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妖精族と人族のはなし

人違い、いや、妖精違いです!

作者: アサギ ギギ


「アビゲイル・ロドリット公爵令嬢に婚約を申し込んだ、という話は本当か?」


 職員棟の会議室に呼び出された私。

 カレンフェルド魔法学校に通う、三年の“男子”生徒。ジキ・ユユ。


 神妙な顔の教師陣に囲まれ、もしかして秘密がバレたのか、と内心焦っていた所に、重々しく口を開いたのは学年主任。

 尋ねられたのは、寝耳に水の、身に覚えの無ない話だった。

 つい、「……は?」と呆けた声が出てしう。


「……お話したことすらありません。

 人違い……いや、“妖精”違い、では?」


 私の反応は予想していたらしい。

 安堵するようなため息は教科担任から。

 学年主任も眉間を押さえながら、


「我々も、何かの間違いで、君ではないと信じていたよ……」


 と、疲れが色濃いため息をついた。




 ×××××



 カレンフェルド魔法学校。

 全寮制の、人族の名門校だ。

 誰それと入学出来るわけでもない。入学が許されるのは、家柄の良いご子息ご令嬢の皆様や、実家が太いお子さん方。

 一握りの一般庶民の特待生と、特待生の数よりは多い、妖精族の留学生。

 

 私は留学生だ。

 この国の人族と友好関係にある、長命種の森妖精。

 人族の未成年の中で学ぶのだから、もちろん留学生となる森妖精も、人族の精神の成熟に合わせ、十八~二十五程度の年頃となる。


 しかし諸事情で入学し、目を無理やりキラキラに輝かせ、未成年の若僧を演じるこの私は、今年の秋に百歳になります。


 現在三年生。最終学年は五年生。

 すでに若者の中で陽気に振る舞うのがしんどいというのに、


「なーにが、種族差を乗り越えた真実の愛だ!ぼくが人族の未成年を選ぶわけないだろ!!

 ぼくの年齢を人族に合わせたら、教職が新入生に手を出すぐらいのとんでもない事になるんだぞ!?

