7.the end of everything.
7.the end of everything.
ユイナが告げた『大変な事』。それは、すぐに目で見て分かる程に現れていた。
エラーの急激な拡散。拡大、そして、飛散。世界を滅ぼすといわれていたエラー。突如としてランダムの位置に出現し、その付近にあるモノ全てを飲み込んでしまう恐ろしい存在。それが、爆発的に増えたのだ。
その数は最早観測しきれない。DFが、そちらの処理に手を追われ、坂月達を見つけても目もくれない程に、だ。
そうして、運良くか悪くかDFの追跡から逃れる事の出来た坂月達は、次、どうすれば良いのか、と考える事となる。
「世界がエラーの存在に掻き消されることで、滅び、何一つとして存在がなくなってしまう」
ユイナが長い時間をかけてみた未来は、その酷なモノだった。
坂月は言う。
「俺の力で、どうにかならないか?」
と、提案した。坂月は驚異的な予知能力に加え、驚異的な干渉能力まで獲得した。その力は世界有数、いや、最強と言っても過言ではない能力。その力をフルに使えば、どうにかできるのではないか、という考え。突飛した話だと思われるだろうが、事実、坂月の力はそれ程のモノだったのだ。
だが、ユイナは首を横に振る。とても、残念そうに、だ。
「やってみてよ」
そう言って、ユイナは空を見上げて二人の真上に浮かび、空を隠すエラーを視線で指す。言葉に従って坂月は空を隠すエラーを見上げて、力を行使してみるが――結果はやはり、といった所である。
「予知で、見たのか」
呆れた様に坂月が言うと、視線を戻してユイナは首肯する。「そうだよ」
「どこまで見た?」
同じく視線を戻して、坂月が問う。
「世界が、滅びる光景まで。私達がどうなったかは、見てない。見たくない」
「そうか」
坂月は大人しく追求をやめる。自身も、そんな未来等見て生きる希望を失いたくない、と思ったからだ。人間として、当然の事である。
はぁあ、と今までより幾分か気楽さの感じ取れる溜息を吐き出して、歩き出しながら、坂月は独り言の様に言う。
「DFの追っ手もなくなったし、世界が終わる事も知っちまった。……、どうすっかね」
「…………、」
ユイナは敢えて言葉を返さず、ただ黙って坂月の後を追った。
昼食を適当な飲食店で取り、適当な一日、ユイナと出会ってから初めて落ち着く事の出来る在る意味新鮮な一日を終えて、翌日へと移る。
何をするか、そんな贅沢なで悲惨な悩みを抱えるとは、坂月も思っていなかった。当然、ユイナも。現状とその問題を照らし合わせれば酷な悩みだ、と思えるが、そうは思いたくないのが心境。敢えて考えを向けないでいた。
ただの散策。アルファに居住を置いていた坂月はガンマに来る事が滅多にない。軽く、旅行気分で浮かれてもいた。当然、その心境は隠しているが。
「そうだ、ユイナ」
街中をただふらふらと放浪する二人。街中を歩きながら、不意に坂月がユイナへと視線を下ろして言った。
「何かな?」
きょとんとした表情でユイナが首を傾げて坂月を見上げる。その可愛らしい表情に坂月は思わず一瞬鼓動を高鳴らせるが、すぐに隠して、言う。
「デートでも、してみるか」
気さくな声色。ただ挨拶するかの様なスムーズな言葉が、坂月の口から漏れた。
怠惰の象徴の様な性格をして『いた』坂月の、変化だった。世界が滅びるという恐ろしい状況。そして、命と人生を賭けた冒険をともにした事で、坂月のユイナに対する感情に変化があったのかもしれない。
言葉に一瞬面くらって呆然とした表情を浮かべたユイナだが、すぐに柔らかい笑みを浮かべて、「いいね。デート」
ふわふわと浮いてしまいそうな声色で、返した。
だが、
ユイナは軽く俯き、首を横に何度か振った。
そして、告げる。
「もう、遅い。もっと早く会えたら、もっと、別の方法で出会えたら、よかったよね……」
その瞬間だった。坂月の視界の端、遥か僻遠の向こうから――大量のエラーが、爆発的に増殖し、世界を飲み込みながら侵攻する景色が見えてきた。