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こてつ物語6  作者: 貫雪
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 御子と良平は車から降りた時、やはりどこかであせっていた。田中達を逃がしたくない、足止めさせたい。その気持ちが先走ってしまっていたのだ。


 だから、本間がいきなり田中達に向かって駆け出して行くのは、まったくの予想外だった。


 本間は我を失って、田中達に向かって行く。御子は慌てて後を追いかけていく。良平も後を追おうとしたが、義足が雪道にとられた上、父親を追いかけようとする、娘の姿が目に入った。慌てて娘の肩をつかんで止める。


「おとうさん!」

 大声で叫ぶ娘の声を背に、本間は田中につかみかかった。


「お前が! お前が娘に、クスリなんかを、売りつけたのか!」

 全力で田中を揺さぶった。


 田中は一瞬驚いた顔をしたが、眼の端に御子と良平の姿を認めると、本間をいきなり殴りつけた。


 そして懐からナイフを取り出そうとするが、一瞬、御子が早い。その腕をねじあげられて、ナイフを取り落とした。


 すかさず御子は、本間を田中から引き離そうとした。しかし、もう一人の男が御子の背後に立っていた。動きを読んではいても、本間をかばおうと気がそれる。そこを後ろから殴りつけられて、前のめりに倒れてしまう。


「おとうさん! おとうさん!」


 半狂乱の娘は、良平を振り払って父親の元へ駆けていく。良平も後を追う。


 しかし、義足が思うように動かない。身体の動きにもキレがない。寒さのせいか? 畜生!


 今度は田中が、落ちたナイフを拾おうとしていた。それを見た本間が、そのナイフを蹴りあげた。ナイフは空中に弧を描いて海中へと没した。田中は目を吊り上げて、本間に襲いかかろうとするが、今度は良平が田中を殴る。


 良平は本間親子をかばうので精いっぱいだ。こいつは私が何とかしなきゃ。御子は男の足をつかんだ。


 すると、大きな貨物船の甲板から、片言の日本語の大声が聞こえてくる。


「キタザト! タザワ! フネデル!」

 体格のいい外国人が、田中達に叫んでいた。


 そうか、もうすぐこの船は出るのか。こうなったら死んでもこいつは行かせるもんか! 御子は北里と呼ばれる男の足に倒れたまましがみついた。どんなに蹴飛ばされても、その手を離さない。


 良平も、田中と殴り合いながら叫んだ。


「本間さん! 娘さんを連れて、早く逃げてくれ!」


「そんな……」

 本間はためらった。


「頼む! あんたらをかばっていたら、御子が死んじまう!」


 良平が絶叫する。その間にも御子は蹴られ続けている。良平の声に弾かれて、本間は娘の手を引いて車へと駆けだした。


「警察を呼んできます!」

 そう言って車に乗り込み、発進させた。


 良平は田中を殴りつけると、御子と北里の間に入った。懐からドスをとろうとする。


 しかし、思うように握れなかった。ちっ! 手がかじかんでいやがる。


 その隙に良平も、北里に殴りつけられた。すると船は大きな汽笛を鳴らして、ゆっくりと護岸を離れていく。


「畜生!間に合わなかったか」

 中が忌々しそうに言った。


「あいにくだったな。今に警察が来るぜ」

 良平は御子をかばうように起き上った。御子はすでに気を失っている。


「なあに。船は明日また手配できる。お前らの始末も、ここ以外ならなんとでもなる。ここじゃR国に迷惑がかかるからな。お前だって、この寒さじゃ、思うようには動けねえみたいじゃねえか」

 田中はそう言ってせせら笑った。


 そして田中と北里の二人掛かりで良平に殴りかかる。さすがに良平もどうする事も出来ない。


 散々殴られ、蹴飛ばされた末、自分の体が引きずられていくのが解った。


「ここじゃまずい。さっさと車に押し込めるんだ」

 その言葉を耳にしながら、良平はついに気を失った。


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