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闇夜の女  作者: 一宮 沙耶
第1章 依存

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1話 LINE

いま、何しているの?


さっきから、その10文字を正樹のLINEにメッセージを送り続けている。

返事がなくてもう3日も経った。

今夜、同じメッセージを20通も送っている。


スマホから顔をあげると、髪が乱れた女が目の前の鏡に映る。

こんな日は、たった1分が永遠に続くように感じる。


一緒に働いているキャバクラでも、最近、正樹を見かけない。

正樹とは付き合ってから3ヶ月。

私が19歳の時だった。


振られてしまったの? そんなはずはない。

正樹の歯ブラシがそこにあるってことは、私と一緒に暮らしているってことでしょう。

私が一方的に買った、おそろいのカップが寂しそうに並ぶ。


正樹との生活を知った私には、1人だけの部屋はあまりに寒々しい。

あわれな自分の顔を見たくないから部屋の電気を全て消す。

真っ暗な部屋の角に座り、無機質な壁に支えられて、足を手で抱える。


スマホの光だけが私の顔を照らす。

今の私にとって、スマホは唯一の話し相手。

でも、その画面は氷のように冷たく、暖かさは伝わってこない。


私のメッセージだけが右にずっと並ぶ。

その数が多いほど、孤独は募り、見えない誰かが心臓を握り潰そうとしているみたい。

息ができずに、咳き込んでしまう。


マンションの2階の廊下を誰かが通る音がした。

私は、すがるような目線を廊下に向ける。

でも、こんな女に誰も興味はなく、ただ通り過ぎていく。


時計の秒針が、部屋で鳴り響く。

それ以外の音はなく静寂に包まれた。

この部屋は、まるで監獄のよう。私の心は囚人のように孤独。


今日も返事はないのかな。

シャツは、上から落ちる雫で濡れる。

冬なのに、部屋は陰湿な煙で揺れてるみたい。


あれ、どうして泣いてるんだろう。

目から涙が溢れ出てきてしまう。

正樹から返事がないなんて、よくあることなのに。


ただ正樹に抱きしめて欲しいだけなのに。

温かい正樹の腕の中で安心して眠りたい。

でも、部屋は凍えるくらい寒い。


正樹は、私のこと嫌いになっちゃったの?

他の女のところに行ってしまったの?

私には、どこにも正樹を引き留めておく素敵なところがないものね。


私は、性格が暗いせいか、学生の頃から男子から声を掛けられることはなかった。

だから、正樹の前では背伸びをして、ことさらに明るく振舞っていたのに。

魅力がないことが見透かされていたのかな。


スタイルでいうと、私のバストは気持ち悪いぐらい大きい。

学校では牝牛と呼ばれ、下品だと、ずっとコンプレックスを感じてた。

クラスメイトの上品なバストがずっと羨ましかった。


熱中できるものも、正樹以外に何もない。

正樹がいない週末なんて、何もすることがないつまらない女。

正樹が唯一の私の自慢。


私たちには、幸せな時があったでしょう。

3カ月前には、朝まで一緒に過ごして、朝ごはんを食べたじゃない。

外苑前の黄色い絨毯が敷き詰められたような銀杏並木の脇にあるカフェで。


朝まで、正樹の顔を見ながら、一睡もしなかった。

こんな幸せな時間を眠って無駄にしたくなかったから。

でも、今は、横には誰もいない。


暗闇のなかで、本当に正樹がいないか手を伸ばす。

誰もいないのはわかっている。

長い髪の毛が手に巻き付くだけ。

寒い空気が体の中に入ってきて、寂しさが増す。


昔はこんな夜は当たり前だったのに。

正樹の優しさを知ってしまった私は、もう昔には戻れない。


この3日間、正樹からの返事を待って、ずっと眠れない。

もう、体も疲れ切って、今日はここで床に倒れ込むのだと思う。

昨日もそうだったから。


もうメッセージを送って5分以上経つのに返事がない。

耐えられなくて、また次のメッセージを送っちゃった。


電話しようかな。

でも、今は深夜1時で、正樹が寝ていたら起こしちゃうからだめ。

そんなことしたら、正樹に嫌われちゃう。


スマホを握りしめる手に力がはいる。

人差し指が電話アプリに伸び、ふと我に返って指を引く。

涙は止まらないし、もう自分が何をしているのか分からない。


今、正樹は何をしているの?

スタンプ1つでいいから返事が欲しい。

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