表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇夜の女  作者: 一宮 沙耶
第1章 依存

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/35

4話 出会い

私は、正樹と出会った時を思い出していた。

当時、親から捨てられた私は、中学を卒業し、15歳からキャバクラで働き始めた。

これは私にとって大きな転機となる。


初めてお店に行った時、雑然とした更衣室を出ると、きらびやかな空間が開けた。

あたりを見渡すと、大きなシャンデリアが目に入り、豪華な空間が光輝く。

厚い絨毯の上をハイヒールで優雅に歩く。


お風呂もほとんど入れない生活から、毎日シャワーを浴びる日々となる。

1人暮らしの部屋も用意され、好きに時間を過ごせるようになった。

私を支配していた芽衣から命令されることもなくなる。


まともな食事をしていなかったから、私は痩せていた。

でも、バストはなぜか大きかったからスタイルがいいと言われている。

薄手のドレスで私はとても華やいだ。


落ち着いたバックミュージックが流れ、上品なアロマの香りが漂う。

テーブルに置かれたお酒も高そう。

多くは60歳ぐらいの上品なお客ばかりで、厭らしさはない。


こんな贅沢な世界があるなんて知らなかった。

物価高で生活が苦しいというニュースが毎日のように流れている。

その中でも最下層で生き、穴だらけのジャージで外を歩いていた私には夢の世界だった。


私も、早く、この場に相応しい女にならないと。

大きなバストが見えそうで見えないレース主体のキャバドレスで着飾る。

香水の付け方も教えてもらい、本当の自分を隠す。


これまで貧しい生活をしていた私には、煌びやかなお店はお城のようだった。

がさつな私でも、優雅な存在になれる。

素敵なドレスと暗い照明のおかげで、こんな私でも、魅力的な女を演じられる。

見て、見て、醜く、針の毛だらけの毛虫だった私が、蝶になって羽ばたいているのよ。


男のお客様は、誰もが私のことを褒めちぎってくれる。

私の話しはなんでも聞いてくれて、お姫様の気分を味わえた。

大声で笑い続ける私がいた。


そんな姿に、甘い言葉をかけてくる男たちが何人もいた。

これまで、男の目には私は存在していなかったのに。


お客の横で、最初は、何をすればいいのか初めてで分からない。

お店のボーイは、ただ、お酒を注いで笑っていればいいと言っていた。

もう一人の女が、今日が初めてだと私を紹介する。


その女は、私を見た後、お酒の方に目を向ける。

私は、腰をお客に密着させ、バストが当たるようにお酒を注ぐ。

その客は、大きく笑って、私にもお酒を注いでくれた。


お酒の注ぎ方がよかったかは分からないけど、お客はご機嫌の様子。

美人だ、美人だといっぱい褒めてくれる。

お客が褒めている限り、先輩の女達は文句は言わず、笑っている。


横に座っていただけなのに、帰りには10万円を手渡されたことは嬉しかった。

それが初々しいと評判になったらしくて、私を目当てに来るお客も増える。


「詩織ちゃん、若そうけど、未成年なんじゃないの。」

「そんなはずないじゃないですか。私って、童顔なんですよ。お酒だって、いつも飲んでるでしょう。」

「まあ、そうか。胸も大きいし、子供って感じじゃないしな。じゃあ、乾杯しよう。」


私の腰を触ってきたり、ももをさするお客もいた。

擦られて声が出てしまい、困ったこともあった。

でも、これまでの生活と比べれば大したことじゃない。


そんなときは、横にいるチーママがお客様に声をかけてくれる。

チーママからは、この店はそういうお店じゃないと。

初々しいけど、何をやっても嫌がらないことで人気がでる。


こうして、私のキャバクラ生活が始まる。

数ヶ月すると慣れてきて、地味だった私も大笑いして陽気になっていた。


でも、それはお金で結びついた、いつでも切れてしまう関係。

このお店と同伴の時だけの関係。

本当の私を好きなわけじゃないし、本当の私は見せられない。


そんな時、お店の店員として正樹が現れた。

かなり荒れていて、店長の指示も聞かない。

でも、お金が欲しいのか、お店には居座り、お客からのオーダーを取り次ぐ。


私は、正樹に、誰にも叶わない圧倒的なオーラを感じた。

オーダーを取りに近くに来ると、お客の横にいても正樹しか見えなくなる。

気づくと、ずっと正樹のことだけを考えている私がいた。


よく見ていると、常に隙はなく、所作に無駄がない。

能を舞っているというか、相手を軽やかに躱わすボクサーというか。

