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こてつ物語6  作者: 貫雪
19/24

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 一夜明けると、港は昨日とは打って変わった様な穏やかさに包まれていた。少しばかり暗い色をした海の青さと、何処までも透き通るような空の青さが、港を覆い尽くす真っ白な雪との対比をなして、美しく広がっている。

 

 会長と、土間、礼似、ハルオと香は、田中と、北里と呼ばれていた、本名は岡里という男を待っていた。


 間もなく、一台のワゴン車が、港に滑り込んで来た。当然だ。彼らには、他に行くあてはない。


 ワゴン車からは、次々と屈強そうな外国人が下りて来た。体格のいい五人の男達が下りると、続いて田中と岡里が下りて来る。待ちかまえられているのは、百も承知だったのだろう。あっちも用意周到なようだ。


「久しぶりだな。田中」

 会長が声をかけた。


「生きていたのかって、言いたいんだろう?あいにく俺は半分死んでるようなもんさ。だが、あのままでは終われねえ。泥沼の淵から、一矢報いようと狙っていたのさ。ダメもとでな。こてつ組にクスリを広める事は出来なかったが、真柴には復讐した。弔い合戦なら受けて立つぜ」

 田中はせせら笑う。


「そんなくだらん事のために、自らを他国のマフィアに売ったのか。どうしようもない奴だな」


「はい上がってみろと言ったのは、あんただ。俺ははい上がった。俺の身がどうなろうと、あんたにゃ、知った事じゃない。あのまま無駄死にするよりはよっぽどましさ」

 田中の目には、怒りとあきらめが見て取れた。


「とにかく、俺は行く。R国へ。あんたに俺は止められない。あんたは俺にみすみす逃げられて吠えづらかくのさ」


 田中がそういうと、男達三人が銃を片手に前に出た。彼らはかまえかけたが……


 パン、パン、パン!と、軽い発砲音が鳴り響き、彼らの銃は弾き飛ばされている。会長の手には、愛用の猟銃が握られていた。銃口からは、薄く煙が立ち上っていた。


「私の腕を知らん訳ではないだろう。そんなものは役には立たんぞ」

 会長の声に怒気が混じる。


「知ってるさ、よく。あんたが結局は急所を狙う事が無い事もな。これはほんのあいさつ代わりだ。こいつらの喧嘩の腕は本物だぜ。そっちは女混じりの五人だけ。どうするんだ?見くびるなよ」


「そっちこそ見くびってもらっちゃ困るわ。これでもこっちはとびきりの精鋭なんだから」

 礼似が言い返した。


「なら、やってみようじゃねえか」

 田中のこの声を合図に、男達はじりじりと寄って来た。香がハルオに声をかける。


「いい?遠慮はいらないわよ。こいつら、堅気の子供達にまで手を出す奴らなんだから。私の砥ぎを信じて、思いっきり、暴れていいからね」


「わ、分かりました」

 ハルオも自信を持った目をしてかまえた。こんな事は初めてだ。


 男達は早速襲いかかってきた。成程、腕は本物というだけの事はあって、体格の割には動きがいい。手に、小型のナイフを握って、意外なほど素早く的確に振りかざしてくる。ハルオは幾度となくその刃を受け止めた。


 しかし、小柄なハルオは瞬発力と、柔軟性では、ずっと上手だ。あれよという間に相手をかわし、ナイフを弾き飛ばすと、ドスで薄く斬りつける。相手がひるんだ隙に、全体重をかけて、相手の後頭部を殴りつけた。


「す、すばしっこさなら、お、俺の、か、勝ちさ」

 どさりと倒れる相手に、ハルオは意気揚々と告げる。


 そして、かわす香を追いかけながら、ナイフを振り回す男の、その手を切りつけにかかる。男は慌てて手を引っこめようとして、一瞬だけ握りが弱くなった。その瞬間。


 スッと、一陣の風が通り抜けたような感触を残して、ナイフが姿を消した。それはすでに香の手の中にあった。


「スリの前で、手元を緩めちゃだめよ。私も十分素早いんだから」

 香はにっこりと笑いながら、回し蹴りをした。


「どう? 私の砥いだドスの使い心地は?」

 香は機嫌よくハルオに聞いた。


「さ、最高ッス!」

 ハルオは顔を高揚させながら倒れかけた男のみぞおちを殴りつけた。


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