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2.Drop the everythin'.





2.Drop the everythin'.




 すべての事象にはそれまでの過程プロセスがあり、原因と結果は直結していると思われがちだが、理不尽という言葉がある通り、それが全てではない。というのが世の真実である。

 そして今、まさに理不尽な事情が訪れる。

「生体認証一致を確認。彼が目標ターゲット、坂月明人だ」




 坂月明人は少しだけ目付きの悪い一九歳の青年だった。高校を出てからは就職活動をせず、ただ一人暮らしがしたいという理由のみで実家を出たフリーターの青年である。漠然とした夢、目標すらなく、ただ、世間の中に生きるためだけに働き、生活をしているそれ以上でもそれ以下でもない青年だ。

 気怠い。限られた睡眠時間に苛立ちを感じ、そう思いながら今日もバイト先へとダラダラと歩いて向かっている。近未来化した町並みも、そこで生まれ育った坂月にとっては新鮮味の欠片もない。ただ、週六で歩く最早見慣れた道である。

 そんな道をダラダラと、無気力に歩きながら、バイト先のファミリーレストランまであと数百メートルと迫った時だった。

 坂月の前方から、見慣れた姿が三人分、迫って来ていた。

 三人の服装はサイズか見た目まで全てが同じだ。襟詰めを模した近未来化された高機能制服スマートコスチューム。薄く青い色で統一されたその姿はこの国、アルファ所属のDFの証である。

 DFとは、通称であり、正式名称は『境界線防衛軍』という。その役目所謂警察であり、軍隊でもある『国家権力』である。だが、その活動は正義のため、と目標されており、DFは映画や漫画の様な不幸な展開を築いた事はない。

 だから、道行く人も、坂月もDFはパトロールでもしているのだろう、と思い込んで特別気にせずはいなかった。

 だが、DFの三人はどうしてか、坂月を囲んでしまった。

「はい?」

 坂月は突然の出来事に眉を顰める。すると、もとより厳つい目付きが更に厳つく変化してしまった。相手が不良なんていう低俗集団だったら喧嘩にでもなっていたかもしれない。だが、相手は国の安全保障軍団DFだ。坂月のその元来の表情が多少強張ったくらいでは眉一つ動かさない。

 DFが民間人を囲むなんて光景は未だかつて殆ど見られた事がなく、道行く人々もその光景に足を止め、目を見開いて驚いている。それぞれ出社等の各々の用事があるだろうに、だが、それでも全員が足を止め、DFと坂月の方へと視線を投げていた。

「なんですか」そう、坂月が言い終わるよりも前に、襟詰め集団の真ん中、つまりは坂月の真正面にたつ男が口を僅かに開いた。

「お前が、坂月明人だという事は分かっている」

 言葉に対して坂月は「そりゃそうだろうな」と思わず言ってしまいそうになるが、そこは理性で堪える。

 近未来化が進んだこの世界では生体認証くらい数秒を要さずに完了する事が出来る。DFであれば国から支給された最新鋭の装置があるはずだ。故に、坂月の本人照合くらい出来ないとおかしいと一般人である坂月でさえ思う。

 更に眉を顰め、疑問符を頭上に浮かべる坂月に対して、真正面に立つ男は無表情のまま続けた。

「エラーを出現させる悪しき存在、『アカシック・チャイルド』として、DF本部まで同行してもらおう」

 そう一方的に言い切った男。そして、坂月のサイドについていた二人が一歩、坂月を脅すようにして迫った。続け様に正面の男も、だ。

 思わず一歩身を引く坂月。

「は? 何言って……。仕事、あるんだけど」

 ツンとした態度で、内に億劫を隠し、強気な態度でそう言い放ち、その場から逃れようと踏み出す坂月。だが、DFの連中は『本気』だった。正面の男、そして右の男の間を抜けてそそくさと歩き出そうとしたのだが、両肩に手が掛けられ、どうしても坂月の足は止まる。その一連の動きで、坂月の表情に焦りが出てきた。

 当然、坂月はDFの連中から勧告の様に受けた言葉に思い当たる節はない。

 連中の言った『エラー』という言葉、それは、世界規模の問題だ。エラーは突如として世界を喰らうために出現する『穴』である。漆黒の、先の見えない穴。突如として全く予測の出来ない不規則な位置に出現し、その近辺にある全ての物、者、モノをありとあらゆる全てを消滅させてしまう恐ろしい『世界のエラー』である。大小様々な物が確認されているが、あくまで規模の変化のみで、消滅を司るという特性は変わらない。厄介な代物である。

 そんな世界規模に、坂月は関わった記憶もなければ、関われる力もないと思えた。

 続いて疑問に上がる言葉は『アカシック・チャイルド』という言葉。坂月は一切聞いた事のないその言葉に首を傾げるしかない。だが当然、首を傾げている余裕もないのだが。

 坂月は引きつった笑みを表情に貼り付けて、眼前に突如として出現した脅威から遁走したい気持ちを堪えつつも、隠しきれず、数歩下がる。下がりながら、言う。

「い、いや。人違い、っす、よ」

 DFの人違いなどあるはずはない、と気付いている内面とは反対に、焦燥が彼を急かし、そんな矛盾した言葉を吐かせてしまう。

 そこでやっと、DFは首を傾げた。

「何を、焦っている?」

「そ、そりゃあ……、仕事に遅刻しそうだから」

「我々はそんな事よりも重要な件について話している」

 右に立って、坂月の肩に手を置く男が始めて声を上げて言った。自然と、坂月の視線はそちらへと流れる。そして、気付く。視界の隅、下の方に、男の手に、握られているそれに。――手錠だ。近未来化された高機能手錠である。それは装着した時点でレーザーで動きを封じ、コネクトの機能の全ても奪う。そんな、一般人である坂月にとって恐ろしい代物。

 思わず表情が引きつった。そして、反射的に数歩、更に下がってしまった。そして、DFの連中が僅かに空いた距離を再び元に戻そうと詰め寄る。

 そうしている内に時間は体感以上に過ぎたか、坂月のコネクトが着信を告げる音を鳴らした。聞こえているのは坂月だけだ。そして、他人には不可視の状態『不可視状態』へと設定されているため、自動的に右手首上に展開したディスプレイ上にゴシック体の文字で書かれる、店長、という文字に気付くのは坂月だけ、のはずだったが、そこは国の管理者同然のDFか、左に立つ男が「仕事先からの電話のようです」と静かに真ん中の男に告げた。

 義務的な動きに最高の装備に坂月は連中がDFの偽者なんかではないととっくに気付いている。故に、理解できないでいた。

 ただ、仕事へと向かっている途中で、理解不能の事態に陥ってしまった。呼吸の一つでも乱せばパニックに陥ってしまうのではないかという程、坂月は緊張状態にあった。

「出ていいっすか? 理由を話さないで遅刻するのも癪なんで」

 震える声でそう言い、右手を左手で指して言う坂月だが、DFは首を横に振って否定した。

「連絡は我々からしよう。君はただ、我々に同行すればいい。今すぐに」


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