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こてつ物語6  作者: 貫雪
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 やれやれ。一体、奥様はどれだけ病院に注文を付けたんだ? 御子も良平も、いい加減うんざりしていた。


 次から次へと矢継ぎ早に検査がおこなわれる。息つく暇もないくらいだ。


「はい、次はMRIを撮りますからね。この廊下を真っ直ぐ行って、左に折れて下さい。すぐ、分かりますから」

 看護婦はテキパキと指示を出したが、良平は異を唱えた。


「俺、さっき、CTスキャンを撮ってきたばかりなんですが」

 横で御子も大きくうなずく。


「CTと、MRIは、基本的に違う検査なんです。CTは身体の内部を輪切りに写して、全体に異常が無いか確認するんです。MRIは、より詳細な画像で、チェックできます。立体的に血管の一つ一つまで、診断できますから」


 自分達にそんな事までチェックが必要とはとても思えないが、どうせ、奥様があれこれ言って、会長が押し切ってしまったに違いない。病院にとっても、いい収入になるんじゃないだろうか? こりゃ、逆らっても無駄だろう。


「こうなったら、人間ドックに来たとでも思うしかないな」

 二人はため息をつきながら、次々と検査をこなした。


 ようやく一旦病室に戻ると、そこには香とハルオの他に、本間親子の姿があった。お詫びとお礼に来たらしい。


 すっかり自信をつけたハルオは、張り切って香に金魚のフンよろしくついて回っていた。自分は香を守るにふさわしい資格を持ったとでも思っているらしい。香も珍しく黙って、ハルオの好きにさせていた。

 

 御子も良平も検査の連続でベッドを温めている暇が無かったので、本間親子はこの二人を相手にして待っていた。


 本間の娘にはお咎めなし。転校した少女も家族の努力もあって治療の後、他の学校を受験する事になったらしい。


「お二人には本当にお世話になりました」

 本間がそういうと、娘ともども頭を下げる。


「とんでもないです。本間さん達が話を合わせてくれたおかげで、事後処理がうまく運んだようなものです。俺達は観光客で、強盗に襲われて、クスリを飲まされた事になったし、たまたま休んだホテルが漏電で火事になった事にもなった。おかげで明日には帰れそうです。こちらこそありがとうございました」

 良平の方が恐縮した。


「いいえ、お二人のおかげです。娘ともゆっくり家族で話し合う事が出来ましたし、幸い、この子の受験も、このまま志望校を変えずに受ける事が出来そうです。本当にありがとうございました」


「そうなの? 良かったわね」

 御子が娘に向かってそういうと


「ホッとしました。これで受験も頑張れます。ありがとうございました。必ず合格しますね」

と、娘も笑顔を見せる。


 前に見た時は、焦燥感と、緊張で、とげとげしく見えたが、本来、穏やかな性格なのだろう。少女らしい可愛らしさで、やわらかな、安ど感のあふれるような笑顔だった。色白の肌が美しく映える。


 本間親子は何度も御子達にお礼を言って、病室を後にした。


 すると、ハルオがその後ろ姿をポケーっと目で追っていた。明らかに少女に見とれていたようで、ぼそりという。


「い、色が、し、白いなあ……」


 言ってしまってからはっとする。隣で香が目を吊り上げている。


「悪かったわね。色黒で」

 香は黒いというほどではないが、どちらかと言えば健康的な肌色をしている。


「あ、い、いや、こ、これは、ち、違うんです!」

 ハルオは慌てて否定したが、そもそもハルオは惚れっぽいのが欠点だ。惚れっぽい男は、たいてい美人に弱い訳で……


「すいません。私、食堂で食事、とってきていいですか? お二人の昼食はハルオが持ってきますから」


「あ、いや、お、俺も、め、めしに、さ、させて、く、下さい! か、香さん、ま、待って! ち、違うんだってば!」


 この二人、まだまだいざこざがありそうだ。御子と良平は、またもやため息をついてしまった。


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