7話 知的障害者
誠一がいなくなり、しばらくは自由な気分で過ごしていた。
でも、気分は躁鬱を繰り返し、寂しさに押しつぶされる夜を過ごすようになる。
重い、ねっとりとした物が、私の体にのしかかる。
お金の対価じゃなく誰かに抱かれたい。そして、愛されていると感じたい。
そんなことばかりを考える日々が続いた。
そんな時、公園で、知的障害を持つ高校生を見つける。
うまく喋れないけど、スタイル、顔はアイドル並。
公園の中で、1人だけ、特別なオーラを放っていて、目が離せなくなる。
ただ、お母さんが帰ってくるのをベンチに座りながら待っている。
何をしているのだろう。
指をさして、鉄棒の数を数えている。
一つ、二つ、三つと、幼稚園児のように。
「1人なの?」
「お母さんがスーパーで買い物をしているから、僕は公園で待ってるんだ。」
あどけない顔で私を覗き込む。
その顔にはどこにも邪念はなく、透き通った清らかな気持ちが流れていた。
「そうなんだ。私ね、お母さんの友達なの。どう、ここは寒いでしょう。私の部屋で待ってましょうよ。お母さんには連絡しておくから。」
「お母さんからは知らない人にはついていかないようにって言われているけど・・・。」
「そう、知らない人は危ないわよね。でも、私、お母さんの友達だから知らない人じゃないわ。いらっしゃい。」
「わかった。」
疑うことを知らない、どこまでも純粋な男の子。
これまで、こんな男を見たことはなかった。
すぐに、私を幸せにしてくれると直感する。
私は、彼の手を引き、1km程先の自宅に招き入れる。
彼は、知らない部屋にお辞儀をして靴を脱ぎ入り込む。
私が出したオレンジジュースをゆっくり飲んでいた。
とても行儀がいい。
こうやって、知的障害者の高校生との共同生活が始まった。
どうも短期記憶障害のようで、私の部屋に来る頃にはお母さんのことは忘れている。
彼は、TVの子供番組を見て、膝を手で打ち付け、楽しんでいる。
外はだんだん暗くなって、頼んだピザを彼に差し出すと、美味しそうに食べていた。
歯磨きをしてあげると、自分でできると口に歯ブラシを入れる。
一緒のベッドに入り、朝は、彼の頬にキスをする。
彼は、家を勝手に出ていこうとはしなかった。
母親が躾けていたのかもしれない。
何も言わなければ、ずっとTVを見て過ごしている。
テーブルにパンとか置いて、お昼に食べてねと言い残せば、自分で食べている。
そのうち、教えると、私がいない間にトイレ掃除とかをしていた。
さすがに火を使うことは危ないから、料理はさせていない。
彼のおかげで、部屋はいつも綺麗に整理整頓されている。
粗雑な私にはできないことが、彼にはできる。とても重宝した。
立派だと彼を褒めると、恥ずかしそうに次も頑張ると言う。
彼は、自分で料理を作れないし、ここがどこかも分からない。
今、この部屋に放置すれば、ただ静かに死んでいくだけなのだと思う。
生き抜くという欲がない。その分、邪心はどこにもなく純粋な男の子。
この子は私がいないと生きていけない。
だから、この子は私が守るの。
お互いに信じ合い、頼られる永遠の純粋な関係。
こういう関係が欲しかった。
そして、この子の性欲は普通の高校生。
だから、毎晩、私を抱いてくれる。
1晩に何回も体を求められることもある。
それだけ私のこと愛してるってことよね。
私は、純粋に私の体を貫く若い男に抱かれ、いつも体に稲妻が炸裂していた。
これまで、こんなに気持ちが良かったことはない。
夜に帰り、彼を見つめていると、知らぬ間に、濡れてくるようになっていた。
子供を産むのはまだ早いから避妊をしている。だって、まだ高校生でしょう。
でも、私のことだけを愛してくれる。
こんな充実した時間はなかった。
もう1年も、彼は私のもとにいる。
私の部屋から一歩も出ずに私のことだけを見てくれている。
下着は何色が好きなのと聞き、いつも彼の好みの下着をつける。
