4話 札幌の刑事
広島の千田公園に置かれた異様な死体について捜査本部が立ち上がっていた。
基本は現地暴力団関係の事件として捜査は進んでいる。
でも、違う観点で、この事件を見ている刑事がいた。
山梨県警を訪れた刑事。
自分がここにいるのも偶然だけど、この女は詩織が中学生の頃一緒に暮らしていた。
どうも自分の周りで詩織と関係する人たちが死んでいく。
詩織はテロで既に亡くなっていたが、これは偶然なのだろうか。
そこで、広島市内で、詩織の写真を手に持ち、聞き込みを始めた。
1週間ぐらいしたころ、皆実町のマンションで似た女が暮らしていたことがわかる。
ただ、似てはいるけど、少し感じが違うとも話していた。
800万円の現金をポンと出してマンションを買ったらしい。
そんな人はいないから、不動産屋は記憶に残っていると言っていた。
そして、その女は今、札幌に引っ越したとのことだった。
ちょうど、千田公園で晒された女が死んですぐに。
戸籍から、札幌の住所が判明した。
刑事は、その足で札幌行きの飛行機に乗り込む。
そして、そのマンションの前で張り込みをしていた時だった。
翌朝、そのマンションから女が出てくると、その刑事は体がこわばった。
詩織の面影を残す女性だったから。
「あのう、少しお話ししていいですか?」
「だれですか?」
「新宿警察署のものです。坂上 詩織さんですよね。」
「誰のことですか? 私は、藤井ですけど。」
「いえ、私はあなたのことはわかっています。最近、広島から引っ越しされていますよね。そして、テロ事件を契機に別人になりすました。」
「意味が分からないんですけど。」
「まず、警察署に来てもらえますか?」
目つきが厳しい刑事は、この場を離れようとする私の腕を強く握りしめる。
ここで拘束されれば、指紋等で過去のことがバレるかもしれない。
そう思い、刑事の手を払った。
「忙しいんですよ。これから行かなけばいけない所があって。これって、強制なんですか?」
「いえ、任意ですが。」
「じゃあ、私はここで失礼します。」
「ここで逃げると心証が悪くなるんですけどね。」
「付き纏わないでください。訴えますよ。」
「わかりました。今日はこの辺で諦めます。でも、今日の夜に、お住まいにお伺いしますよ。」
「本当に、誰なの。迷惑なんだから。」
私は、こんなこともあろうかと、また整形の準備を進めていた。
前の整形は、元の顔形の多くを残していたし、ホクロも残していた。
だから、面影は残っていたのだと思う。
今回は、昔の面影は全て消し、別人になることにする。
女の性なのかしら、今よりブスに整形することはできなかった。
目立つとは思いつつも、誰もが振り向くような美人に変身するよう医師にお願いする。
お金も銀行に預けておいたから部屋に戻る必要はない。
その足で、相談していた整形外科に行った。
5日間入院し、その後、ホテル暮らしで通院する。
帽子をかぶり、マスクとメガネをしていたから誰にも分からないはず。
3ヶ月ぐらいホテルを転々として、ほぼ傷はなくなった。
そして、また、なりすます別の女を探す。
暴力団の組員の彼に手伝ってもらった。
水商売の女の方が足がつかなくていい。
なりすましは2回目だからやり方は分かっている。
すすきのキャバクラで働く、昔の私と似てる女を拉致した。
名前は、結城 優美と言い、見た目は詩織だった頃の私の顔と似ている。
昔の私の顔って、よくいる女の顔だったのかしら。
そして、私の部屋の周りをまだうろついていた刑事もあの部屋に拉致した。
拉致した女も同じ部屋に連れてきて2人を閉じ込める。
薬で眠らせた2人は床に転がっている。
女のトップスを切り裂き、刑事が乱暴したように肌を出す。
そして、女の後ろから包丁で切りつけた。
その後、刑事のお腹に包丁を突き刺した。女の手を添えて。
刑事が詩織を脅し、強姦しようとした現場を作り上げる。
逃げた詩織が抵抗して、刑事を刺す。よくあるシーン。
2人からは、血が勢いよく吹き出し、部屋は血の池となっていた。
ここにいたのは1カ月ぐらいだけだけど、窓から街の光が溢れていて美しい。
部屋の血の池に月が映る。
私の人生は血にまみれていると改めて感じる。
いつもだったらもっと切り刻むんだけど、今回は2人の争いを偽装しないと。
やりすぎは疑惑を生む。
でも、この女の白い服は真っ赤に染まっている。
最近、不思議と、真っ赤な血の色が魅惑的に思える。
女はみんなクズ。
清らかな女なんて1人もいない。
みんな、周りの女を引きずり落して、貶めようとしている。
笑顔で話していても、内容なんて何もない。
あなたのためなんて言いながら、ひどいことばかり考えている。
その意味では、男は純粋で、まっすぐなのが好き。
たしかに、暴力的な人、女をだます人、いろいろな人がいる。
私の周りにはそんな男ばかりだった。
でも、笑顔で嘘を平然といい、女を貶めようと考えている男はいないと思う。
ただ、この刑事は別。
私のことを追い回して、私が前に進むのを邪魔する。
私はひどい環境に苦しんできた。
それを見ないで、ある時点だけを切り抜く。
それって視野が狭いというか、ずるいのよ。
たしかに、最初の彼氏だった正樹を殺した。
でも、それは正樹が私を裏切って、私のお金も持ち去ったから。
あれだけ愛していたのに裏切ったから。
そんなやつが普通に暮らせるなんておかしいじゃない。
死に値するでしょう。
どうして、ひどい正樹はのさばらせておいて、私だけが罰を受けるの?
本当にこの世の中はおかしいことばかり。
例えば、老人が認知症になって、出口がない暗闇に家族が崩壊していく。
単純に考えれば、死ぬ時期を超えて生きているから、そうなるの。
だから、早めに死ぬようにしなければいけない。
でも、糖尿病とかで、治療したくないといっても治療を強制する。
だから、長生きしてしまう。
本当に、そんな医者は近視眼的というか、社会の苦悩を生み出している。
世の中にはそんな人が溢れている。
ほとんどの人が目の前のことだけを見て仕事をしている。
そんなこと、あの刑事に言っても無理。
私を逮捕する、これだけが彼の仕事で、それ以上考えられない外道だもの。
だから、私が殺してあげた。世直しって、こういうことを言う。
窓から風が吹き込み、カーテンが揺れる。
私は、シャワーで血を流す暴力団の組員に黙って部屋を出た。
そして、翌朝、新たな名前で転居届けを市役所に出し、長崎に向かうことにした。




