3話 裏切り
正樹は暴力団だけではなく警察からも監視され、私の部屋に閉じ籠る日々を過ごしていた。
朝からゲームをするしかやることがない。
しかも私の紐なのが恥ずかしいのか、私にキツイことを言わなくなる。
もしかしたら、紐から脱出して、愛する私を養うためにホストになったのかもしれない。
そんなこと気にしなくていいのに。
でも、そんな時間が重なると、正樹の野生の牙は抜かれていった。
なにか腑抜けたというか、どこにも気迫というものがなくなっていった。
最近、太ったようにも感じる。
私は、あいかわらずキャバクラで働いていた。
毎晩、客とアフターをしてホテルで過ごしていたの。
正樹は、金さえ貰えればどうでもいいと、なげやりの様子。
私は、正樹を明るい外に連れ出そうと、腕を組み、買い物に出かける。
普通の夫婦みたいで、正樹を独り占めできる幸せに浸っていた。
「少し、パチンコに行ってくる。」
「また、帰ってこないなんてことやめてよね。出ていったりしないわよね。」
「大丈夫さ。お前を抱きしめに帰ってくる。3万円くれよ。」
「はい。私、あなたなしでは生きられないし。」
正樹は外に出て呟いた。
「まあ、贅沢させてもらってるからいいんだけど、そろそろ飽きたな。金のありかもわかったし、そろそろ終わりかな。」
そんなことを知らずに、私は、その日も、正樹のベットに潜り込んで求めた。
でも次の日、家に帰ると正樹はいなかった。
お酒でも飲みに行ったのかと待っていたけど、3日経っても戻ってこない。
そして、貯金が全てなくなっていることに気付いた。
その頃は、キャバクラでの仕事とともにドラッグの販売も行っていた。
だから、かなりお金を貯めていたのに、全てなくなっている。
私は愛されていたんじゃなかったの?
あれだけ親切にしてあげたのに。この仕打ちはなに?
私は、ほてる体が充たされず、裏切られた怒りで自分を抑えられなくなった。
その頃には、暴力団組員で私を慕う若者がいた。
別にお金とか受け取らずに、私の命令にはなんでも従ってくれる。
多分、私のことが好きなんだと思う。
私の言うことなら、殺人でも厭わないと話す。
いつも、静かに後ろから見守ってくれていて、なにかの時に助けてくれる存在。
しかも、かしこくて腕力も強いから、とても役立った。
私は、その暴力団組員を使い、正樹を探したの。
1週間もしないうちに、正樹は、春日部の金崎に住んでいることがわかった。
私は、その組員が運転する車ですぐに正樹の家に駆けつける。
正樹の家で待ち伏せをし、大声をだすのが嫌ならといい、近くの公園に連れ出す。
家の中にはまた別の女を連れ込んでいるようで、私を部屋に入れずに、目も合わせない。
今更に会う正樹はジャージ姿で、魅力がどこにもない、ただのおじさんに見える。
こんな人を好きだったんだっけ? 私が人生を捧げてきた人がこの人なの?
