24
せっかくだから帰りは一緒に、という由美の提案で、帰路は全員がフェリーに乗る事になった。その由美があまりにもしょっちゅう、こてつの様子を見に行くので、落ち着かないことこの上無かったが、そこさえ目をつむれば、天気に恵まれた穏やかな航海で、快適な船旅を楽しむ事が出来た。
港に着くと、由美達はそのまま車で、御子達も真柴組の迎えの車に乗り込んで、家路に向かう。香もてっきり一緒に乗るものと思っていると、
「あんたは別で迎えが来るから、もう少し待ってなさい」
といわれてしまった。
訳も分からず待っていると、見慣れた礼似のバイクがやってきた。なあんだ。礼似さんが迎えに来たのか。
「大した荷物もないんでしょ? このまま後ろに乗って」
礼似にそう言われてヘルメットをかぶる。バイクの後ろにまたがると、順調な運転で自分の街に帰って来た。
ところがバイクは礼似の部屋へとは向かわずに、見知らぬ住宅街に入ってしまった。
「部屋に帰るんじゃないんですか?」
香が不思議そうに聞くと、
「勿論帰るに決まってるじゃない」
との返事。訳の分らぬうちに、バイクはマンションらしい建物の前で止まった。
「ここは?」
唖然とする香を引っ張って、礼似はマンションの部屋の中へと連れて来た。
「どう?ここなら二人で暮らすには十分な広さでしょ? 気に入った?」
「気に入った? って……なんで?」
「なんでも何も、あの部屋じゃ二人でいつまでもいられないわよ。せまっ苦しいったらありゃしない。これからあんたの荷物だって増えるんだろうし、ああ、荷物と言えば」
礼似は個室の方のドアを開ける。
「こっちがあんたの部屋ね。隣が私。荷ほどきは自分でしなさいよ。荷作りはやってあげたんだから。まあ、大した荷物じゃなかったけどね」
見ると自分の荷物が段ボール箱一つにまとめられて、部屋の真ん中に置いてある。
「あんたのカーテンと、ベッドは、明日買いに行こう。私じゃあんたの好み、分からないもの」
「本格的な、ルームシェアリングですね」
香はそういったが
「なに、生意気な事言ってんのよ。家族が一緒に暮らすのは普通でしょ。あんた、私の妹なんだから」
と礼似は言う。
「……妹じゃなくて、妹分です」
「同じようなもんよ。私が家族として認めたんだから。アネキの言うことには黙って従っていればいいの」
「でも……敷金とか……家賃とか……」
「あんたいつからそんなに馬鹿になったの? 砥ぎ代も受取らずに、土間と飲んじゃったくせに。どこに敷金なんてあんのよ。家賃は……そうねえ、一応これから少しは貰っとこうか。あんたがそれでいいなら」
「でも、私、礼似さんの所に、一方的に転がり込んだのに……」
礼似は思わず噴き出した。そのまま、笑い転げてしまう。
「あっはっは! か、香。あんたにそんな遠慮心があるとは思わなかったわ。もっと神経太いと思った」
「これでも人並みの神経は持ってるんです」
香は膨れた。
「ああ、そうじゃなきゃ困るわ。妹の方が神経図太いんじゃ、こっちも困るし。ちょっとは素直でいてくれないと」
「だから妹分ですってば」
「あんたねえ。家族なんて、お互いが守りあいたいと思ったら、それだけで十分なのよ。あんたはまぎれもなく、私にとっては妹なの。分かった?」
そんな。急にこんなことされたって……。
香は立ちつくしたままでいる。礼似はそれでも声をかけた。
「今夜は、引っ越しそばでも、とって食べようね。家族になった記念に」
少し、照れた笑顔だった。
完