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3

湯船に肩まで沈んだ瞬間、思わず声が出る。


「ふぅ〜〜〜、生きかえる」


身体が勝手に脱力した。

今日一日の疲れが、暖かいお湯に溶け出て湯気と一緒に天井へ昇っていくようだ。


「異世界転生したら、住むなら温泉付きのお城がいいなぁ。侍女がいて髪の毛洗ってくれてマッサージまでしてくれるやつ、マジで最高すぎる。

あ〜〜、今日もよく働いた。私、ほんと偉い。」


なんて自画自賛しながら、そんな妄想をして、ぼんやりと湯気を眺める。

ふと、足先がじんわり痺れるような、温まっているのか冷えているのか分からない妙な感覚がした。

 

あれ、今日そんなに冷えたっけ。


そう思っていたら、胸の奥でドクン、とひとつ、妙に主張の強い鼓動がした。


――ん?今の、動悸?湯につかり過ぎたかな?


続けて、耳の奥で「ピーーー」という機械音みたいな音が鳴る。


いや、これはいつもの耳鳴りとはちょっと違うかも。


湯気がいつもよりモクモクして、まるでサウナのロウリュ後みたいに視界が白い。


「ちょっと待って、これって......疲れすぎ?

それとものぼせてる?」


今日なんて、子どもたちの宿題チェックで脳みそフル回転だったし。

そう思った瞬間、視界の端がスーッと暗くなっていく。

湯船の縁がぐにゃりと歪んで見えて、天井がやけに遠い。


「......あれ、水面、揺れてる?」


いや、私が揺れているのか。

なんだか体がふわっと軽くなって、湯船に沈んでいるのか浮いているのか分からなくなる。

でも、たまにこういう日もあるよね。

そう思って、深呼吸しようとした。


――あれ、なんかちょっと、息しづらい......


胸がぎゅっと締めつけられるような感覚がして、

視界の白い湯気が、ゆっくりと灰色に変わっていく。


「......ちょっと待って、これ、もしかして......」


ようやく頭の片隅で“ヒートショック”という単語が点滅する。

でも、その瞬間に浮かんだのは、

子どもたちの明日のお弁当のことだった。


――あれ、彩り用のブロッコリー残っていたっけ。


そんな日常的すぎる心配を最後に、

視界はすとん、と落ちた。


暗闇に沈む直前、

湯気の向こうで、誰かが呼んだような気がしたけれど、

それが現実なのか、私の願望からくる空耳だったのか......


確かめる前に意識は完全に途切れた。


お風呂は、ヤバい。

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