 幼獣趣味(ロリコン)で世間体が終わるわ!」


「噂になってるね、ジキ。

 公爵令嬢への駆け落ち教唆疑惑で生徒達は大盛り上がりだ。

 ロドリット公爵家はお怒りで、件の森妖精を出せと、学校に抗議文が届いたって話だよ」


 未成年面は精神への負荷がすごい。

 演じる未成年面を捨て素に近い口調で吠える私に、“海の匂いのする”妖精の少年が、面白がるような半笑いで返した。


「は~~?授業も出ない学生同士の交流もしないキミが、どうして噂の盛り上がりまで知っているんだよ」


 この学校で唯一、私の年齢詐称を知る海妖精の留学生。グレイ。

 見逃すはずのない、森妖精とは違う目立つ外見であるのに、学舎で一度も姿を見かけない程引きこもりだ。


 課題を渡され、事が収まるまでしばらく、寮や自習室で目立たないようにと指示を受けた私は、噂がどのように広がっているかを知らない。


「ほら、君たち森妖精と違って、僕ら海妖精は留学の第一期生だ。

 例え僕が引きこもりのさぼり魔であっても、海妖精同士、情報交換は密に行っている、というわけだよ」


 ――妖精族は、大きく分けて二種存在する。

 陸に住む森妖精と、海に住む海妖精だ。


 森妖精は同じ陸に住んでいることもあり、人族との交流は頻繁にあった。

 しかし海妖精は千年程陸との交流を断絶していた。


 それがここ十年で海妖精の王が代わった事により、陸と海の交流が解禁。

 人族国家との和平や、交易の条約が結ばれている。


 その流れで、元々森妖精の留学を受け入れていたこの学校にも、新たに海妖精の枠が設けられた、というわけで。


「納得。他の海妖精の留学生が、人族の生徒と共にいる所、ぼくもよく見るよ。

 人族との文化交流を完全放棄するキミと違ってね」


「僕だって、森妖精の君と交流しているじゃないか。

 他種族との文化交流の責務は果たしている」


「留学の目的は人族との交流のはずでは」


 ぐぬぬ、と呻き声が聞こえてきそうな目付きで、睨まれる。


 表情の変化は他種族と変わりないのに、海妖精の目はその配色の違いから、陸の住人に怖れられるそうだ。

 グレイの目は、黒に染まった白目に、金に色付いた瞳が浮かんでいる。

 満月の夜空を二つも持っている相手だ、睨まれようとも怖いだなんて思わない。


「……僕は、授業に出なくとも、学生の群れに混ざらずとも。

 求められる成績を維持し、人族の文化を文献や観察で学べることを、証明したいんだ」


「それを含めての、本音は?」


「生後二十年にも満たない幼体の群れに混ざるだなんて、ぶつかって大怪我をさせてしまったらどうするんだ。

 学校という箱庭でまとめて育てる事については合理的にも思うけれど、皆どこにでも行ける足があるのに、この数の幼体を見守る成体の数、本当に足りてるの?って思う。見ていて怖い」


 そう、私が年齢詐称を暴露したのは、この海妖精もまた、学生の年でないからだ。

 海妖精は成長が遅い。五十年は幼体として生きると聞く。

 となれば、陸にあがって行動出来ているグレイも、少年姿は外見のみ。中身は私に歳近い、ということになる。


 しかし、先のグレイの発言。

 本気で『怪我をさせたら困る』と思っているこの顔。

 気持ちはわかるが、人族への学びが足りない。


「そう怯えなくとも、少しぶつかったぐらいでどうにかなる程、人族は柔くはないぞ」


「……陸は海と違って、ぶつかった後固い地面にもぶつかってしまうし、足を地につけて歩くから泳ぎ避けることも出来ないんだ」


「ああ、確かに。海と陸では動き方も動作の結果も変わるか。

 悪かったよ、陸暮らしのぼくにはわからない辛さがあるんだな、海妖精には」


「そうだよ。僕が引きこもっているのは、陸の皆への配慮であって」


「他の海妖精の留学生は堂々と交流しているけど、それは?」


「僕が陸での運動能力に自信が無いからですが何か?

