3話 苦悩と快楽
正樹は、この事件を機に眠れない夜はなくなったと言っていた。
罪悪感からではなく、支配される側から支配する側になった嬉しさから。
正樹の顔からは、いつもの残虐な空気は少し和らいでいる。
世の中では、大勢のくだらないやつらが、のうのうと生きている。
こいつらを指導するために俺は生まれたんだと私に言っていた。
俺は、こいつらをひざまづかせるんだと。
女子高生の手足を切ったときの姿を見たときに、やっと心の平穏が訪れたらしい。
周りの人たちはみんな豚なんだ。
豚なんだから豚の姿でいればいい。人間の姿なんてしてるんじゃないよと。
正樹にはそういう暗闇がある。
顔を見つめられると、私の全てが見透かされているみたい。
でも、正樹のことは、厚い壁がはばみ、何を考えているのか全く分からない。
笑顔でも、本心は相手を殺してやると考えているのかもしれない。
そして、決めたことは何があってもやり遂げる。
そこに躊躇という言葉はない。
そんな冷徹な感情が体の中を突き刺している感じ。
正樹のいる部屋は、夏でも、全てが凍り付くよう。
そんな正樹は、世の中をぶち壊してやるといつも目が殺気立つ。
私は、そんな正樹が好き。神秘的じゃない。
なんの秘密もない男にドキドキする女なんていないでしょう。
殺気も、私に向かわなければ、何かをやり遂げる力として憧れる。
周りに流されている私にはない強さを持っている。
相手への同情なんかで判断が揺らいだりなんてしない強さ。
きっと、全世界で戦争が起きた後、荒れ果てた世界を支配するぐらいの人。
そんな正樹は、次の女子高生を部屋に拉致する。
またお嬢様のような外見で、贅沢をし、何も考えずに日々を過ごしてきたに違いない。
こんな扱いを受けるなんて考えることもなく、のうのうと過ごしてきたのだと思う。
泣きながら開放してとねだる目で私を見上げるから、顔をおもいっきり蹴飛ばしてやった。
頭を壁に打ちつけ、気絶している間に、服は全て切り裂き、腕は後ろで縛り上げる。
ふと、こんな残酷なことをごく自然にやっている自分に驚く。
その女は気づいたのか、タオルで塞がれた口で、声にならない声をあげて騒いでいる。
正樹は、そんな女をベッドに押し付け、足を開き、エッチを始めた。
私は、それを横目に大笑いをする。
この部屋では、男女の性液が混ざり合い、飛び散って、汚らしい膜で私たちを覆う。
殺される直前の女の恐怖と、人の命を石ころよりも軽んじる男達の傲慢さが渦巻く。
醜いどろどろとした感情が、薄汚れた壁にへばり付き、部屋中に胞子を放つ。
強姦されている女なんかには嫉妬はしない。
私は愛されて、この女は暴力をふるわれているだけだから笑い飛ばせばいい。
目の前の女には愛情というものはなく、ただ、性欲のはけ口にされているだけだから。
この女が苦しもうと、殺されようと、私には関係がない。
だって、これまで私のことを誰も助けてくれなかったでしょう。
そんな私の苦悩を、この女は気づきもせず、笑って過ごしていた。
ただ、立場が逆転しただけ。
人の命が大切なんて、今更、きれい事なんて言わない。
見ず知らずの女より自分のことが大切だもの。
周りの流れを読み取り、それに合わせるだけ。
今、目の前に流れる濁流に逆らってはいけない。
何も抵抗できない女を豚、豚と言えというなら、躊躇なく言うしかない。
この子もいずれ手足を切られるのだと思う。
今度はもっと上手く切るぞと言ってたから。
その女を見ると、もう手足が切られた姿が思い浮かぶ。
顔を蹴り上げれば、咳き込み、血を吐き、少しは助けを求める顔を見ないでいられる。
そんなことをしながら、私も、笑って、その女も痛めつけるしかないでしょう。
正樹から嫌われないように。
その女の汚らしい姿は、私の姿を映し出しているようだった。
だからこそ、汚れた自分を否定したい気持ちもあったかもしれない。
今、正樹は女子高生を犯してる。
女子高生は毎日のひどい仕打ちに抵抗できない。
もう死ぬしかないと思ってるかもしれない。
正樹はやり終えて、お前は何を考えているんだと私の顔を覗き込む。
その目の奥底にある闇は手となり、私の心の中をかき回し、気持ちを探る。
私は、恐怖に足が震えながらも、そんなことは表情に出さず、笑顔で答えた。
「ねえ、私もムラムラしてきた。抱いて。でも、そんな汚い女とやった体でやるのは嫌よ。臭い女の匂いは洗い流してからにして。」
私は、空き地に放置したドラム缶を見たときに、自分がその中にいるように感じた。
真っ暗の中で、思考を停止し、動く自由もない。
あれは私そのもの。
しかも、正樹たちに同調しなければ、次にドラム缶に入れられるのは私。
だから、思ってもいない怖いことをして言ってしまう。
ただ、笑って同じ側にいるんだと言い続けていた。
正樹にはなんでも差し出す心の準備はできている。
でも、命を差し出すということは、死んで正樹と別れるということでしょう。
それは嫌。私は、ずっと正樹といたいの。
人間って、苦労と楽しみをプラスマイナスするとみんな同じなのだと思う。
だから楽ばかりしている人は、ひどい苦労を背負う罰を受けるの。
この女子高生もそう。私のせいじゃなくて、本人のせい。
もしかしたら、クラスメイトをいじめていた罰かもしれない。
私は、神様の代わりに天罰を下しただけ。
そう、私は悪くない。
そもそも、裕福に生きているあなた達が悪いんじゃない。
私の苦労なんて全く知らずに笑って楽しく生きてきた。
その罪で、こうなったのよ。
私は、思考も奪われ、奴隷のように生きてきた。
いつも、周りに同調して、自由がなかった。いつも苦痛を味わってきたから。
だから、これからは、あなた達の人生と交換して、楽しむ側になる。
あの事件から2年経った頃、あの空き地でビル建設工事が始まり、ドラム缶が撤去された。
その際に、中身を確認したところ、女の遺骨が発見された。
手足が切断されていることも確認される。
警察では大騒ぎとなり、捜査が進む。
そして、正樹の働いていた工務店のドラム缶だと突き止められた。
コンクリートの中からとんでもないものが見つかったことを私たちはまだ知らない。




