2話 メス豚
正樹はイケメンで、話題も豊富で、常に多くの女から声をかけられている。
なによりも学生の時には有名なサッカー選手で、女子校生から大人気だったらしい。
こんな私が付き合ってもらえるのも奇跡みたい。
どうせ振られるなら、今、私から別れると言い出す方が楽なのかしら。
だめ、そんなことはできない。
正樹がいないと、大量の泥水が一気に肺の中に流れ込み、息ができなくなりそう。
正樹が一緒にいるから金をくれと言うなら、いくらでも用意する。
だから、私の元を去るなんてことはしないで。
3日が経っても正樹は帰らず、玄関を開け、不安の暗闇からまぶしい外に逃げ出した。
自分でも知らない間に、正樹が行きそうな所に足が向いている。
パチンコ屋、競馬場、行きつけの焼肉屋とか。
最後に、正樹がよくつるんでる勝己という先輩の家の前に辿り着く。
勝己先輩の親が住む古い一軒家だけど、親を見たことはない。
うるさい親は殺して庭に埋めたと、いつも荒れている先輩は大声で笑っていた。
土が盛り上がっている庭を見るたびに黒い影が地面を覆っているようで寒気が走る。
私は、鍵がかかっていない玄関から家に入る。
この辺りでは、この家にはナイフを片手にキレた男がいると有名らしい。
だから、鍵をかけなくても、泥棒は恐怖を感じて入らない。
玄関の横にある急な階段をのぼり2階に行く。
階段の壁には大きな窓があり、陽の光が差し込んで暖かい。
窓の横の壁には風景画が飾られていて、上品な夫婦が住んでいた形跡がある。
階段を登りきり扉を開けると、机の上の電気スタンドだけが灯る暗い部屋があった。
カーテンは締め切られ、空気が濁る。
そこには、床に転がる、まるまった物体を蹴り付ける正樹がいた。
目が暗さに慣れてくると、それが裸の女だと気づく。
「正樹、ここにいたのね。ところで、この女、誰なの? まさか、正樹、私を捨てて、この女と暮らしているの? でも、そんな感じはしないわね。こんな汚らしい女、正樹は相手にしないと思うし。でも、この悪臭、何? この女から匂ってくる。」
「これ、豚だよ。道で拾ってきたんだ。」
目の前には、裸で縛られている女が横たわっていた。
女子校の制服が部屋の隅に落ちている。
拉致され、毎日犯されていることはすぐに分かった。
いたるところにやけどの跡がある。
匂いからは、拉致されてからお風呂に入れてないのだと思う。
股の割れ目は黒光りをしたままで、清潔感はどこにもなかった。
酸っぱい物が喉を焼き、思わず飲み込む。
暴力で話すことが禁止されているのか、一言も話さない。
もう声を出す力も残っていないのかもしれない。
一つ間違えば、私も、こういう状況になるんじゃないかと凍りつく。
正樹と勝己は、暴力を振るう日々だったから、こんな光景には驚かない。
蹴られて肋骨とかが折れていても不思議はない。
その女は、もう生き続けるのを諦めているようにもみえた。
私がこんな姿にならないためには、こんな女とは違うと虚勢を張るしかない。
正樹と勝己の側にいて、この醜い女をいたぶるの。
私は、甲高い声で陽気に喋り続けた。
「豚なの、面白いわね。あそこなんて本当にグロテスクで汚らしい。気持ち悪いわ。」
「助けて。」
最後の力を振り絞ったのか、かすれた声が聞こえた。
「豚がしゃべるんじゃないわよ。正樹に同情を引こうなんて考えてないわよね。そういえば、いいこと思いついちゃった。」
「なんだ?」
「この豚の手と足を切っちゃえば、本当に豚のようになるわよ。」
「そんなひどいことやめて。同じ女性なら、こんなこと許されないってわかるでしょう。」
私は、目の前の女のお腹を勢いよく蹴りつけた。
女は目が飛び出るような顔でかがみ込み、力弱い咳をしている。
頭の上を足で踏みつけ、頭蓋骨が砕けるぐらいの力で床にねじ込む。
そうでもしないと、彼から捨てられ、次の獲物になるような気がした。
私は、もうこれ以上、惨めな生活はしたくない。
「だから豚はしゃべらないの。正樹、豚ならできるでしょう。」
「お、詩織、来てたんだな。なにを、そんなに盛り上がっているんだ?」
「勝己さんじゃない。今ね、この子の手足を切っちゃえば、本当に豚になるって盛り上がっていたの。」
「それはおもしろいな。詩織って、時々、超面白いこと考えるじゃん。お前のそういう残虐なところが好きだよ。まあ、そろそろ、この豚とやるのも飽きたし、やってみようぜ。ノコギリとかどこにあったかな。あった。じゃあ、正樹、風呂場に連れて行こうぜ。」
その女子高生は声にならない悲鳴をあげたけど、抵抗はできなかった。
「豚だと、この辺を切ればいいかな。」
「もう少し短いんじゃねえ。」
「そうするか。じゃあ、いくぞ。正樹、口をタオルで塞いで、手を横に引っ張れ。」
のこぎりで切るたびに、女子高生の口から泡がもれる。
目は上を向き、白目になっている。
お風呂の床は、真っ赤な血で染まった。
切り口は、私が用意した熱い包丁を当てて止血をする。
手足を切ったその体をうつ伏せにすると、そこには白肌の豚がいた。
その女子高生をみんなで豚、豚と言って笑いあった。
そして、翌日、声をかけると女子高生は息をしていない。
目は焦点が定まらず、生気が感じられずに濁っている。
口はだらしなく開いていて、食いしばっていた歯は少し欠けているのが見える。
人間は死ぬとこんな風になってしまうのね。
とはいっても、手足が切り取られ、床に転がった姿は人間には思えなかった。
むしろ、横に無造作に捨てられた手足が、人間を表しているように見える。
「なんだ、もう死んじゃったのか。次のおもちゃを探さないとだな。手間をかけさせやがって。本当に迷惑なやつだ。で、どうしようか、この死体。」
「正樹が働いていた工務店でドラム缶があったよな。」
「あったけど、どうするんだ。」
「そこに投げ入れてコンクリートを詰めちゃえば、完全犯罪のできあがりだ。」
「俺がやったとバレないかな。」
「正樹がいたのはだいぶ前だし、大丈夫だろう。むしろ、お前のこと辞めさせた工務店が責められるんじゃないか。」
「そりゃいいな。じゃあ、今夜に決行だ。」
正樹たちは、死体を入れたドラム缶にコンクリートを流し込み、空き地に放置した。




