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闇夜の女  作者: 一宮 沙耶
第2章 自立

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10話 バラバラ殺人事件

夫とは1年暮らしたけど、あんな人だとは思わなかった。


まず、夫はとてもケチで私が自由に使えるお金はなかった。

しかも、ホコリがひとつあると、私を怒鳴りつける。

昔、3人の女の一番下で奴隷になっていた日々が蘇る。


最初は優しかったのに、私を裏切って他の女と寝ていた。

夫はまだバレていないと思っているようだけど、決して許さない。

また、他の女と寝た体で私を抱いていたなんて気持ち悪い。


私は、夫を殺そうと考え始めていた。


「ねえ、あなた。私はあなたがいないと生きていけないの。でも、人って、死んじゃうこともあるでしょう。だから、私が生きていけるように保険に入ってもらいたい。」

「保険なんて、無駄だろう。僕は元気だし、死ぬ気がしない。」

「そんなこと言っている人が病気になったりするって聞いたわ。また、一旦病気になるともう保険には入れないって聞いたし。」

「完全に保険屋さんに毒されているね。」

「そうじゃないの。あなたがいなくなるなんて考えられないけど、もしものために、私が生きていけるよう保険をかけて。」

「そこまで言うならそうしようか。」

「じゃあ、ここにサインと押印をして。」

「やることが早いな。わかったよ。サインと押印ね。押したよ。じゃあ、話題を変えよう。」


私を騙しているせいか、自分が騙されているなんて夢にも思っていない様子。

全て、私の手のひらの上で踊らされている。

私も多くのことを学んだから、もう騙されたりはしない。


「私のことを大切にしてくれて嬉しい。違う話題といえば、最近、お互いに気持ちのすれ違いもあるし、旅行にでも行こうよ。」

「たまにはいいか。どこがいい?」

「八ヶ岳の別荘とかどう? 帰りに、小淵沢アウトレットに寄ってみたいし。」

「ああ、たまにはいいかもな。ただ、無駄遣いはいけないぞ。買うときは俺が許可したものだけだからな。」

「分かったわよ。じゃあ、別荘、予約しておくね。あと、あなたが好きなサロン・ブリュット・ブラン・ド・ブラン1996と、山崎シェフに出張をお願いしておくわ。」

「それは楽しみだ。また、あの別荘は温泉があるから、たまにはゆっくりするか。」


夫は、自分が楽しむためだったらお金は惜しまない。

私がおしゃれをする時は一つひとつチェックするのに。

夫と八ヶ岳の別荘に行き、出張シェフが作ったイタリアンを囲み、シャンパンで乾杯した。


「山崎シェフ、いつも、美味しいお料理、ありがとう。」

「本当に、いつも美味しいな。」

「いえ、こちらこそ、いつもご贔屓にしていただき、ありがとうございます。ぜひ、お二人で、良い夜をお過ごしください。私はこちらで失礼します。」

「それが残念なの。私は、今夜帰らないといけないのよ。だから、お酒も飲めなくて、せっかくのシャンパン、もったいないわ。」

「そうなんだよ。妻は仕事熱心でね。せっかくだから泊まればいいのに。」


本当にそう思っているなら、自分の秘書なんだから、いくらでも引き止めることができる。

私が帰り、1人の時間を楽しみたいと思っているだけだと思う。

もう、私たちの間には愛情というものが、どこにもないのだと思う。


「そうなんですね。いずれにしてもごゆっくり。では、私はこちらで。」


これで、私は夜にはいなかったと言ってくれる証人づくりができた。

夫がトイレに行っている間にシャンパンに薬を入れておく。

思ったより、すぐに夫は眠りについた。


私は、夫をお風呂に連れていき、胸に包丁を突き刺した。

血が勢いよく飛び散ったけど、シャワーで洗い流す。

そして、庭の枝木を切る電動ノコギリで手足、首を切ったの。


電動だから女の私でも簡単に切れる。

昔、女子高生をのこぎりで切るのを見たから、どう切ればいいかわかっていた。

