4.follow me.―1
そう呟くように言って、ユイナは可視状態のままコネクトを操作する。その光景を興味から坂月は覗き込む。
すると、だ。
「何これ!?」
「なんだ……?」
二人とも、メール画面をみて、驚愕したのだった。
二人は顔を見合わせる。互いに、まさか、と言った感じでだ。
ユイナのコネクトに表示されるそれは、『アカシック・チャイルドと名乗る者からのメール』だった。内容はこうだ。
『俺はアカシック・チャイルドのソーサリーだ。俺はクラッキングの技術を持っている。それで、このメールを俺の入手したあるリストに載っていたアカシック・チャイルド全員に送っている。返事が出来る奴の数は期待してない。だが、出来るならして欲しい。集まり、集団となって抵抗しよう。俺の技術でネット関連ならなんとでも出来る。頼む。俺も心細いんだ』
短くも、長いそんな、ゴシック体の文字の羅列だ。
「どう思う?」
ユイナは辺りを確認した後、すぐにコネクトを閉じ、坂月を見上げてそう言った。
対して坂月は、真っ直ぐユイナを見詰め、言う。
「どうって……。すぐに連絡するしかないだろ。タイミングが良すぎる」
「タイミングが良すぎる、んだよね。だから罠かもって思うのは当然じゃないかな?」
「……つっても、それしか方法がないんじゃないか?」
「うーん……」
確かに、タイミングが良すぎた。クラッカーを探している、と呟いた途端に、コレ、だ。運が良いだけなのかもしれないが、確かに、疑いの余地がある。そこを一歩踏み出して進もうという坂月と、対称的にこれを罠だと感じるユイナ。
予知をしようか、と坂月が思い、言おうとした時だった。ユイナが声を上げる。
「うん。そうだね。何にせよ。試すしかない、よね」
そう言って、何度か頷いてコネクトを展開させた。不可視状態で坂月に内容は見えないが、今、ユイナは返事を送ったのだろう。
二人は再び歩みを始める。時折姿を未見せる徘徊するDFから逃れながら、坂月達はソーサリーの返事を待ちながら、確かに進んだ。
暫くして、返事はやってきた。二人が返事が来ないのでは、と思い始めてから暫くの時間が経過した後、であった。
ユイナのコネクトは可視状態に設定され、坂月も早速その中を覗き込む。
『返事があって、助かった。とにかく、合流しよう。現在地はどこだ?』
返事を見て、ユイナは表情を訝らせる。何にせよ、合流しない事には変わりない。だが、いざ現在地を聞かれると、再び『罠ではないか』という思考が浮かんできたのだ。ここまで心配をするのは当然だ。二人は、アカシック・チャイルドは、何か一つでもミスを犯せばDFに捕まり、連行され、『処理』される可能性があるのだから。
心配でしかたがないユイナはそこで、坂月と向き合う。
「予知しようか。君の練習も兼ねて、ソーサリーが本物かどうか」
坂月は首肯する。坂月自身、つい数時間前に予知を可能にしたばかりだ。実践を重ねたい、という気持ちもあった。それに、予知で事実が確認できれば一石二鳥である。
と、なれば早速、と坂月とユイナは手頃な路地裏へと隠れる。
「じゃ、やるぜ」
そう言って、坂月は瞼を下ろし、『集中』する。
坂月は自身の世界へと侵入する。その際、実は『ディラックの海へのアクセスをスルー』しているのだが、ディラックの海へのアクセスを知らない坂月はその事実に気付かない。
(……ソーサリーと俺達の関連情報)
坂月は文字や光景が敷き詰められる回廊を歩く。敷き詰められ、羅列された文字は重なりに重なり、読み取れない程に詰められている。そんな場所に坂月はいる。こんな中で限られた情報を見つけられるのか。だが、坂月は見つける。
坂月がその恐ろしく『詰まった』回廊を歩いていると、一つだけ、浮かび上がるように輝く文字があったのだ。
――それが、坂月の目的。
「見つけた」
そう確認する様に呟いて、坂月はその文字へと歩みを進める。
「どうだった?」
坂月が目を覚ますまで、やはり一瞬と経っていなかった。それにユイナは驚愕するが、その事実は何故か隠してしまう。
坂月は情報の中を歩く、という感覚を体感してしまっているため、思考だけが加速しているという事実を把握できていない。故に、自分の予知は時間が掛かっている、と思い込み、自身の予知の異常さに気付く事が出来ないのだ。
それはさておき、坂月は伝える。
「少ししか見てないけど、間違いねぇと思うぞ。俺とお前、それとソーサリーとやらが空港で三人いる、という光景を確かに見た」
「……そう。じゃあ、そうしようか」
坂月の言葉にユイナは素直に首肯した。坂月の異常な予知の速さに、ユイナは秘匿に信頼を置いているのかもしれない。
じゃあ返信するね、とユイナはコネクトを操作して返信文を作成し、送信。
二人はそれを済ませると路地裏から出て、ソーサリーと接触する光景だったと坂月がいう空港を目指す事となった。
その道中、返信は早く届いた、
『分かった。アルファ国際空港で落ち合おう。俺から声を掛けるから心配はするな。DFの目から逃れつつ、空港内にいてくれれば良い』
『分かった。空港で、待ってる』
そうして、二人はアルファ唯一の隣国への移動手段。アルファ国際空港へと向かうのだった。