 運動能力が高く陸地での行動に問題なしと選抜された留学生の中で、唯一、陸での運動能力の低さが問題視された僕だけど、何か、文句が、あるのか、森妖精?」


「文句はないけど、面白いから笑っても良い?海妖精」


「……ここが海だったら、君のこと尻尾でどついてた」


 グレイのじとりとした視線がまた笑いを誘う。


「ははっ、まあ、ぼくは全く泳げないし、個体の得意不得意はあるって。

 海から離れて、他種族の文化を学ぼうと陸にいるキミは十分偉いよ」


「…………………ありがと。

 別に、自分が偉いとは思っていないけど、せっかくの賞賛を受け取らないわけにはいかないからね」


 ――狂暴凶悪で残忍。

 海には殺し屋しかいないといった風評まであるのが海妖精だというのに、随分と可愛い反応をする。

 風評は風評だ。皆が皆そうではなく、森妖精や人族にも、風評通りの者が存在するし、そんな危険分子を名門校が受け入れるわけもない。


「……それで、君はこれからどうするんだ。

 しばらく授業には出れないそうだし、寮もいけすかない森妖精との相部屋なんだろう?」


「ぼくと違ってそれなりに良い家柄だからか、若気の至りを一般森妖精ぼくに発揮してくる本物の若者との、一切の安らぎがない寮部屋の話をしてます?」


 私の同室は、本当に年若いからこそ私の実年齢に気付けず、不勉強であるために私の正体にも気付かない森妖精だ。


 諸事情を遂行するには楽であるが、不仲な若者との同室は、ストレスが加算される主な要因にもなっている。つらい。


「野宿の方がマシだけど、部屋に戻らないと寮監が困るし、行方不明だって騒ぎにも なる。……すっごく気が重いけど、耐えるしかないんだ」


「僕の部屋は個室だ。君一人増えても、窮屈にならない広さだと思う。

 君が良ければ、部屋の隅を明け渡すけど、…………どうかな、」


「これから荷造りするので、今夜からよろしくお願いします。

 ……って即答したいよ。でも学校が許可するかね、他生徒の部屋への立ち入りは禁止されている」


「君は、会ったことのない令嬢と誰かも知れない森妖精とのいざこざに巻き込まれた被害者だろう。

 今だって、生徒達の目に触れて騒ぎが広がらないよう、謹慎扱いだ。これだけの事情があるのに、部屋の移動が許可されないなんて話があるか」


「こそこそ動いても、寮にいる以上、皆にあれこれ聞かれるし、答えられないし。

 確かに自室に戻らず、生徒達に居場所を知られない部屋への避難は、僕にも学校側にも有り難いことだ」


「……僕個人としても、君は初めての……森妖精の、友達だし、変なことに巻き込まれてしまっているから、何かあっても困るんだ」


 視線をそらしながら、グレイはぼそぼそと付け加えるように言った。


「なんだよなんだよ嬉しい事言うじゃんマイフレンド!

 よし、学年主任に頼みに行ってくる。

 百歳になっても、友達の部屋にお呼ばれってのは、わくわくするしね」


 わくわくと心踊ったが、――グレイは言っていなかったことがある。

 個室への滞在にあたって、開示した方が良い情報ではある。

 でもな、それで話が無かったことになるのも……ううむ。

 私の安らぎの睡眠のために、女であるということは伏せさせてもらおう。


 年齢の他に性別の詐称も必要になったのは、森妖精をねじこめる枠が男子生徒分しかなかったからだ。


 人族と同じように、森妖精だって個体差がある。

 森妖精の羽の氏族は鳥のように大空を舞うだめ、胸筋が発達しやすいように、私のような鎌の氏族は、成長に伴う身体の凹凸が表れにくいだけだ。

 すらっとした、……イタチ、というか、この身体さ小回りがきくし、……この年で男子生徒として全く怪しまれないでいられるし……悔しくはないんだからな。




 ×××××




 

