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こてつ物語6  作者: 貫雪
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 せっかくだから帰りは一緒に、という由美の提案で、帰路は全員がフェリーに乗る事になった。その由美があまりにもしょっちゅう、こてつの様子を見に行くので、落ち着かないことこの上無かったが、そこさえ目をつむれば、天気に恵まれた穏やかな航海で、快適な船旅を楽しむ事が出来た。


 港に着くと、由美達はそのまま車で、御子達も真柴組の迎えの車に乗り込んで、家路に向かう。香もてっきり一緒に乗るものと思っていると、


「あんたは別で迎えが来るから、もう少し待ってなさい」

 といわれてしまった。


 訳も分からず待っていると、見慣れた礼似のバイクがやってきた。なあんだ。礼似さんが迎えに来たのか。


「大した荷物もないんでしょ? このまま後ろに乗って」

 礼似にそう言われてヘルメットをかぶる。バイクの後ろにまたがると、順調な運転で自分の街に帰って来た。


 ところがバイクは礼似の部屋へとは向かわずに、見知らぬ住宅街に入ってしまった。


「部屋に帰るんじゃないんですか?」

 香が不思議そうに聞くと、


「勿論帰るに決まってるじゃない」

 との返事。訳の分らぬうちに、バイクはマンションらしい建物の前で止まった。


「ここは?」

 唖然とする香を引っ張って、礼似はマンションの部屋の中へと連れて来た。



「どう?ここなら二人で暮らすには十分な広さでしょ? 気に入った?」


「気に入った? って……なんで?」


「なんでも何も、あの部屋じゃ二人でいつまでもいられないわよ。せまっ苦しいったらありゃしない。これからあんたの荷物だって増えるんだろうし、ああ、荷物と言えば」

 礼似は個室の方のドアを開ける。


「こっちがあんたの部屋ね。隣が私。荷ほどきは自分でしなさいよ。荷作りはやってあげたんだから。まあ、大した荷物じゃなかったけどね」

 見ると自分の荷物が段ボール箱一つにまとめられて、部屋の真ん中に置いてある。


「あんたのカーテンと、ベッドは、明日買いに行こう。私じゃあんたの好み、分からないもの」


「本格的な、ルームシェアリングですね」

 香はそういったが


「なに、生意気な事言ってんのよ。家族が一緒に暮らすのは普通でしょ。あんた、私の妹なんだから」

 と礼似は言う。


「……妹じゃなくて、妹分です」


「同じようなもんよ。私が家族として認めたんだから。アネキの言うことには黙って従っていればいいの」



「でも……敷金とか……家賃とか……」


「あんたいつからそんなに馬鹿になったの? 砥ぎ代も受取らずに、土間と飲んじゃったくせに。どこに敷金なんてあんのよ。家賃は……そうねえ、一応これから少しは貰っとこうか。あんたがそれでいいなら」


「でも、私、礼似さんの所に、一方的に転がり込んだのに……」


 礼似は思わず噴き出した。そのまま、笑い転げてしまう。


「あっはっは! か、香。あんたにそんな遠慮心があるとは思わなかったわ。もっと神経太いと思った」 


「これでも人並みの神経は持ってるんです」

 香は膨れた。


「ああ、そうじゃなきゃ困るわ。妹の方が神経図太いんじゃ、こっちも困るし。ちょっとは素直でいてくれないと」


「だから妹分ですってば」


「あんたねえ。家族なんて、お互いが守りあいたいと思ったら、それだけで十分なのよ。あんたはまぎれもなく、私にとっては妹なの。分かった?」


 そんな。急にこんなことされたって……。


 香は立ちつくしたままでいる。礼似はそれでも声をかけた。


「今夜は、引っ越しそばでも、とって食べようね。家族になった記念に」

 少し、照れた笑顔だった。



                                     完

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