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こてつ物語6  作者: 貫雪
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6

「結局次の手がかりは、北海道か」

 礼似は飛行機の時刻を調べながら言った。


「そうね。この男もこの街でのルートを確保するためにチンピラ達に声をかけている途中だったみたいだし」


 この街でのクスリの広がりは、幸い大規模には至っていなかった。こてつ組傘下の組織が深く関与していた様子も見受けられない。北海道の元締めの男と知り合ったこの男の、スタンドプレーだったようだ。


 あらかた噂どまりで、子供らも三、四人が数回好奇心から手を出したようなもので、対応が早かったのが功を奏した。それでも本人達の未来を考えれば深刻なのだろうが。


「こんなのが紛れ込んでちゃ、こてつ組の恥さらしだわ。もう二、三発、殴っときゃよかった」


「やめときなさい。手が痛むだけ損よ」

 まだ殴り足りない礼似に、土間はそう言った。


「それじゃ、土間の刀で叩くとか……」


「嫌よ。刀が腐る」


 二人に言いたい放題言われている男は、華風組の事務所の片隅で、とっくに伸びていた。


「私にここに連れてこられた事を、むしろ感謝してもらわなきゃ。こてつ組だったら、命が無かったかも知れないんだから」

 土間は伸びている男を見降ろしながら言った。


「サービスよ。一応、貿易会社の社長の名前を吐いたからね。たぶん、ダミー会社だろうけど」


 礼似もけがらわしげに男を見下ろす。こいつ、あとで、ゴミ置き場にでも投げておこう。生ゴミの日じゃ、ないんだけど。


「本当にあの娘、大丈夫かしら? 母親と出頭はしたみたいだけど……」

 土間は気になっている様子。


「大丈夫だって。プレッシャーは親への愛情の裏返しだったんだし、親の束縛だって、愛情の深さからでしょ?互いに理解しあえれば乗り越えてくれるわよ。家族なんだから」


 そこは自分にも思い当たる。礼似は家族への憧れがあるから、余計そう、思いたいのだろう。


「でも、これは元を叩かなきゃだめね。そういうルートをつなぎたがっている人間がいる以上、いつまたクスリがはびこってくるか分からないもの。水際で止めるにも限界があるし」

 土間は深刻な面持ちで言う。


「分かってるって。だから私がわざわざ調べに行くんじゃないの。よりによって真冬の北国なんかに」


「礼似は寒いところが苦手だったわね。仕方ないでしょ、真柴は捜索を受けたばかりで、あんまり御子に表だって行動させたくないし、私だって組を放って出歩いていられないし」


「あーあ。どうせなら沖縄とかだったらよかったのに……。それにしても、北海道って、昔は麻の産地だったのね。今でも原野には大麻が雑草同然に生えてるところもあって、こっそり採りに行った奴が逮捕されたりしてる。……意外とこの手の事に、ハードル低かったんだ。高校生に広まった事もあったみたいだし、喫煙率も高い。健康的なイメージ、強かったのになあ」

 礼似は残念そうに言うが


「何言ってんの。土地が不健康な訳じゃないでしょ。そんな遠い昔の産業の名残を悪利用して、人を食い物にして儲けようとする人の心が不健全なのよ。まして、タバコと一緒にしないの。クスリなんて全くの別物。そういう発想自体がハードルを下げてるんだから」

 と、土間は諌めた。


「それもそうね。クスリとやせ薬をごっちゃに考えてた子もいたくらいだものね。仕方ない。一人で調べて来るか。香も使えないし。えーと、札幌のホテルに泊まって、港に行って、あの娘のいたマチに行って……」

 調べながら必要事項のメモをとる礼似に土間は声をかけた。


「あんた、一人だからって、あっちで男騙して一儲けなんてするんじゃないわよ。仕事で行くんだからね」


「わ、分かってるって!」

 礼似は振り向きもせずにそう言って、慌てて華風組をあとにした。


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