  さて、実年齢もうすぐ百歳の私ではあるが、年齢詐称は知っていても性別の詐称は知らない種族違いのお友達に、男女同室の世間体~と言うわけにもいかない。

 学校側も私を入学申請通りの男子生徒と認識している。学生生活三年目、怪しまれたことさえない。


 寮移動の件、学年主任に相談しようと会いに行けば、すでに話はついていた。

 私、寮の自室に戻らなくてヨシ。仕事が早いな海妖精。


 団結している海妖精の留学生と違い、森妖精の留学生は個だ。

 私の名を騙って貶めようとするぐらいに は、仲間意識がない。

 全寮制であるし、在学中の令嬢に手を出した以上、留学生の誰かであるとは思うが――


 この数日で、学年主任はさらに老け込んでいた。

 生徒()の身の安全が危ういほどの大事になっているらしい。


 寮の移動は許可されたが、申し訳なさそうに、休日限定で許可される、生徒達の息抜き場こと商業区への立ち入りは禁止された。

 外の者が自由に出入りする商業区、冗談抜きに誘拐の可能性まであるようで、主任の内臓が心配になる。


 私物は着替えぐらいの私。

 鞄一つと課題を抱え寮から出ると、待っていたのは、カレンフィルドに在留さている外交官だった。海妖精の留学生達の親玉だ。

 カレンフィルド魔法学校は、商業区という町を内包していることもあり、この国初、海妖精の国と姉妹都市盟約を結んでいる。

 そりゃ友好の証のような留学生の部屋に、国が和平条約を結んだ人族でもない、一般森妖精がお邪魔するのだ。

 ……なんて、親玉が出てくるのも当然。

 グレイの本名を私は知らないが、彼と同じ目の配色をしていた者に覚えはある。

 過去カレンフィルドを視察にきた、海妖精の女王陛下だ。


 グレイが私のことをどう話しているかは謎だが、……私は、彼に学生をしている理由を話したことがない。


 海妖精は総じて高身長。私を見下ろす外交官の海妖精は、ただ一言、


「友達、なんだよね?」と訊いた。


 裏切るなよ、という警告にも聞こえる。


「はい」と頷いた。

 学生生活は最悪だが、この年で新たに友達が出来た事は、最悪を打ち消せる収穫だ。

 裏切る理由なんて考えても浮かばない。


 私の返答に満足したのか、外交官は私を連れ、――案内してくれたのは、海妖精だけの寮らしい。

 身分による特別寮は存在するが、留学生まとめてとなると、……初の海妖精留学生に学校側も気を遣ったのか、それとも。

 

「いや、これ種族に気を遣ったとかじゃない!

 グレイ、キミさあ、相当な家のお坊っちゃんだろ」


 道中友好的に手を振る見知った留学生たちに手を振り返し、外交官の先導のもと、到着した一室。

 待っていたのはマイフレンド海妖精。

 外交官が去ったのを見計らい、やっと私も本音で指摘できる。

 なんだこの豪華な部屋は。


「……どうしてそう思う?」


「寮部屋ってのはな、ベッドと机と荷物置きがあるぐらいの広さなの。

 ダイニングテーブルにミニキッチン、部屋の外には専用の浴室まで完備とか、もう普通の寮部屋じゃないわ。賓客用の部屋だわ」


 口に入れるものまで気を遣う設備があるとか、もてなされるだけの賓客でもない。

 王族だわ、間違いない。私の友達、海妖精の王族です。


「……ほら、海妖精の文化はまだ知られていないから、とりあえずの特別扱いで……、留学一期生特典ってやつじゃないかな。

 きっといずれは、君の言う部屋にと同じに」


「いいや、特別にも程がある。部屋が豪奢すぎるわ。

 一般庶民森妖精のぼくの感性が震えてる。この部屋、都市のすごくお高い宿泊施設みたいな内装してるぞ」


「…………気に入らない?」


 どうしてここでしゅんとするんですかね!

 身分隠すつもりがあるのかないのかどっちなんだよグレイ! 


「……いいや、滅茶苦茶得した気分。

 ぼくの名を騙ったやつは三回ぐらい殴ってやろうと思ったけど、一回で良いなと思い直すぐらいの得」


「そこは三回殴ってもいいと思うけど。

 ……気に入ったのなら良かったよ」


 ほっとしたように笑うグレイ。(推定王子)


 ここまでわかりやすい部屋をお出しされると、怪しい私を王族の側におく信用をどこで得たのか気になる。

 素性を調べようにも、陸に進出したばかりの海妖精。

 人族を介したにして、私が王族を害することがない、安全な妖精と考えるに足りる情報は集まるのか?


