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闇夜の女  作者: 一宮 沙耶
第3章 逃避行

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1話 逃走

「これで捜査は終了だな。なんか後味が悪い。あの奥さんがとても怪しんだが。」


山梨県警の捜査第1課では、夫の事件の捜査が終わった。

しかし、その1年後、新宿警察署の刑事が、山梨県警を訪問していた。

刑事は厳しい、突き刺すような目で山梨県警の刑事に話し始める。


「新宿区の空き地から殺された女子高生がコンクリート詰めにされたドラム缶が発見された事件、犯人は結構早く見つかったんです。犯人の男のポイントカードがドラム缶から見つかったからです。でも、彼は、その時には、埼玉の公園で殺されていた。」

「仲間割れですかね。」

「我々もそう思い、犯人と常に行動を共にしていた年上の男に事情聴取をしたら、犯行を認めたんです。」

「それはお手柄でしたね。それと山梨とどう関係があるんですか?」

「まず聞いて下さい。その事件は、女子高生を部屋に連れ込み、強姦した跡、手足を切断し、それが原因で死んだ死体をドラム缶にコンクリート詰めにしたんです。」

「極悪人ですね。」

「それで、逮捕された男が、女子高生の手足を切ろうと言ったのは、埼玉の公園で殺害された男の彼女だったと言うのです。」

「それで。」

「その女の名前は、坂上 詩織だというのですが、素性は知らず、その後は会っていないので、今、どこにいるか分からないそうです。」

「坂上 詩織ですか。1年前に八ヶ岳で殺された男の妻の旧姓は坂上で、名前は同じ詩織ですね。」

「ええ、同姓同名かもしれませんが、もしかしたらと思い、ここに来ました。」

「さっき、埼玉の公園で男が殺されたと言っていましたけど、写真とかないんですか?」

「写真は全くないんです。ただ、逮捕された男が、埼玉の男は彼女に殺されたんじゃないかと言っているんです。その女は、女子高生の手足を切って豚、豚と大笑いしていたというし、罪の意識が吹っ飛んでる感じがしたと言っていました。」

「でも、たしかに同姓同名はいますしね。我々が八ヶ岳で見た奥様は、けなげで、夫が行方不明で本当にうろたえていましたよ。」

「そうなんですか。違うかもしれませんね。で、その方の今のお住まいを教えてください。事情聴取を我々でしてみようと思います。」

「わかりました。これです。」


そこには、広尾の住まいの住所が記載されていた。


「この女には、まだ余罪がありそうなんです。中学の頃、同じクラスの学級員の女が屋上から落ちて死にました。その当時は、自殺ということで決着したんですが、どうも、その学級員と仲の悪い女たちがいて、屋上で彼女たちが言い争いをしていたという証言が今更にでてきたんですよ。その中に、坂上もいた。そうだとすれば、中学の時に、すでに殺人を犯していたということになる。もし、そうなら、こんな凶悪犯を野放しにしておくわけにいかないんです。」

