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闇夜の女  作者: 一宮 沙耶
第2章 自立

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9話 報復

彼に付きまとう女は、中野に住んでいた。

ほとんどリモート勤務で、お昼には買い物に出かける規則正しい生活。

週に1日は新宿のオフィスに出社している。


大手IT会社で働く、ごく普通の20代女性社員という感じ。

彼と一緒の時と違い、地味な感じがする。

特徴的なことと言えば、アメリカで暮らしていたからか、同僚の黒人達とよく話している。


本性を隠し、ごく普通の人として静かに暮らしているみたい。

そんな人には、同僚が驚くような、意外な一面を公表するのが効果的。

もう、普通の人の前には出れなくなる。


その女が、中野の家に帰る夜道で、昔働いていたお店にいた暴力団組員に襲わせた。

車に押し込め、すぐに暴力団が用意した部屋のベッドに縛りつけて薬漬けにする。

その後、薬が欲しければ、男と寝ろとファッションヘルス店に送りつけた。


その女は、薬欲しさに、毎晩、男と寝る日々が続く。

そして、媚薬で正気をなくしたのか、もっともっとと大きな声で腰を振っていた。

あそこから液が飛び散り、本当に気持ち悪い。


でも、この姿がおまえの本当の姿なの。

そんな醜い姿をネットで流してやった。

品がないそんな姿を顔出しで。


それをネットで流すだけじゃつまらないじゃない。

TV局をハッキングしてCMを乗っ取り、この映像を全国放送で流したわ。

TV局がハッキングされたと別の意味で話題となり、誰もが話題にする。

更に、週刊誌が便乗し、大手IT企業の女性社員の実像と大いに話題を広げてくれた。


実名はネットやCMで広まり、あの女は家で塞ぎ込むようになる。

外に出ても、人々は汚らしいと蔑み、母親は穢れてしまうと子供を遠ざける。

欲しいんだろうと声をかけ、大笑いし、公然とバストを揉む男子学生達がその女を囲む。


彼も、流石にあの女のもとに行くことはなかった。

やっと、別れることができたのね。

あんなくだらない女に縛られていたのを断ち切れたんだから私に感謝して欲しい。


でも、これで許されるなんて思わないで。

暴力団にお願いして、あの女が寝ている部屋に入り込んだ。

その部屋はゴミが溢れ、ベッドには倒れ込んだようにあの女が横たわっている。


暴れても困るから、薬は少し渡してある。

今は、薬で夢幻状態なのか、部屋に男達が入ってもベッドから起き上がる気配はない。

ただ、うつろな目で天井を見つめ、全て夢なのと口から声が漏れる。


肌は荒れ、髪の毛は汗に塗れ、べとべとしているのが見るだけでわかる。

顔はニキビだらけで、薬のせいか真っ青。

嘔吐したのか、枕は汚物で汚れている。


お風呂に入っていないのか、ゴミの匂いよりも強いアンモニア臭が部屋に充満する。

体には何も身につけず裸で、もう女としての誇りはなくしているよう。

シーツは濡れて黄色になり、異臭が漂う。


冷蔵庫をみると、ほとんど何もなく、カビだらけの玉ねぎだけが転がる。

何日も食事をせずに、薬だけの生活のように見える。

もう、こんな生活から開放してあげるから安心して。私は優しいの。


男達は、手際よく、窓や通気口をガムテープで塞ぐ。

そして、七輪で火をつけたまま部屋を出た。

数日後、一酸化炭素であの女が自殺したとニュースで密かに報道された。


身の程知らずに彼に近づくあなたが悪い。

体にウジがわき、警察の人に裸の姿で見つかるのがあなたの運命だった。

それだけのこと。


あとは、彼と私が結婚するだけ。一緒に暮らしていても結婚しないと。

私は、古い方法で彼に近づいた。

彼の家のすぐそばで暴力団に私を襲わせて、彼に助けを求めたの。


彼がジムで筋肉を鍛えていることは知っている。

必ず、彼は私を助けてくれるはず。

そして、恐怖に怯える私を守るために、すぐそばの自宅に招き入れてくれるはず。


彼は暴力団を追い払い、手が震える、けなげな私を優しく包み込んでくれた。

この前、嗅いだタオルのシトラスの香りがする。

口を震わせ、彼の胸に顔を埋めた。


「今日は大変でしたね。」

「助けていただき、ありがとうございました。でも、まだ怖くて体が震えてます。」

「じゃあ、ここは僕の家なんだけど、このまま夜道を歩いていると、またあいつらに襲われるかもしれないので、今夜だけ泊まっていってください。明日になったら、一緒に警察にいきましょう。」

「そこまでしてもらっては悪いです。奥様に怒られるでしょう。」

「僕は独身だし、誰にも怒られないですよ。気にしないで。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。でも、警察はいいです。被害はなかったので。」

「そうですか。では、このことはすぐに忘れてしまいましょう。でも、まだ震えているじゃないですか。さあ、入って落ち着きましょう。」

「では、お邪魔します。」


意外と早く、彼とは結婚ができそう。

この家のことはなんでも知っている。


「まず、おトイレを借りますね。」

「ああ、いいですけど、よくトイレがそっちだと知っていますね。」


まずい。初めての設定を装わないと。


「こっちかなと思って。早く行きたかったので慌ててしまいました。恥ずかしい。」

「気にしないで。ワインでも出しますから、くつろいでください。」


その晩、彼は私に全く手も出さずに、ベットのある部屋に通してくれた。


「初めての家で、男性と一緒だと緊張すると思いますけど、ゆっくり寝てくださいね。じゃあ、また、明日。」

「ありがとうございます。本当に、何から何まで。」


それから1ヶ月後、私は彼の部屋で暮らしている。

彼の会社で彼の秘書として一緒に働く仲にもなった。


私は、彼の前では精一杯背伸びをする。

やっと見つけた彼氏だもの。

そして、盛大な結婚式を迎えたの。


これで私は幸せになれる。

真っ白なドレスが、これまでの穢れを清めてくれるよう。

私も、普通の女の幸せを手に入れた。


特別なものじゃない。

お世辞でも綺麗とは言えない女でも、結婚してる人は大勢いる。

私が普通の生活に入れただけ。


本当に長い道のりだった。

いつも奴隷のように自分の気持ちを押し殺してきた。

これからは、どんなわがままでも、夫が笑顔で聞き入れてくれる。


もう私にまとわりついていた鉛のような重しは消えた。

普通の幸せに包まれると、体がこんなに軽くなるとは知らなかった。


また、夫はお金持ちだから、好きなものを買ってもらおう。

心の余裕が日々の生活を覆う。

これまで苦労しても我慢してきたかいがあった。


空をみあげると鳥が楽しそうにさえずる。

巣のような小枝のかごには子供がいるみたい。

私にも子供ができて公園で陽の光を一緒に浴びる。


そういえば、最近、光と色を感じる。

世の中は美しい。


家族で満ち足りた時間を過ごせるのはもうすぐ。

私はこれまでに感じたことがない安心に包まれている。

そしてふかふかのベットで眠りに落ちていった。

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