「グレイ~」


「なに?」


 荷物を置いて、室内を見て回り(見てまわる広さの寮部屋ってなんだ)、ご機嫌な海妖精からお茶をご馳走してもらいながら、


「キミ、ぼくがどうして学生やる羽目になってるか、訊かないよね」


「僕に関係があることではない事は知っているよ」


 この返答が意味するのは、……調べがついていて、グレイとの接触は偶然であると認識されているのか。ありがたい。


「調べがついてる、ってことか」


「うん。キミと同じ三年の、森妖精と人族の混血の子。

 混血は立場が弱いから、彼女が害されず学校生活を送れるよう、見守っているんだよね?」


 優秀な情報網をお持ちで。


「その通り。知っていると思うけど、ぼくの口からも話しておくか。

 混血の“お嬢様”、よりにもよって純血主義が根強い、他種族でいう王族並みの、高貴な血統との混血でさ。

 外見も混血とは思えない程、血統そのもの純血森妖精だから、……安全とはいえない立場にある」


 お嬢様の後ろ楯は確かに強いが、森妖精な頂点の強さではない。

 親族に当たる森妖精のほとんどは純血主義で、お嬢様の存在は認められていなかった。

 しかし見た目は血統そのものであり、尚且つ女性であるため、

 ……僕の同室の若僧も、高貴な血統に家の血筋を混ぜてこいが(めい)の一つになっていたりする。


「君は、彼女の保護者の派閥に属する家から秘密裏に送り込まれた存在で、……多分彼女も、君の正体を知らない」


「そうだね。元々、自分の身分を知らずに育った、一般庶民の娘だとも聞いているし、

 僕の存在を知って気を張らせるより、知らないまま、同世代の子らと青い春を楽しんでほしかったんだ」


 五年。卒業までを同じ生徒の目線から見守る仕事だった。

 意味のある仕事だった。……本来なら、未成年面して学生にまざるぐらい、わけもない事で。


「でも……わかるだろ、そこまで知ってるならわかるだろ!?お嬢様と、お嬢様の身分にひっついて入学した、側仕えの女の子の存在!」


 すっ、と目をそらされた。

 ひきこもりとはいえ、グレイも実際に見ることが出来、噂という真実を耳に出来る学生の立場だ。見たことあるよな、わかるよな。


「ぼく、お嬢様達にとって全く必要ないんだよね。

 武装組織が学校に乗り込んでくるまでの非常事態になってやっと、彼女達の役にたてるぐらい、平時に必要がない。

 なんだよ武装集団って、もうテロじゃん。個人ではなく国相手の大事件じゃん」


 顔を覆う。私のストレス加算生活が始まったきっかけがこれだ。

 個人的には良いことで、仕事的には最悪だった。


 自分の出生の秘密を知らず、人族の元で生きてきた森妖精のお嬢様。

 想像したのは、すぐに手折れてしまうような、か弱い少女、だったのに。


 仕込まれたであろう美しい所作の端々に野山で育ったのかな?と思うほどの雑さが見える。

 常識は仕込んだのか?と疑ったのは、二階の窓からの出入りを目視してしまった時だ。ここは名門校だぞ。

 おまけに精神も図太いのか、混血への差別口撃も受け流し、学生からの不必要なボディタッチ(セクハラ)も物理でやり返していた。

 どこで覚えたんだのその護身術。森妖精のものじゃないよ。


 お嬢様単体でも頭が痛いのに、側仕えとして入学した人族の娘は、お嬢様を上回るいかれた身体能力をしていた。


 演技している様子はないのに、立ち振舞いに一般庶民と武人が同居している。短命の人族未成年に武人を同居させるな。

 お嬢様のために訓練を積んだ人族がいる、なんて話があれば、私の家にも情報共有がなされるはず。

 私たち、ただの仲良しのお友達としか聞いておりません。お嬢様と並んでも遜色ない美少女であるのいうのに、どこで見付けてきたんだ、この化け物少女は。


 彼女たちはその性格の良さも相まって、美少女コンビとして今やカレンフェルドの名物になっている。

 目立つということは、好奇の目に晒されることが多くなる一方、彼女らに悪さをする者を牽制する、監視の目にもなる。


 しかも仲睦まじい美少女たちだ。見ているだけで目の保養、心の浄化に繋がる。

 ゆえに人族の間で、“陰ながら百合を愛でる会”なんてものも発足していたりする。


 二人に認知されることなく見守り、彼女の仲を引き裂くような者を裏で厳粛する会のようだ。なんだよそれ!なんなんだよ!


 私の同室の若僧がお嬢様に粉をかけなくなったのは、この会の厳粛の結果だ。ありがとう、何者なのお前ら。

 百合の間に挟まる男は許さないとのことで、有り難いが恐ろしい会である。


 私、何もしていないのにこれだ。

 私、必要なくない?学生する意味ある?


