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こてつ物語6  作者: 貫雪
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 さらにハルオは、土間が相手にしようとした男にも、積極果敢に斬りつけていった。機敏に動きまわるハルオにいつもの容赦も、ためらいもなかった。


「私の相手も、残しておいてくれない?」

 土間があきれ気味に言ったが


「嫌です!こいつらのせいで、御子と良平は死にかけたんですから! タダじゃおきません!」


 とうとうハルオはどもりもせずに言い放った。ダメだこれは。ハルオがどもらない時は、頭に血が上っている証拠。これはもう、手がつけられない事になりそうだわ。しーらないっと。土間は早々とあきらめた。


 この分では、残りの外国人も、ハルオが片付けてしまうだろう。私がわざわざ手を出すのも間が抜けていそうね。 

 

仕方が無いので、かわりに田中の前に立ちはだかる。そもそもこいつが元凶だ。


「死にかけた? やりそこなっちまったのか!」

 田中が歯がみした。


「当たり前でしょ。あんたみたいなツメの甘い奴に、あの二人がやられるもんですか。何が泥沼の淵よ。生きる事なんて、みんな泥をかきわけて進むようなもんよ。自分だけが苦しんだような気になって、人を利用していただけでしょ? そんな覚悟もなけりゃ、肝も小さい、人のふんどしで相撲を取るような奴に何が出来るもんですか。ホントの痛みを今、叩きこんであげるわ。私だって十分、頭に来てるんだから」


 そう言って一瞬のうちに斬りかかると、田中の髪がはらりと落ちて、鼻先をかすめた。


 田中はそれを見て、白目をむいて失神してしまった。


「何だ、だらしないこと。執念深い割には、根性ないのね」

 土間はつまらなそうに田中を蹴飛ばした。


 ついにハルオが最後の男に、馬乗りになって殴りつけ始めると、岡里がコソコソとワゴン車に向かおうとした。

 それを礼似が首根っこを捕まえて、


「おっと。何処へ行く気?あんたのお仕置きは、まだ終わっちゃいないわよ」

 そう言って、膝で腹を蹴りあげる。


 あまりに何度も蹴るので、土間が声をかけた。


「ほどほどにしときなさいよ。こいつらには、御子達の治療費と、火事場の保証を払ってもらわなきゃならないんだから」

 これを聞いて、礼似の足もようやく止まった。岡里はとっくに気を失っている。


「それに、その男はこの辺の違法ドラッグや、麻薬の総元締め。R国のマフィアの支援を受けては何度も名を変えて犯行を繰り返しているの。こいつの口からR国とのルートを聞きだして、警察につきださなけりゃならないんだからね」

 土間はうっとうしそうに説明した。


「あ、そうか。残念。なかなかストレス解消出来ないわねえ」

 やむなく、礼似は岡里を放り投げた。


 土間も、ハルオを男からどうにかひきはがしにかかる。ついには香と礼似も手伝い、三人掛かりになった。


 そんな女達を横目に、会長は青く輝く海を見ながら葉巻に火をつけて、一服を決め込んでいた。


 ああ、今回は後始末がひどく面倒そうだ。他国のマフィアが絡んでいるし、何しろ堅気が巻き込まれている。


 こいつらは暴れてスッキリするだろうが、私はこれから頭を痛めなくてはならない。私のコネだけで収まりがつくのだろうか? 由美とこてつも放っておくわけにいかないし、何とか丸めこんだらせめて、冬のバカンスとしゃれこむかな。こんな青空のもとでなら、スキ―三昧も悪くはないな……。


 そう思いながら、まるでため息をつくように煙を吐き出す。


 今後の事の面倒くささに、会長の頭の中も、すでに現実逃避になってきているようだ。


 そして「ぼう」っと汽笛が音を立てながら、貨物船がゆっくりと港に入港してきた。港は、今、目を覚ましたかのように、活気づいていった。


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