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まぶしい光に包まれたあと、ふわっと体が浮くような感覚がして――
次に感じたのは、やけに温かくて、もふもふしたぬくもりだった。
(あ〜......完全に湯船で寝落ちしたな、これ)
アラフィフの疲労は侮れない。風呂で寝るなんて危険だって分かってるのに。
......でも、なんか違う。
そう思った瞬間、鼻先をくすぐる匂いに違和感を覚えた。
湯気の湿った匂いじゃない。
もっとこう......獣臭っぽい。ナッツのサークルの布団の、そう、あの感じ。
(え、これお風呂じゃなくない?)
ゆっくり目を開けると、ぼんやりしていた視界がだんだんクリアになってきた。
そして、目の前に――犬。いや、犬......っぽい何か。
耳がウサギみたいに長くて、尻尾がふわふわで、目がやたらキラキラしている。
その犬もどきが、私の顔のすぐ近くで「わふっ」と鳴いた。
「ちょ、近い近い近い! 噛まないでね!? 何もしないから!」
びっくりして、後ずさろうとしたけど、背中にふわっと別のもふもふが触れた。
気づけば、同じ犬もどきが5匹、私をぐるっと囲んでいる。
(え、囲まれてる? これ、もしかして......狩られる?)
......怖い。と思った瞬間、心臓が激しく音を刻んでいく。
その時、1匹が私の首元辺りを嗅いで「わふ…」と静かに鳴いた。
すると他の犬もどきも同じ場所を確認するように代わる代わる嗅いでいく。
(ちょ、ちょっと、なに?怖いんだけど。えっ、私何か臭うの?)
なんとも絶妙なタイミングで、「わふっ」と鳴き、
そして私にぐいっと毛皮を押しつけてくる。
その瞬間ようやく、私は自分が裸だったことに気づいた。
そうだ、だってお風呂に入ってたんだから。
優しい、いや、優しいけれど、状況が理解できない。
(助けてくれてる......の? それとも......?)
犬もどきたちは、まるで私の動揺を察したように、
ゆっくりと尻尾を振り、低く喉を鳴らした。
威嚇ではない。落ち着かせるような、そんな音。
あ、ありがとう......。
そっと、触れようとして、でも、そこでさらに気づく。
手の甲にシミがある。
血管も、浮き出ている。
グーにしないとしわしわの手は健在だ。
(え、ちょっと待ってよ。この手......)
年々存在感を増していたシミが、血管が、そうですよ、と言っている。
何かを確かめるように、両頬を両手で挟むように触る。
立ち上がろうとした瞬間、腰にズキッと馴染みの痛みが走った。いつもの"どっこいしょ痛"だ。
「若返ってないじゃん!!!!」
異世界の大地に降り立って最初の言葉がこれってどうなんだろう。
もっとこう、「ここはどこ?」とか「魔力を感じる...!」とかあるでしょうに。
そもそも、異世界転生って若返るのがデフォでしょうが!!!
なんか、異世界に着いた早々オチが付いてる気がして、
それって転生前と変わらなくない?と、なんだか腹が立ってきた。
転生の神様、仕事が雑すぎない?
犬もどき(犬みたいなモンスターだから犬モンでいっか)たちは、
まるで“母ちゃん、どうしたの?”みたいな顔で私を見上げていた。
(......もしかして私、犬モンの群れの母親認定されたのかな?)
腰に手を当て腰痛をかばいながら立ち上がると、
犬モンたちがぴったり寄り添ってくる。
こうして私は、アラフィフのまま、雑に転生させられ、
犬モンに母ちゃんにされた(と思い込んでいる)、
という、誰も予想しなかった異世界生活の第一歩を踏み出した。
いや、せめて初日くらいは”ヒロイン扱い”して欲しかった――
麻美、残念だったな。