「……ぼくが見ていなくても、ぼくが手を出すような問題になるはずがないから、

 こうして自由に、キミとお喋り出来るようになったわけだけど。

 これ、わざわざ無理して学生生活する意味も無いというか、はぁ……」


「辞めたいの?学校」


「本音は、……そうなるね。今回の件、丸く収まる事がぼくの退学になるなら、喜んで退学を選ぶよ。

 ――その時は、連絡先の交換ぐらいはしてくれよ?キミとの関係がこれで終わりは寂しいし」


「僕だって、君との関係が終わるのは困る。連絡先でもなんでも差し出すけど、……退学もさせたくない、いや、させない」


「一般学生のつもりなら、退学云々に関われるのような身分をちらつかせるんじゃない。

 なるようになるさ。今だって、ぼくに立派すぎる避難場所を提供してくれているのに、十分すぎるよ」


「わかった。じゃあ一般学生でいるのやめる。

 僕王族だから、最悪、姉さんに頼めばなんとかなると思う」


「待て待て。流れるように開示するな。

 身分を知らない体で友達でいるのと、身分知ってからの友達は、受ける圧も心構えも違うんですー。

 海を統べる女王陛下直通窓口が目の前にあるとか、小市民の心がガチガチに縮こまるだろうが」


「だって皆、『気付いてるだろうし言って良いんじゃないですかねー』って応援してくれた」


 誰に、と訊けば、海妖精留学生一同。

 もうこれ絶対王族の護衛を兼任している立場にありますよね!?


「……いや、もう、海妖精ってそんな、……公認なら良いか、うん。

 ぼくも、お嬢様の護衛に送り込まれるぐらいの者ではあるんだけど、こう、もっと警戒というものをさ……」


「丸い獣耳だけで尻尾を出さない森妖精なら、ほぼ鎌の氏族で間違いないから、変なことはしないだろうって」


「なんでぼくの氏族まではっきりわかっているんですかね海妖精~!」


「姉さんの部下が、君の護衛対象の後ろ楯の森妖精と直接話せるコネがあって」


「森妖精の中枢にコネあるのは強すぎるって」 


 なら、私が女性だともわかっている、ということだろうか。

 王族の部屋に異性がいていいのか?わかった上でセーフということか?


 森妖精と海妖精は、同じ妖精とはいえ異種族。

 人の形に変身し、人の言葉を第二言語とするだけで、第一言語は異なる。文化もまた、大きく異なるだろう。

 謎に包まれた海妖精の文化的に、異種族の男女同室は問題ないのかもしれない。


 そも、王族を自由にさせているんだ。グレイ本人にも自衛出来る能力があるのだろう。外皮、固そうだし。


「全部わかっている、ってことなら気兼ねなく友達出来るか。

 は~~、隠し事がないと気楽~。あとは巻き込まれた厄介事の早期解決を願うだけ」


「大丈夫。君の名を騙った不届き者は、僕らが必ず捕まえる。

 部下は学舎にも商業区にも存在するから、任せて」


「お待ちください。ぼく、自力で調べられます。

 お忘れですか、元の役目は護衛ですよぼく、ぼく。諜報もいけます。

 だから部下さん方に余計な仕事を振らないでいい」


「僕が指示しなくとも、皆勝手に動いて情報を集めているよ」


「……確認するけど、海妖精の留学生、みーんな、部下?」


「うん。人族の文化学びながら人族のご飯食べてみたいっていう、百歳未満の希望者たち」


「めちゃくちゃ楽しそうな職場で羨ましい。ぼくも登用してくれ。あ、でもぼく泳げない、無念だ」


「君は部下じゃなく友達でいて。

 王族相手に友達名乗れる海妖精なんて、……これまで、いなかったんだ」


「大丈夫?ぼく不敬罪とかで牢獄おくりとかにならない?」


「ならない。……それに、君は珍しい、海妖精に友好的な森妖精だろ?森妖精の文化を教える先生にもなれる」


「いいね。ぼくはキミから謎に包まれた海妖精の文化を学べる。どちらも得がある美味しい関係だ」


「君にも得があるんだから、ずっとここにいても問題ない」


 ずっと、だなんて。

 まるで事が終息してもこの部屋に居着いて良い、という話に聞こえるが。

 全く、勘違いしそうになる言い方するじゃないか、王子さま。





 ×××××





 やつれた学年主任に課題を渡し、生徒の通りがほとんどない裏庭を歩く。

 今日も今日とて、間借りしている海妖精の寮への帰り道。


「ジキくん」


 声と共に、少女が降ってきた。

 カレンフェルド魔法学校三年。お嬢様の側仕えの、人族の少女だ。


 音の無い着地に内心引いた。君のその隠密スキルはどこで手に入れたの?