「私も同感です。できることがあれば協力しますから、なんでも言ってください。」

「お願いします。」


そう言って、刑事は山梨県警を去っていった。

山梨県警から見える山々では、オレンジ色、黄色に彩られた紅葉があふれている。

でも、その刑事には、その風景は目に入っていないに違いない。

ただ、アスファルトをみて、力強く前に踏み出した。


同じ頃、私は、スマホでニュースを見て凍りついた。

私が埼玉で殺害した正樹の先輩だった勝己さんが逮捕されたと出ていたから。

そう、あのコンクリート詰め女子高生殺害事件のときの先輩。


そういえば、最近、広尾の家の周りで誰かに監視されているような気がする。

スーツを着た男たち。ストーカーかもしれないと思っていた。

でも、女もいたし、あれは警察に違いない。

私は、こういう勘はいい。それで生きてこれたとも言える。


こんなところで捕まるわけにはいかない。

しかも、やっと大金を手にしてこれから幸せになれるという時なのに。


実は、こんなこともあろうかと、策は練ってあった。

テロ組織が正月元旦に明治神宮を爆破するという情報が入っていた。

大勢が被害を受け、その中で死亡した女と私が人生を交換する。

そういう計画だった。


でも、そういうことなら急がなければいけない。

そんなこともあろうかと、あの暴力団の組員をテロ組織に潜り込ませていた。

暴力団の組員に連絡し、テロ組織に公安が踏み込むと偽情報を伝えることした。


それで計画は早まり、ハロウィンの日に渋谷で決行となる。

若者の街である渋谷は死体で溢れる。

若い男女の多くの死体が道路に横たわる映像が頭に浮かぶ。


これはテロ組織が、その理念を実現するため、人々を恐怖に陥れる。

私が人々を殺すわけじゃない。ただ、それを利用するだけ。

間違っていないわよね。


手足が吹き飛ばされた男の姿が頭に浮かぶ。

お腹を打ち付け、破水した妊婦の死体も見える。

頭だけが道に寂しく転がった映像も見えた。


でも、それは、日頃から何も考えず、ただ生きている人の成れの果て。

ただ、楽しく、惰性のように生活し、渋谷で快楽に溺れているから悪い。

底辺の人たちは、そんな時間には疲れ果て、家で体を休ませている。


いずれにしても悲惨な事故が起こる。

でも、そんな夜も、私には明るい将来への第一歩になるの。

多くの人たちの犠牲のもとに。


これまで私の犠牲のもとに多くの人が楽しく過ごしてきたんだから罪悪感はない。

私は本当にこれまでずっと虐げられてきたもの。

幸せになる権利がある。


あと3日ぐらいなら逃げ切れる。

私は、決行の日、銀行からすべてお金を引き下ろし、現金をキャリーバックに入れた。

そして、横浜のホテルの一室にキャリーバックを置いて渋谷に向かう。


夜21時の渋谷、人で溢れかえっていた。

その時、スクランブル交差点からSHIBUYA109の通りで大爆発が相次ぐ。

大勢の人が血だらけになり倒れた。

怪我をしていない人たちもパニックになり、渋谷の街は大混乱になる。


私は、あらかじめ知っていたから冷静に、道端に倒れ死んでる女を探した。

年齢が近く、背格好、容姿が私に似ている女。

すぐに見つかった。


その女は頭を打って脈もなかったけど、体はそれほど傷ついていない。

頬や服は爆破されたコンクリートの埃をかぶっている。


助けるふりをして、ビルの影にその女を連れ込んだ。

そして、その女のバックから身分証明書になるものを探す。

運転免許証が出てきた。藤井 紗奈、いい名前じゃない。


しかも、都合のいいことに、キャバクラで働いているみたい。

キャバクラの沙友理という名刺が20枚ぐらいでてきた。


大企業とかに勤めていると足が付きやすい。

キャバクラみたいな裏社会で生きている人なんて誰も覚えてなんていない。

お店が把握している履歴なんてあてにならない。

親がいたりすると、どう対処するかぐらいね。


スマホを取り上げ、顔認証でロックを外し、PWを変えておく。

そして、その他のカード類をすべて取り出し、私の運転免許証と銀行カードを入れておく。

もちろん、その銀行口座にはお金は入っていない。


これで、テロで私が死んだことになる。

犯人が死んだんだから、警察も諦めるはず。


テロで大勢が死んだけど、それは私のせいじゃない。

私が関与しようとしなくても、テロ組織がやっていたこと。

そして、この女は死んでるんだから、私と入れ替わってもどうでもいいこと。


でも、人って簡単に死んでしまう。

生きているときはどれだけ苦悩に苛まれていても関係はない。

死んでしまえば、それから逃れることができる。


逃げるのは簡単なのに、なんでみんな生きているのだろう。

楽しいことなんて何一つないのに。

たぶん、前に一歩踏み出す勇気がないだけ。


生きていても楽しいことなんて何一つないでしょう。

それとも、そんなこと考えるのは生きる価値がない私だけなの?

汚れている私だからなのかしら。


たしかに、公園で友達と遊んでいた子供の頃は楽しかった。

目の前の公園で子供たちは無邪気に遊び、笑い声をあげている。

でも、いつからだろうか、抑圧された真っ暗な日々が続く。


もう疲れた。

でも、みんなと同じで死ぬ勇気はない。

生きていかなければいけない。

そのためにも、しばらく藤井さんの人生を貸してもらう。


私は、横浜のホテルに戻り、広島に行くことにした。

翌日、朝一で藤井が住む大田区役所に転居届を出す。

そして、現金で横浜のホテルをチェックアウトする。

足が付くカードは使わない。


そして、広島では、昔からコンタクトしていた不動産屋に向かった。

皆実町にある800万円のワンルームマンションを買いたいと。


印鑑証明とかはこれから作ると言い、現金をそのまま出したの。

テロが起きた東京が怖くて、すぐに広島に来てしまったといいながら。

そうしたら、それ以上なにも言わずに契約は成立した。


そして、区役所に行き、転入届を出した。

これで、広島市に住む藤井 紗奈としての暮らしが始まった。

家のクローゼットに雑に3億円の現金を置いて。

当面は、地味に暮らそう。


その頃、東京の警察では、私の事件に力を割けず、テロへの対応に明け暮れていた。

しかも、私は死んだとして、捜査も打ち切りになる。

広島に私が移ったなんてことなんて想像すらできずに。

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