そして、相手に媚びることなく、常に唯我独尊という顔つき。


正樹はこれまで会ってきた男とは全く違った。

子宮がうずくというか、一目見た時に、正樹の子供を産みたいと思った。

それ以上に、どこが惹かれるのか、言葉では表現できない。

体の中から、正樹が欲しいと訴えてきて、理性ではコントロールできない。


私は、接客している合間に正樹を見つめ、目線が向けられると、はにかむように下を向く。

それを繰り返すことで、正樹が声をかけてくることを祈った。

お店の照明が暗いから、私がくだらない女だということを隠してくれるはず。


心を押し殺し、猫をかぶって微笑むことしか、私にはできないもの。

正樹がこのお店に来てから1カ月ぐらい経ったころだった。

閉店して帰り道を歩いていると、後ろから、飲みに行こうと正樹から声をかけられる。


正樹は、すらっとした姿で、危険な匂いに包まれている。

顔は均整が取れていて、誰もがイケメンだと思う。

どちらかというと女のようにきれいとも言える。


余裕のある顔で、返事を待つ間、私の目を覗き込むように見つめている。

その目の奥には、どこまでも闇が広がっていて神秘的な雰囲気を醸し出していた。

女を誘うのが手馴れてそうに見えるけど、こんなチャンス逃すことはできない。


少し困ったような素振りをしつつ、うなづいた。

お店では大声で笑い続けていても、ここでは、はにかみ、うぶな女を演じる。

男って、こんな女が好きだと聞いたことがあったから。


その後、正樹は、私を地下のお店に連れていった。

お店はカウンターだけで、タバコの煙が渦巻く。

メニューは大皿に数品と、安めのお酒だけのお店。


正樹は、鶏カラとポテトフライを頼み、マスターはそれらをレンチンして差し出す。

安いストレートのウイスキーをショットで乾杯をし、一気に飲み干した。

正樹の目は、遠くを睨みつけ、その奥底に何があるのか分からない。


横にいる正樹は、触れると痺れる電磁気の幕に包まれているよう。

多くの矛盾した気持ちが荒れ狂い、それが暴れ出ないように冷静な顔で封印する。

そんなに自分の気持ちと闘わなくていい。私が正樹の心を穏やかにしてあげるから。


これまでの正樹の人生に何があったのかしら。

多くの苦悩と、屈辱があったに違いない。

それを外に出せずに、強がる分、人には過酷な暴力となって凶暴となる。


どんな正樹でも受け止めるから、もっと自由でいていいの。

私は正樹の踏み台になるために、生まれてきたんだから、なんでも言って。

そんな正樹のことだけを考える人が、これまで正樹の横にいなかったんだね。


現実世界では、お金があまりないんだと思う。

少しのお金でお腹をみたし、酔って今を忘れる。

私も、そんな生活だから、そのことだけは分かった。


私を誘いながら、一言も喋らずに、前だけを睨む。

そして、私のももに手を置き、俺の物だと支配者の目を私に向ける。

でも、心の闇を包む幕に一瞬でも穴が開いたことを悔やんでいるのかしら。

一瞬にして正樹からは表情が消える。


1時間一緒に飲んでいても、正樹は自分の気持ちを外に出さなかった。

そして、行くぞと一言いい、席を立つ。

私は、お金を払い、笑顔で後ろに着いていく。


正樹は、少し酔っ払ったようで、まっすぐ歩いていない。


「ねえ、酔っ払ったみたいだし、私の家に来る?」

「酔っ払った? そんなことあるはずないだろう。バカにしているのか?」


いきなり、正樹はイタリアンレストランの立て看板を蹴り上げた。

深夜で誰も歩いていない商店街で、看板は勢いよく転がる。

監視カメラに写っているかもと思い、私は、元の位置に戻しておいた。


「俺のやることに文句があるのか?」

「そんなことないよ。正樹と今夜、一緒に過ごしたいだけ。私の家に来てよ。」

「そこまでいうなら、行ってやっても・・・・」


最後まで言い切らずに、正樹は電柱の前で嘔吐する。

背中をさすって、よろける正樹を私の部屋に連れてきた。


「お水を飲んで。」


ペットボトルの水を一気に飲むと、正樹はそのままベッドに倒れ込んだ。

正樹のシャツを脱がし、ベッドに寝かす。

そして、私は、シルクのネグリジェでパンツも履かずに正樹の横に潜り込む。


安心して、自分の悩み、葛藤を私に見せていい。

どんな醜い気持ちを吐き出しても、私が拭き取ってあげるから。

だから、私がずっと横にいることを許して。


暖かい。これからも、ずっと、私の横にいて。

正樹のためなら、なんでもするから。

私は、正樹の胸に顔を埋め、久しぶりに安心して眠りに着いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