6.I wanna save her.
6.I wanna save her.
「はぁ、はぁ、はぁ……ぐっ……、くっそ」
空港から逃げ出す事の出来た坂月とソーサリー。ユイナを失ったまま進み、タクシーを拾ってガンマの町にまで来ていた。
町に降り立ってすぐ、だ。
「なんで、なんだユイナを見殺しにする様な真似をしやがったッ!!」
坂月は感情を爆発させ、ソーサリーの胸倉を掴み上げ、建物の壁へと押し付けた。周りには人がいる。だが、それでも、坂月は構わなかった。抑えきる事が出来なかった。
喧騒が生まれるが、今までの様にDFの姿があるわけでなく、ただ、喧嘩か? と思うだけか、野次馬は余り出来なかった。
坂月は怠惰を象徴する様な性格の男だった。故に、ここまで感情を爆発させ、表に出す事は珍しい。坂月自身も驚いているのだろうが、その対処に回れる程の心の余裕はなかった。
「なぁ!? なんでだよ!!」
そう叫び、坂月はフードが背中に落ちた事も気にせず、ソーサリーを掴む手に強く力を込めた。眼前のソーサリーの怜悧な表情が僅かに歪む。
だが、ソーサリーは冷たくも即座に坂月を突き放し、軽く衣服を腹って、睨む。
「ふざけるな。俺のあの判断がなければお前も捕まっていただろうが」
ソーサリーの嘘偽りない現実的な、冷静且つ酷な言葉に坂月は反論が出来ず、忌々しげに歯噛みする他なくなってしまう。
怯んだ坂月に一歩迫り、ソーサリーは彼の俯きがちな表情を覗き込み、言う。
「仕方の無い犠牲だ。あぁしなければ、俺達がやられていた。それに、俺達は既に他にいるかも知れないアカシック・チャイルドを見逃している。生きるための事だ」
そう言って、ソーサリーは励ます様に坂月の肩に手を乗せてやる。だが、坂月はその手を乱暴に振り払った。
「助けて、貰ったんだ」
そして、言った。
表情を上げ、ソーサリーに迫るかの如く、坂月は強い口調で言う。
「……だから、助けたい」
ただ真っ直ぐに、率直に、坂月は言った。言い切った。
その言葉はソーサリーにも容易く予想できたか、ソーサリーは呆れたような口調と態度で返す。
「無理だ。この国で連行され、まず送られるのはアルファの役人が駐在しているアルファ大使館だ。いくらここがガンマだろうが、大使館はアルファも同然。足を踏み入れる前にまず、捕まるだろうよ。言い方を帰れば、確かにユイナの所にいけるが」
「でも、諦めるわけにはいかにだろう」そう言って、坂月はしっかりと視線をソーサリーへと沿えて、言う。「俺は一人でも、行くからな」
声色は強い。固い意志が、一発で見て取れるモノだったのは言うまでもない。
そんな坂月の意思は確かに、そして、膨大な量とともにソーサリーに伝わった。伝わってしまっていた。
言うと思った、という言葉は口内で秘匿に溶かして、ソーサリーは僅かな沈黙と共に思考を巡らせる。
そして、数秒かけて出した言葉が、「どうするつもりだ?」
その問いに対して、坂月は返す。
「俺には予知の力がある。どうにか、してみせる」
「予知ではどうしようもない事だってある」そう言ったソーサリーは、はぁ、と嘆息し、頭を抱えながら、言う。「俺も一緒に行こう」
ソーサリーは、心細かったのだ。故に、アカシック・チャイルドのリストをクラッキングして得て、連絡を取った。そして、合流した。誰かといないと、落ち着けないのだ。強がっているわけではない。元々その性格のため、冷静、怜悧、クールに見られがちだが、見た目と中身は一致しやしない。
「俺なら、『あの力』がある。多少の手助けくらいはできるだろう。少なくとも、予知だけの状態より、ましなはずだ」
言葉こそ冷静。だが、彼女の心中には不安の色が滲み出ていた。
「本当か?」
「あぁ、本当だ」
坂月も不安は隠せないのだろう。問う声色に、振るえが感じ取れた。
そして、二人は大使館へとユイナを救出に向かう事となった。なってしまった。