あんなに大きかった夫の体が、どんどん小さくなっていく。


胴体もお腹から半分に切った。

その時に、内臓が外に漏れだし、辺りは汚れる。

さっき一緒に食べたステーキの脇にあったトウモロコシがいくつも転げ落ちた。


汚らしいわね。お腹は切らなければ良かったかも。

でも、切らないと重くて捨てられないし、しょうがないわね。


バラバラにして、真空パックに詰めると、スーパーで売ってる肉の塊みたい。

さっきまで話していた人とは思えない。

でも、頭だけは生きていた頃の夫だったことを表していた。


夫の頭を抱きしめる。

私を愛し続ければよかったのに。

すっかり血の気がなくなった顔はうなだれ、お詫びしているように見えた。


この整った鼻と口、私は憧れていた。

どうして、みんな私から去って行ってしまうの。

私を普通に大切にしていてくれれば、これからも一緒に楽しい時間を過ごせたのに。


どこで間違ったのかしら。

やっぱり、私は幸せになってはいけないのかしら。

そう、みんな私を嫌いなの。


昔からそうだった。

私は父から犯され、母の心を壊してしまった。

私は汚い。


これまで私の周りで何人も死んでいった。

私と関わったからかもしれない。

でも、私は悪くない。私は幸せになりたかっただけ。


そう、妻である私に、この家と保険金が手元に入ってくる。

私は大金で、ステキな人と再婚して幸せになる。


そして最後に夫の大事なところを切り取った。

大事なところは、いつも大きくて固かったのに、切り取ると小さくなっている。

これも乾かして、宝物として私の部屋に飾っておこう。


夫の体を、裏庭の林の土の中に埋めた。

その後、歌いながら車で東京の家に戻った。


そして、3日後にまたあの別荘に行って、夫が行方不明だと警察に届けた。

夫は、自由人で、よくふらりと1人で旅行に行ってしまうとも告げて。

警察は裏庭で不自然に土を掘り返した跡を見つけ、夫の死体を見つける。


私が夜に帰宅すると聞いたと料理人は証言をしてくれた。

道路にある監視カメラも、私が東京に戻っていったことを証明してくれた。

それに加え、正確な殺人時間を特定できなかったことが幸いだった。

夫の体をバーベキューをする機材で焼いておいたから。


しかも、死体をバラバラにするなんてか弱い女のできることじゃないと思われたみたい。

怪しい男がその近辺にいたという証言もでてきた。

暴力団の組員にその辺りをうろうろさせていたの。


でも、どうして私ばかり不幸に襲われるの?

私はずっと抑圧されて被害者だった。

何も悪いことはしてないのに。


みんなが悪いの。

私の周りには、抑圧したり、いじめたり、ひどい人ばかりだった。

それに膝まづく日々を過ごしてきた。


そして、男を操る方法も身につけた。

その力を使って、男とも楽しく暮らした。

でも、どの男も私を幸せにしてくれなかった。


どうして私を笑顔で支えてくれる人が現れないの。

私はか弱い女だから1人では立てないの。

それなのに、みんな私のことを嫌う。


私が汚いからなの。

私は生きる資格がないの?

夫も自分勝手で私のことを見てなかった。

優しかったのは結婚するまで。


男がみんなそうだとは思わない。

きっと私だけが運がないの。

だって横を通り過ぎる男女はいずれも幸せそう。


不幸なのは私だけ。

私のことを本当に愛してくれる男はどうして現れないの?

そういえば、昔、男はみんな寝た後、お金を置いて去っていった。


どうしてこんなに苦労してるのに愛が手に入らないの?

神様がいるなら助けて。

ただ普通のことを求めてるだけなのに。


結局、夫の事件は犯人が分からずに捜査は終わった。

そして、期待どおり保険金も私の元に入ってきた。


私は、自分の気持ちが少しづつ変わりつつあるのを感じていた。

でも、何を目指して前に進んでいるのかはまだ分からない。

そんな自分に戸惑っていながら、ただ前に進んでいく。

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