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闇夜の女  作者: 一宮 沙耶
第3章 逃避行

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11話 夕日

山道から家に入る道は木々で荒れていて、この先に家があるなんて気づかない状態だった。ここに住んでたのは、ついこの前なのに、人がいないとこんなに荒れてしまう。

でも、ここって懐かしい。


すでに夜は明け、太陽がさんさんと周りを照らしていた。

家の周りも雑草で囲われていて、入るまでに、雑草をかき分けて進む。


ここにおじいさんの家があった。

焼いたから今は家はないし、家の基礎のコンクリートは壊して畑にしていた。

だから、おじいさんが住んでいた痕跡は何もないけど、思い出はいっぱい残ってる。


私を受け入れてくれたおじいさんの心配そうな顔。

お風呂を薪で沸かして、ぜいぜいしながらも、先に入りなさいって言ってくれた。

2人で囲炉裏を囲んで大笑いした時の顔。どれも懐かしい。


私が殺したおじいさんだけど、2人で過ごした時間を、懐かしく思い出していた。

あの時は大変だったけど、大笑いしてる時間もいっぱいあった。

なんでかな。人生を振り返って思い出すのは、今となると、あの時だけ。


後悔はしていないけど、あのおじいさんはいい人だった。

ただ、長く一緒にいすぎて、嫌になってしまっただけ。

そんなに悪い人ではなかった。


寒い中、暖かい囲炉裏を囲んで、けんちん汁とかよく食べていた。

あのけんちん汁、美味しかった。

東京で食べたステーキよりも何倍も美味しかった。

多分、心から楽しんで食べていたからだと思う。


贅沢って、お金を使えばいいってもんじゃない。

あのけんちん汁のように、具は貧しくても、心が豊かで幸せなら、それが贅沢。

おじいさんが狩りで取ってきた猪は特に美味しかったかな。


東京にいるときは、3食を惰性で食べていた。

いつも、食べたいなんて考えることなく、ただ時間が来たから食べていた。

でも、この山では、買い出しに行くまで、白菜を生で食べて我慢したこともあった。


だから、ご飯があるってことに感謝していた。

今食べてるご飯の味を一つ一つ大切に味わいながら過ごしていた。

生きていられるだけで、とってもありがたいことだと今更ながらに気づいた。


多分、生きるという1つの同じ目的に向かって協力して進んでたから。

合宿のような、連帯感があったのかもしれない。

今どき、普通に暮らしていれば、生きるなんて考えることなんてない。


もう一つは、おじいさんに打算がなかったこともあると思う。

とっても、私に優しくしてくれた。

その点で、殺さずに、ただおじいさんの元を去るだけでもよかった。


でも、それだけなら名古屋で過ごせなかったから、しかたがない。

お金を奪ったから名古屋で暮らせたのであって、そのためには殺害は必要だった。

やっぱり、おじいさんは、私のために死ぬ運命だったのだと思う。

もう、そう長生きできる年でもなかったでしょう。


そんな思い出に浸っていたけど、今日から、ここで生活するために現実に戻る。

風雨にさらされてか、家はだいぶ傷んでた。

でも、ログハウス自体は、十分に使える様子だった。


部屋を換気し、掃除をする。

ここを出た時は慌てて出て行ったから、服とか、いろいろなものが残っていた。

それを出して、それなりに暮らせる元の姿にまで戻せた。


車は、名古屋に行くときに駅まで乗っていったから、ここにない。

そもそも、新しい名前での運転免許証もない。

だから、しばらく、街に買い出しに行くことはできない。

警察も甲斐大和駅の周辺をウロウロしているはずだし。


ただ、お米とか、お酒とかは十分に残ってた。

畑で育てる野菜の種とかもあった。

それだけで、当面は生きていけそう。

街に降りずに、当面は、ここで静かに暮らすことにする。


そういえば、この敷地の入口に、カエルの置物があったことに気づいた。

昔から変だと思ってたんだけど、何かなと思って見つめる。

上の蓋を開けると、その中から、ラッキーなことに4,000万円が見つかった。


こんな目につきやすい所にお金を隠すなんて、思いもしなかった。

いえ、だからこそ、こんな所にはないと思える場所にお金を隠していたのだと思う。

おじいさんらしい。


おじいさんも、お金が盗まれる可能性も考えていたということなんだと思う。

まだ、どこかにあるかもと思い、一通り調べたけど、それだけだった。

もしかしたら、家を焼いた時に、一緒に焼いてしまったのかもしれない。

それなら、今更どうしようもない。