「ねえ、あなたは病気だから、今日は病院に行きましょう。」
「病院、痛いのは嫌だよ。」
「大丈夫。」
そうやって彼を整形外科に連れていき、顔の雰囲気も変えた。
別のイケメンになった。これで、外でも見つかることもない。
母親も1年も見つからないんだから、もう生きていないと思うはず。
彼のことを守るためにもお金はいる。
でも、誠一さんのお金も含めて、私の元にはお金はいくらでもある。
そんな時、彼は急にお母さんのところに帰るといい出した。
「私のこと愛しているんでしょう。ずっと、ここにいるのよ。」
「嫌だ。僕は、お母さんのところに帰るんだ。お姉さんとしたことは気持ちよかったけど、いつも同じだし、もう飽きたんだ。帰してよ。」
彼は大騒ぎをし、もうだめだと思った。
高校生の男の子の力は私には抑えられないし、大声で近所からも目立ってしまう。
「わかったわ。じゃあ、車で帰ろう。車に乗ってお母さんのところに帰ろう。その前に、最後だからお茶で乾杯しようよ。」
「わかった。これまで、どうもありがとう。」
お茶の中に睡眠薬を入れたので、車の中で彼はすっかり眠り込んでいた。
彼を山梨の山中に運び込み、ブルーシートの上に彼を寝かせる。
そして、レインコートを着て、彼の胸に包丁を刺した。
血しぶきが大きく上がる。
胸を開き、心臓を取り出した。
まだ、この心臓は鼓動を打ち続けている。
この温かいハートが私を愛してくれたのね。
そして、目玉をアイスピックで刺してえぐり出した。
目玉から糸のようなものが連なって出ている。
これが私の体をずっと見続けてきたのね。
静寂が包み込む山林の中で、私は彼との最後のお別れをする。
純粋でお互いに尊重し合う関係が、どれだけ尊いものなのか噛み締めて。
彼との日々が頭の中を巡る。
私は、その心臓と、目玉を抱きしめ、口づけをした。
血だらけになりながら。
これまでありがとう。私を愛してくれて。暖かい。
木々は、風に吹かれ、これまでの私達を祝福してくれているよう。
そう、私は、彼との時間は楽しかった。
これからも永遠に続くものだと思っていた。
でも、魅力にあふれる私をあなたは受け止めきれなかった。
お母さんなんてくだらない女を思い出してしまったのがあなたの罪。
ゆっくりおやすみなさい。
あなたの冥福は私が祈ってあげるから。
そして、穴を深く掘り、ブルーシートとレインコートも彼の体と一緒に埋めた。
さっき取り出した心臓と目玉を除いて。
これは、乾燥させて、私の部屋に置いておく。
私が愛された記念として。
この山には、人が滅多に入らないことは調べて知っている。
白骨化するまでは見つからないと思う。
誰からも見られることなく、朽ち果てていく。
もしかしたら、熊に掘り返され、食べられてしまうかもしれない。
それはそれで事件だから、いいかもしれない。
もう、死んだ体は、肉でしかなく、私にはどこにも感情は感じられない。
でも、振り返ると、この子はずっと寂しそうだった。
私が母親の友達じゃないことも分かっていたのかもしれない。
嫌々、この家に閉じ込められていると思ってたのかも。
本当に優しい子だった。
昔の私のような奴隷にさせていたのかしら。
私の体を求めている時も笑顔はなかった。
いえ、それは照れていただけ。
自分を表現できなかったのよ。知的障害者だから。
だって、私はこの家に閉じ込めていたわけじゃない。
彼の意思は尊重してきた。
私は女として魅力的なはず。
そんな私と一緒にいて楽しくないはずがない。
母親を急に思い出して、会いたくなっただけなの。きっと。
この子の気持ちを拘束してたのは母親。
なんていう女なの。ここにいないのに、この子を私から奪ったんだから。
彼を殺したのは、母親であって、私じゃない。
私は不幸。
いつもやっと手にした幸福はいつもすぐに手から溢れ落ちてしまう。
誰か、私を永遠の幸せで包みこんで。




