1時間小説シリーズ ー 年明けの一咳
お題 餅、掃除機、扇、火、咳
多いよ5つは重い。
年明早々何を見ているのだろうか。
轟々と燃える炎を眺めらながら明日は何を食べようかと考える。
古いものがすべて燃えていく。
昨日は年内最後の大掃除をしていたほこりを払い、掃除機をかけ床を拭き、水周りを磨いてごみを纏め、そばと雑煮用のだしを仕込み、年越しに見るのをサブスクから厳選していた。
そうだ、あのアニメやドラマを見ようと思っていたのになんで炎を見ているんだ。
自分の数倍はあろう高さまで燃え上がり周囲どころか空を覆う雲までも照らしている。
だから天から降りているのではと思えるほどまっすぐに黒い煙が昇っているのがよく見える。
周りにに野次馬がうようよと寄ってくる。スマホを皆取り出すが通報するそぶり見せずにカメラを向ける。
みんな、なんだかんだと祭りが好きなのだろう。人はどんどん増えるし、おそらくマンションに住む人たちは窓から眺めているのだろう。
不謹慎だと周りを指さす権利は自分にはない。自分だってこうして燃えているのを眺めている。
周りほど騒ぎはしていないがそれでも他人と変わらず、何するわけでもなく炎をながめている。
炎とはここまで燃え上がるのか、下手な扇ぎ方をすれば火の山をさらに燃え上がらせる芭蕉扇。それが実際にあるのでは思ってしまうほどに理不尽に燃え上がる。
しっかり仕込んだ出汁、行きつけの店でもらった年越しそば、親からしこたま送られてきた餅。それらをゆっくり食べようと思っていたのに、どうして俺はここで立って炎を眺めているのだろう。
やがてサイレンが響いてきた。それはあっという間に近くなり消防車が見えてきた。
野次馬どもが道を開けるため動き、パトカーも到着してきた。
自分も炎から離され、視界を消防車の赤で遮られる。
1週間前にせっせと準備したコタツに入り、ぬくぬくと年を越そうと思っていたのに、どうして息を白くしながら炎を眺めているのだろう。
なお轟々と燃え上がる炎を前に警察と救急隊員、消防士が忙しそうにしているのを眺めていたが、段々と飽きてきた。
どうするかと周りを見渡すとコンビニが目に入り何も考えずにはいる。
軽い入店音と、やる気のない店員の声。だが店員も気になっているのだろう。おそらく全員だろうと思えるほどの人数が入り口近くにいた。
さて何を買おうかと考えるも先ほどまで見つめていたからか炎の光景ばかりが浮かぶ。
店内を見渡すと否が応にも目についたそれを買った。
「今こんなにも高いのか、止めて正解だったな。」
火をつけたそれをゆっくりと吸う。が、うまく肺に送れず咳込んでしまった。
すっかり健康になってしまっことを実感しながらも乾燥している空気のおかげで真直ぐ昇る煙を見る。
「帰るか」
まだ長いそれを落とし、踏む。しっかり消えたことを確かめ、歩き出す。
そばを食べ、サブスクを眺め、コタツでゆっくりできる「いつもの幸せ」をかみしめながら、サイレンの響く帰り道をのんびりと歩いた。