 君がお嬢様の側にいることが知られていたら、私絶対派遣されなかったぞ!


「お、フィオさん。数日ぶりだね、お久~。

 でも、また二階から飛んだな?淑女が窓から出入りしちゃ駄目だぞ」


「ジキくんにしか見られてないから問題ないよ。……大声で呼び止めるわけにもいかないし」


 普段からよく笑う()だったが、……沈んだこの表情、本当に心配し声をかけてくれたようだ。

 それなら私も、わざわざ茶目っ気を出す必要はないか。


「ありがと、気を遣ってくれたんだね。

 面倒なことになったけど、ぼくに心当たりはないし、先生方もぼくでないとわかってくれている。大丈夫だよ」


「私達だって、みんなだって、ジキくんは名前を勝手に使われた被害者だってわかってる。

 外見の特徴も違うのに、魔法で姿を変えられるからって、ずっとジキくんを出せって……ひどいよ」


 在校生である公爵令嬢が表だって探すことはしていないが、私が捜索の対象になっているのは事実らしい。

 学内で拘束されることは無いにしても、……公爵家も令嬢も、私と学校の言い分を聞く気はないようだ。


「ぼく、人族でいう爵位もちの家の出身じゃないからさ、爵位もちの森妖精から、スケープゴートに選出される理由もわかるんだよ。勘弁してほしいけどね」


「そんなの、余計に許せないよ。自分のやった事を人に押し付けるなんて!

 身分があるからって、権力があるからって、……私に良くしてくれる森妖精のお姉さんは、絶対に、そんなことしない……」


 この娘が言う、権力を持ってそうな身分高い森妖精のお姉さんというと。

 間違いなくお嬢様の叔母さまだろう。

 純血、身分主義ど真ん中の教育を受けながら、身分差別無く、実力主義で登用する素敵な森妖精だ。私も部下になりたい。


「まともな森妖精の権力者が近くにいるようで助かるよ。

 皆が皆、不平等に滅茶苦茶するような森妖精だとは思われたくないし」


「ジキくんだってそうじゃんか……!

 ジキくん、一度だって私達を蔑むような視線で見なかった。

 混血を嫌う者は多いって知ってたし、私は側仕えの立場で入学したから、あからさまに下に見られる事も多かったのに、ジキくんは、」


「一般庶民だからね、僕も。

 僕は僕で君たちは君たち。そこに上も下もない」


 良い娘だよな、と思う。

 距離をとって接していたのに、私のことを、こんなにも良く見てくれていたのか。


「だから私、調べました」


 だから私って何?

 感慨に耽って、どこか聞き逃したか私?


「目的が同じだったから、海妖精の留学生の皆とも協力して、ジキくんの名を騙る犯人を捕まえてやろうとしたの」


「ちょ、いや、待って、待って。

 どういうこと、じゃなくて。危ない、やめてくれ。公爵家が絡む案件だぞ。公爵家に目をつけられでもしたら、」


「それで、犯人候補を二人までにしぼれて」


「そこまで絞ったの?!

 あ、と、留学生のみんなって?海妖精って、うちの学年にも一人しかいないよね!?」


「各学年に散らばる五人と私でチームを組みました。サポーターはエレナです」


 グレイ除く留学生全員だし王族の部下だしサポーターはお嬢様だし!!!!


「いつのまに海妖精たちと仲良く……!

 いやもう、ちが、危ない!やめて!

 キミに後ろ楯があることは知ってるけど、本当に危ないから!

