。坂月は思わず苦笑する。最初も、そうだったな、と思う。ユイナは坂月の理解できない言葉を並べて、それでも、坂月を助けようとした。

 そんな記憶あってからか、坂月は、もう、疑う気にはならなかった。例え、理解できない、絶対にありえない、という事を告げられようとも、坂月は絶対にユイナを信じる。それ以外にない。

(えぇと、つまり……? この世界は仮想空間で、……オンラインゲームでもしてる感じか? そんな事もあるのか)

 ふと、コネクトの画面から視線を離して、坂月は自身の腕や足を触ってみる。感触は確かにあり、これが、仮想現実だといわれても信じられなかった。だが、坂月は信じる。信じてみせる。

 ――『でね、ガンマサーバーって先述したでしょ。そこから分かる通り、この世界「境界線ディヴァイド」は、「無数にある」の。アルファサーバーと、ベータサーバーってね』

 まさか、と坂月は思った。ハッとして、コネクトから視線を外し、辺りを見回す。近未来化された世界では、『ありえない』も同然の光景。まさか、まさか。ユイナは、坂月を助けるために――、

(ここは、ガンマサーバーじゃない……!?)

 そうだった。ありない世界。という事は、また別の世界、という事なのだ。

「くっそ……」

 ユイナの事を信じきっている坂月は素直にその現状を認めて、思案する。忌々しげに吐き捨てて、坂月は苛立ちを覚える。

 坂月は歩き出した。歩いて、何か見えてこないか、と景色を進めながら、コネクトに表示されている文章に目を通す。


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