そんな姿を見て、別の女と一緒に暮らしていると分かっても、心に何も波はたたなかった。
あれだけ憧れていた私の心は、すっかり冷え切っている。
球場も池もある大きな公園は、夜は誰もいなくて、闇に包まれている。
「用事がないなら帰るぞ。俺たちは別れたんだから、もう会う理由がないだろう。」
「別れてあげるから、私から盗んだお金を返しなさいよ。ひどいじゃない。」
「あれは、お前が、俺に貢いだんだろう。だいたい、お前は、性欲にまみれた汚い女じゃないか。面倒をみてやっただけありがたいと思え。盗んだなんて俺が悪いみたいじゃないか。」
汚い女という言葉に私は怒りが爆発した。
どうして、こんなくだらない男に心を惹かれていたのだろう。たしかに顔はいい。
でも、女に金をせびることしか能がないみすぼらしい男が目の前にいた。
安っぽいジャージ。前かがみでオーラもない。
どこまでも暗く神秘的だった正樹は、もうどこにもいなかった。
ただ、どこにでもいる落ちぶれたおじさん。
私が愛情につぎ込んだ時間を返して。
こんな男のために、あざをかかえて生きてきたことがばかばかしく思える。
「助けてあげたのは私の方よ。あなたが私を愛していると思ったから体を差し出したのに、そんな言い方、ひどい。あなたなんて死んでしまえばいいの。」
「おい、この男は誰なんだ。」
「私1人じゃ力で負けちゃうでしょう。応援を呼んだのよ。」
正樹は、暴力団の組員に殴られ、蹴られ、もう息はしていなかった。
そのまま、組員は、正樹を公園の池に放り投げる。
腰の部分から池に沈み、顔は水の中で見えない。
顔がみえなければ、どこにも取り柄がないおじさん。
こんな男に夢中だった私も哀れに思えてきた。
5分も顔が池の中にあるんだから、死んだに違いない。
「このまま放置しますか?」
「そうね。ただ、耳を2つ切り落としておいて。私が愛した記念として、乾燥させて私の部屋に飾っておくから。」
「わかりました。じゃあ、切って、乾燥させてからお持ちします。」
「よろしくね。助かるわ。」
池から引き上げられた正樹の口や鼻からは、池の泥水が流れ出す。
すっかり生気を失った正樹の顔。
彼は、耳を切り落とし、池に再度、頭から投げ込んでいた。
たしかに、あなたは不幸だった。だから私が正樹を救おうとした。
でも、冷静に見てみると、たいしたやつではなかった。
その時、なにか私の中でも何かが壊れるような音がした。
芽衣から独り立ちしてだいぶ時間も過ぎた。
正樹に依存する気持ちも失せた。
なんか、自分で独り立ちして生きていける気がする。
もちろん、誰かに愛され、支えて欲しいという気持ちは変わらない。
でも、暴力を受けてまで相手に尽くすのは間違っている。
男と対等に、一緒に喜びをかみしめて生きていくのがいい。
そうは言っても私の初めての彼氏。こんな形で終わらせたくなかった。
あなたが悪いの。私を裏切るから。
あなたの耳はずっと大切に私の横に置いてあげる。
月の明かりで揺れる水面は正樹の血の色に染まっていった。
風で揺れる赤い水面は美しい。
それから、彼が住んでいた部屋に入り込み、知らない女を追い出した。
そして、部屋を探索し、お金を取り戻した。
そして、協力してくれた組員には20万円のお礼を渡す。
その後、私は、相変わらず1人きりだった。
暴力団の組員も私に近づくこともない。
その他の人も、人の気持ちが分からない人だと言って、私の周りから去っていった。
私はまた1人になってしまった。
でも、エッチをしているときだけは、愛されていると感じることができた。
だから、毎晩、愛を求めて見知らぬ人とエッチをしている。
ただ、男はエッチが終わるとお金を置いて出ていってしまう。
そんな時、自分が愛される価値がないことを身にしみて感じてしまう。
私は、愛される価値がない、汚い存在。
そういえば、正樹は私のことをどう見ていたのかしら。
わかっているようで、正樹のことはなにもわかっていなかった。
そもそも、どうして正樹が私を裏切って金を持ち逃げしたのか分からない。
あれだけ、私のことが好きだと言っていたのに。
最初から愛なんてなかったのかもしれない。
それとも、どこかで間違えたのかしら。
私は20歳になったけど、結局、男のことは何もわかっていないみたい。
いえ、私が汚くて、愛される価値がないということなのかもしれない。
私は実の父とエッチを続けていた汚い女。
そして、自分の考えが一つもなくて魅力がない女。
どこにも愛してもらえる所がない。
でも、私は愛されたい。1人は寂しい。
だれか、永遠の愛を私にちょうだい。
私は寂しいの。




