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闇夜の女  作者: 一宮 沙耶
第1章 依存

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11話 悪夢

私は、中学高の時の悪夢に加え、小学1年生の時の悪夢にもうなされていた。

子供の頃のトラウマが蘇ってくる。

母が私のことを毛嫌いをし、捨てられてしまう夢。


どうして、私のことを嫌いなのか、当時は分からなかった。

でも今ならわかる。その頃は父親の性のはけ口として、いつも父に抱かれていたから。

そんな私を、母は、いつもイライラし、私を睨んでいた。


理由を知らなくても、母が怒るのは、私のせいだと、いつも自分を責めていた。

学校の成績が悪い、整理整頓ができない、思い当たる理由なんていくらでもあった。

本当の理由はもっと醜いことだったのに。


泣きながら謝っても、いつも、叩かれ、あざが絶えない。

目が吊り上がり、鬼のような形相の母が私の首をつかみ、壁に押し付ける。

ごめんなさいと言うだけで、母を前にいつも恐怖で動けない私がいた。


笑顔でいられるのは、学校から帰ってお絵描きとかしてる時だけ。

そのうち暗くなり、暴力をふるう母が帰ってくる時間が近づいていく。

時計を見つめ、秒針とともに恐怖が私に一歩一歩進んでくる。

逃げることはできない。


家の中は、母が帰ると夏でも冷気が漂い、私の心は凍りつく。

そして、母の手が私の頬を叩き、私は壁に飛ばされ、口の中には血が滲む。

そんな痛みから逃げたくて、父が帰ると私は父の胸の中に飛び込んだ。


母は、そんな姿をみて、さらに鋭い目つきで私を睨み、憎んだ。

でも、母は父には何も言えず、ただ、笑顔でその場を取り繕う。

父も、母が私に暴力をふるっていることは気づいていたんだと思う。


でも、父は、その原因が自分にあると分かっているからこそ、黙って笑っていた。

卑怯な男。でも、その時は、よく分からなかった。


父が帰ると、キッチンでは、父と母の嘘に塗れた笑い声が響く。

誰もが気づいている真実を覆い隠すように。

この偽物の家族は、嘘という名の皮で本当の姿を隠さないと続けられなかった。


ある日、母は激怒していた。私が小学1年生の夏のとき。

そして、私を来たこともない見知らぬ街に連れ出した。

車に2時間ぐらい乗り、降りると、目の前には、大きな池が広がる公園がある。


激怒していたのに、どうして、こんな公園に連れてきてくれたのだろうか。

周りは、子供たちが大きな声で駆け回り、楽しい雰囲気に包まれている。

そして、公園のトイレの個室に座らせられて、母は上から私を見下ろしていた。


「あなたはもういらないの。ここでじっとしていなさい。」


何を言われたのか、よく分からなかった。

ただ、ずっと待っても母は帰ってこない。

私は、我慢できずにトイレを出た。


大きな池の周りでは、おじいさん、おばあさんが散歩をしている。

子供たちが、横の砂場で大きなお城を作っている。

ごく日常の風景が広がっていた。


でも、ここはどこだろう。

最初は、楽しそうに見えていた風景が不安の色に染まる。

私は、捨てられてしまったの?

もう、家に帰れないの?


私は、泣きながら公園を彷徨い、警察に保護された。

もう小学1年生だったのに、自分の名前は言えても、家の住所を言えなかった。

通っていた小学校の名前がきっかけとなり自宅の住所がわかった。


母の職場に、娘が迷子で発見されたと連絡が入る。

母は、午前中は熱が出たと言って休み、この公園に私を連れてきた。

その後、何食わぬ顔で会社に行き、仕事をしていたらしい。


急いで駆けつけた母は、警察に謝り、私を泣きながら抱きしめる。

警察官は、良かったですねと、優しい目で母に声をかけ、慰めていた。

そして、私に厳しい目を向け、もう家出なんてしてはだめだと叱る。


私を放置したのは母で、私が勝手に迷子になったわけではない。

でも、私が家出をしたことになっていて、酷い娘を育てる母に同情が集まる。

家に帰ると、母の顔からは表情が消え、一言つぶやく。


「今度は、もっと遠い所に捨てるよ。本当に汚らしい子。こんな子は産まなければよかった。」


それから、今まで以上に母の機嫌を損なわないようにびくびくと暮らす。

でも、母が怒る理由が分からなかったから、母の機嫌は戻らなかった。


ある時、母の手の甲は、みずからの爪でひっかいた傷で血だらけだった。

私が父に抱かれているときに、あまりの屈辱に自分を許せなかったのだと思う。


昔は、母が、私の誕生日にケーキを買って、一緒に笑顔で私と歌っていた。

今は、そんな母はどこにもいない。

ただ、私を睨みつけ、いつも不機嫌で、私を殴りつける。


私の心に平穏という時間はなかった。

今日もまた、私の頬に母の手のひらが飛び、私は壁に打ち付けられる。

そんな恐怖から逃げ込むように父に抱かれ、悪循環の毎日だった。


痛い。そう思って、目が覚める。

まだ、追い詰められる緊張で息が乱れる。

もう、公園に捨てられたのは10年ぐらい前なのに、未だに夢にうなされる。


母はもう亡くなった。トラックに飛び込んで。

でも、この世にいなくても、ずっと、私の心を支配し続ける。

母の顔が浮かべば、私は凍りつき、体が動かない。


私が全て悪いの。許して。そして捨てないで。

それから、私はいつも自分に自信がなく、人にすがる日々を過ごした。

なにもかも、私が悪いに違いない。


母も、私がしっかりしていれば、あんなに怒ってばかりではなかったはず。

正樹だってそう。私が正樹の奴隷として尽くさないと、正樹はすぐに私を捨ててしまう。

今の私には、正樹に捨てられるなんて考えられない。


私がこの世に生まれてこなければよかったの。

私がいなければ、みんな幸せに生きていけたのに。

私がいるだけでみんなを不幸にする。


大きな黒い影が私を覆い、地獄に連れていかれてしまいそう。

誰か、私を暖かく包み込んでくれないかしら。捨てないで。

そう叫んで、夜中に目覚めた。

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