星空の下で君は何を思う
私達は焚火を囲んで夕食を取っていた。酒をあおるリーダーやその世話を焼く聖職者を横目に、おいしい料理に舌鼓を打っていると、突然、彼は立ち上がった。首を傾げて彼を見つめていると、こちらの視線に気付いたらしい。表情を変えず、
「先に寝る」
と言って、一人テントに入っていってしまった。
「おぉう、止める間もなかったぜ」
そう言いながら、がははと笑うリーダー。だが、それ以上深追いはせずに、また酒瓶を口につけてグイッと。隣で止める聖職者もなんのその、だ。私は、彼が消えていったテントに目を向けた。じっと眺めること3秒ほど。その視線を料理に戻すと、しっかり一人分は減っている。早食いはよくないんだぞ、と思いながら、私はのんびり自分の分に手を伸ばした。
「ほーしーが、きーれーいーでー」
………酔っ払いが歌い出したのには耳を塞ぎたくなった。
夕食も片付けも終えた頃。リーダーは酔いつぶれてしまっていた。いや、逆に、あれだけ飲んでおきながら、片付けが終わるまではいつも通り動いていたのだからさすがというべきか。だが、片付けが終わった途端、気持ちが悪いと言って蹲ってしまうのは……。思わずジト目をリーダーに向けてしまう。これで一体何回目だろうな、と思いながら。聖職者が呆れを隠さないながらも駆け寄るまでが毎度のこと。正直そちらの心配はしていない。問題となるのは。介抱する聖職者と出来上がったリーダーから視線を外し、腕を組む。強く目を瞑ってみたが、そうしたところで差し迫る問題が消えるはずもない。
一つため息を落として焚火の一番いいところに陣取った。今日も私が寝ずの番らしい。ま、酔いつぶれたリーダーの介護よりはこっちの方が楽だし、と言い聞かせながら薪を投げ入れた。
暇だ。2時間ほど経った頃、夜の番に飽きてきた。眠気までやってきそうなので、一度うーんと大きく伸びをする。上に思いっきり伸びて、ふと目を開けた。思わず、ピタリと動きを止める。視界に広がるのは、星、星、星。右にも左にも途切れることがなく星が散らばっている。藍色の空を背景に、キラキラ、キラキラ。誇らしげに大きく煌めく星。優しく柔らかに光る星。消えまいと小さいながらも必死に明りを灯す星。夜空では、我も我もと数多の星が、思い思いに輝いていた。
宝石箱みたい、いや陳腐な表現だ。いっそ美しさの暴力。いやいや、暴力はダメだな。心洗われるほどのキラキラ……うん、上手い表現がない。なるほど、さっきのリーダーの下手な歌にも理由があったらしい。これは思わず綺麗だと歌い出したくなる。……流石に恥ずかしいから真似しないけれど。
「……何をしている?」
驚いたような、唖然としたような、不思議がっているのが分かる声が聞こえた。すぐに誰の声か分からず、体ごと後ろを振り向く。一足早く寝ていたはずの彼だった。珍しく声に感情が乗っていて、まさか彼だとは思わなかった。そんな声も出せるんじゃん、と思った直後。自分が伸びをした体勢……から、少し崩れた、傍から見れば確かに不思議に思うだろう体勢をしていることに気付いた。慌てて手を下ろし、頭を掻いたり手を握ってみたり、一通り誤魔化しの動きをする。チラと彼を覗くも不思議そうな顔に変化はない。誤魔化すのを諦めて手を下ろすと、再度空を見上げた。
「や、星が綺麗だなって」
改めて綺麗だと思いながら星を眺めていたが、待てど暮らせど返事が来ない。独り言と思っただろうかと彼に視線を戻すと、彼はいつもの無表情でこちらを見ていた。
「あ、星とかあんまり興味ない?」
ちょっと無理して笑いを顔に乗せる。彼が僅かに首を傾げたのが見えた。首を傾げたいのはこっちかなぁ……!大きく大きく首を傾げたいかなぁ……!こんなに綺麗な星空なのに。こちらの疑問を受け取ったか、彼は一瞬、本当に一瞬だけ空に目を向けて、すぐこちらに顔を戻した。いつもより表情に影がある。どうやら共感は得られないようだ。
「……興味がないどころか嫌いだったり?」
「仕事の邪魔だからな」
数度瞬きして、彼を見つめた。彼は腕を組んでため息を吐く。
「またしてもお忘れのようだが。俺は暗殺者だぞ」
「あー、はいはい、そうでした」
軽く手を振ってその場を誤魔化す。別に、彼の職業を忘れたわけではない。ただ、今、私達にその情報は不要である、それだけだ。それなのに、彼はいつも、それを理由に楽しいことから遠ざかる。はっちゃけろとは言わないが、もう少し人生楽しめばいいのに。そう思うからこそ、最近は彼の自虐には付き合わないことにしていた。今回もそのまま流して、また、空を見上げる。やっぱり星は綺麗に輝いていて、あらゆるものを照らしていた。
「寝ないのか?」
唐突に、彼が言う。相変わらず私は星空を満喫していたが、聞こえてきた言葉に、思わず目を開いて彼を見つめてしまった。
「……なんだ」
彼から、少々低くなった声が聞こえてくる。
「いや、ちょっと意外で」
何を考える間もなく、正直な言葉が口から飛び出た。
「俺が」
「それは違う」
いつもの自虐は言葉を重ねて阻止する。
「私に興味ないと思っていたから」
彼の眉が吊り上がって見えた。そうかと思うと眼光が鋭くなる。
「……お前が昨日も火の番をしていたことくらいは知っている」
それを聞いてますます目を丸くしてしまう。だがすぐに、自分の顔に笑みが広がったのが分かった。逆に彼は、眉間にどんどん皺を寄せる。その様子を見ながら、笑みが深まるのを止められない。そこでふと、気付いた。
「それを知っているってことはさ、ずっと起きていたってことじゃ」
「寝首をかかれたくないだけだ」
ハッと鼻を鳴らして言い捨てる彼。そして、私を引っ張り、テントの方に強く押し出した。やや乱暴なそれに対応しきれず、押し出された勢いで前のめりになる。
「ちょっと!」
「寝ろ」
彼は短くそう言ったかと思うと、焚火の側に陣取った。よくよく見れば、さっきまで私がいた、焚火の一番いいところである。腰に手を当てて睨みつけるも、彼に動く気配はない。
「……もうっ!明日文句言わないでよ!」
荒々しく言葉を投げかけたが、こちらに見向きもせず、しっしと手を振るばかりだった。地面を強く踏み鳴らし、自分用に組み立てられたテントに向かう。
テントに入り込み、もう一度彼を盗み見た。丁度薪をくべた彼が、空を見上げたのが見えた。だがそれは一瞬で、次の瞬間には怖い顔が焚火に向けられていた。赤々と照らし出された彼は、いつもの無表情だったが、空からは星々の光が、分け隔てなく降り注いでいた。
……いつか彼も、手放しであれを綺麗だと言えるようになればいいのに。私はそっとテントを閉じた。
pixivでも投稿しています。
※題名、ペンネームを変えています。
星をテーマに執筆しました。
また、情景描写の練習というのが裏テーマでした。