5年以上使っていなかったから、畑とかも荒れ放題で、元に戻すには大変そう。

だけど、私1人でも半年ぐらいあれば、なんとか戻すことができると思う。

1億円以上あれば、いずれお米とか街に買い出しに行って、長期間、生きていける。


長崎に残してきたお金の反省もあって、最近は、いつでも全ての現金を持ち運びしている。

そのことが今回は役に立った。

さすがに1億円の札束は重くて、リュック姿で逃げる時は大変だったけど。


社長は今頃どうしているかしら。

信頼していた秘書が実は凶悪犯人だったと知らされ、驚いているに違いない。

むしろ、信じられないと警察に直訴し、別人だと言っているかもしれない。


人は外見では分からないし、その人が過ごしてきた時間はもっと認識できない。

殺人犯だなんて、薄っぺらい言葉で人格を決めつけないで欲しい。

私がどれだけ被害者として苦労してきたのかなんて誰も知らない。


いい人のふりをして、人を蹴落とし、人の金を盗んで笑って過ごす人もいる。

どうして、そんな人を野放しにしておくのに、私を捕まえようとするのかしら。

この世の中の判断基準が分からない。私はどこも悪くないのに。


でも、私はここでしか過ごせない運命。これからも苦労は多そう。

ここは長年、見つからなかったし、捕まらずに自由に過ごせるだけで十分。

そのうち、農家のおばあさんと見られ、私だと言える痕跡は全てなくなる。


多くの女は年をとることに恐怖を感じる。

でも、ここには私一人だし、むしろ、年を取り、より深みのある人間になれるはず。

誰もが褒め称える人に。だって、私は正しい道をこれまでずっと進んできた。


ふと周りを見渡すと、おじいさんの遺骨を埋めた斜面が目に入った。

でも、おじいさんは私の家族だから、怖いなんて感じない。

私を見守っていて。お願いだから。


いずれ大きな石とかでお墓を作って、毎日、冥福を祈ろう。

亡くなっていても、家族が一緒に暮らすのは当然のこと。

理由があって殺したけど、別に殺したかったわけではない。


でも、見守ってくれてても、もう、ここには、私しかいない。

風に揺られる木々、葉っぱの音しかしない。

もちろん、おじいさんの笑い声もしない。私、本当に1人になっちゃった。


私はどんな暮らしをしたかったのかしら。

今から振り返ってみると、そんなことすら考えたことがなかった。

不満ばかりだったけど、恵まれていたのかもしれない。


優しい夫に、笑顔いっぱいの息子。

そんな理想な家族生活もしたけど、手から溢れ落ちてしまった。

私自身、そんなに立派な人でもないからなんだと思う。


どう考えても、これからは1人で暮らしてる姿しか思い浮かばない。

だから、ここで忖度なく心から笑い合えた、あの日々を思い出したんだと思う。


周りを見てみると、ちょうど紅葉の時期。

夕日を浴びながら、一面が黄金の世界に見える。

私に、神様がお疲れさまでしたと言ってくれているみたい。


私が殺害した人々は、みんな、私の邪魔するから当然の報いなの。

私は、全く悪くない。


私は、男とはうまく接することができない性格なのかもしれない。

いえ、私の周りに集まってくる男が、癖がある人が多かったのだと思う。

お互いに尊敬し合うなんて、これまでなかったもの。

だから、結局、1人が楽となってしまう。


そんなことを考えている時、私を凶悪犯人として、警察は全国指名手配をしていた。

長崎では、名前を変えて、晃一と結婚していたことが警察の調べで判明した。

そして、社長から、今は、さらに名前を変えて、名古屋に住んでることも分かった。


早急にDNA検査をしたところ、詩織、紗奈、優美は、同一人物との判定も出る。

また、おじいさんが買い出しの時に、若い女性と暮らしていると自慢していた。

そのことが噂になり逃げるなら甲斐大和駅近辺ではないかと警察は考えていた。


明日の朝から、警察犬を連れた警察50人が、私が住む場所から3Km先で捜査を始める。

そう結論付けて、今日の捜査会議は解散になった。


そんな中、私は、今、沸かしたお風呂に浸かっている。

夕日がもうすぐ山から消え、真っ暗になろうとする美しい風景の中で。

そんな貴重な時間に、私は夕日の美しさに見惚れていた。


「今日は、よく動いて汗もかいたわ。ゆっくりと汗を流しましょう。あぁ、気持ちいい。紅葉も綺麗だし、高級旅館の露天風呂みたいで贅沢よね。これからは、山での地味な暮らしになるけど、やっと、私の自由な時間が来たんだから。ゆっくりとしましょう。」


食卓には、炊いたばかりのお米、たくあんと、めずらしく日本酒を用意して。

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