表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こてつ物語6  作者: 貫雪
8/24

8

 高速に乗ってから、目的の「Y市」に入るまでは早かった。ところが、そこから由美達のいる山間のスキー場周辺までは結構遠かった。空き腹をカーブに振り回されながら、どうにか目的のホテルにたどり着く。


 ロビーに入った途端に、タエの、大げさなほどの声に出迎えられた。


「まあ! 礼似さんじゃ、ありませんか! 偶然ですこと!」


 あんたのおかげで、私はここに来たんじゃないの。そう言いたい気持ちをおくびにも出さないようにする。これでも元は詐欺師。一応のプライドはある。いつものようにこてつを連れた由美も気がついて(当然だ)声をかけて来た。


「こんばんは。こちらへはスキー旅行ですか?」


「ええ、たまには女一人で滑るのも、悪くないかな? って思って」

 愛想よく適当な返事をする。由美は礼似の荷物を見ると、


「今着いたばかりですの? お腹が空いたんじゃありません? よろしかったらお食事、ご一緒しませんか?」


 それはもう空腹だ。夕食時にいきなり移動させられたのだから。礼似は本気で頷いた。


「私達もこれからなの。タエさんが何だかぐずぐずしているんですもの。ちょっと変わったお食事が楽しめるのよ」


 タエがぐずぐずしたのは、自分の到着を待っていたのだろう。しかし……変わった食事?


「じゃあ行きましょうか」

 由美は荷物を預けた礼似を、そそくさと引っ張って、華やかにデコレートされた(!)自家用車に、こてつもろとも乗せた。こてつは当然な顔押して助手席に収まっている。車はすぐ、目的地に着いた。


「ここ・・・、学校?」

 礼似は建物を見て唖然とする。


「学校を改造して宿泊所にした所なんですって。今はいろんな合宿を行っているそうなんだけど、ここでお食事をとろうと思うの」

 由美は楽しげに言うが、何だか嫌な予感が……


 出された食事は、学校給食だった。それも、今時の、こったものではない。ふた昔以上前の、素朴な給食。


 揚げパン。ビンの牛乳。竜田揚げ。クリームシチュー。みかん。これらの物がアルマイトの食器に入れられ、トレーの上に乗せられて、先割れスプーンまで添えられていた。


 一日中、寒い思いをして調べ回った挙句、夕食がコレ?……ほとほと、こなきゃ良かった。こんなところ。


 由美は揚げパンをちぎっては、懐かしそうに味わいながら、


「こてつ、お前は食べられなくて残念ねえ」

 と、こてつ用に用意された食事を満足げに味わうこてつに、一方的に話しかけている。どうやら由美は、この素朴な食事を楽しんでいるらしい。


「今度主人にも、これを作ってあげようかしら?喜ぶかしらね?」


 由美の言葉に、一瞬、会長が、学校給食の皿を前に、唖然とする姿が、礼似の脳裏に浮かんでしまった。



「やっぱり、付けられているわね。視線を感じる」


 スキー場に隣接されたホテルの部屋で、由美が温泉に入っている間、礼似はタエと話していた。ベッドの上ではこてつが例のごとく、真っ直ぐに寝ている。


 あの後、あの食事ではさすがに寂しいと、ホテルのレストランで食事をしなおしたのだが、その時から視線はずっと感じている。近くの席に落ち着きのない感じの、若い男が二人、座っていた。彼らの視線に違いない。


「それにしても、ここ、どう考えてもペット可って感じじゃないわ。会長が無理やり手をまわしたんでしょ? こんなことするから、奥様がかえってつけ狙われるのよ。会長もどれだけ奥様とこてつに甘いんだか……」


「それより、私、スキ―、初心者でろくに滑れないんです。とても奥様に張り付いてなんていられません。突然で申し訳ないんですが、何とか、奥様を守ってあげて下さい」

 タエはすがるように頭を下げた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