 人族も森妖精も、爵位もちのプライド高々野郎は相手にしちゃまずいの!」


「大丈夫です、私、鍛えています。

 兄が海妖精の混血なので、私も水陸両用になりました。

 おかげで放課後、商業区へ調べに行くために、水路通って学舎を抜け出すことが出来ます」


 混血のお兄さんはそんなことさせるために水陸両用にしたんじゃ……水陸両用ってなに!?


「~~っ、不正!商業区への入場は休日限定の許可制ッ!

 水路って何!?危ない通り越して無茶苦茶してるってことしかわからない!」


「ということで目撃情報諸々を総合し、件の令嬢やご友人たちの会話を盗み聞きした結果ですが、」


 調査も締めに入っているじゃんかよお!

 何者なんだよこの娘!?どこで見付けたのこんな普通じゃない人族!


「確かに髪色を変える等、姿を一部変化させる魔法を使っています。

 しかし、学生なので、魔法は未熟。周囲の警戒も怠っていました。

 魔法を使用した前後の目撃者も複数見つけました。犯人は間違いなく――」


 名探偵フィオさんの口から出た名は、私の同室の森妖精だった。


 納得がいく名だ。というか、予想していた名だ。驚きはない。


 相部屋のため、嫌でも部屋で会うことになる森妖精は、私の部屋の移動が決まるまで、一瞬たりとも、私を見ることはしなかった。

 噂を耳にすれば揶揄しないわけがない性格であるのに、だ。


 森妖精の外見は、人族の目に美麗に映る。

 若いながら好色がすぎるとは思ったが、公爵家の娘に手を出したか。

 私の名を使う危機管理能力はあるくせに、火遊びの相手を選ぶ能力は無かったようだ。


「私の調査は非合法なものなので、私から直接先生方に報告は出来ないんですが、

 ……そこは海妖精の皆さんにお任せしています」


「賢い。えらい。ちゃんと非合法って自覚している、花丸。

 ぼくを呼び止めたのは、ぼくにだけは先行して伝えて、安心してもらおうとしたんだろ?」


「……うん。ジキくん、私たちとあまり話してはくれないけど、……見守ってくれているの、知ってるよ。

 また教室で会えるの、楽しみにしてるから」


 そう言い、手をぶんぶんに振って去っていくフィオさん。

 発言から察するに、私の視線に気付いていたってことかな。嘘だろ。

 私がいたらないのか、彼女の能力が高すぎるのか。……前者だ前者。気を付けよう、私。


 若作りしんどい学校辞めた~いとか思っていたのに、どうしたものか。

 もう丸く治まるなら退学でいいとか思っていたが、惜しく感じる。

 グレイしかり、学生の私にも役目はあるのかもしれない。

 退学は最終手段だ。

 拗れたとしても、僕に切れる手札は残っている。

 面倒なことにはなるが、性別の開示をしてでも、乗り切ってやろうじゃないか。





 ×××××





 ついにやって来た、話し合いの場。

 卒業パーティーで使われる大広間は、一触即発の雰囲気で満たされていた。


 先生方は話し合いの直前まで、僕の身の安全を考え、公の場に出ることを止めていた。


 なんせ相手は怒り心頭公爵家。

 森妖精相手だろうが格を示すため、しっかり武装した私兵を引き連れている。


 おまけに、ご令嬢がギャラリーの存在を許可してしまった。

 学校職員がいくら止めても、野次馬生徒は集まってしまう。


 見せ物になってしまうが、仕方がない。

 壁際ギャラリーの中に、今回の件で話すようになった海妖精の留学生達から、パチパチウインクをよくもらう。応援だな、ありがとう。


 フィオさんやお嬢様とは、大広間に入る前に顔を合わせている。

 いざとなったら、と力強く言うフィオさんが怖い。

 お願いだからいざとならないで下さい。何をする気が予想つかなくて怖い。


 大きな心配を残し、現在。

 私は先生方の背に、守られるように立っていた。

 僕の名を騙った同室の森妖精はしっかり捕まり、別室で待機させられている。


 腹は立つが、一番表に出てはいけない存在だ。

 口を開けば国際問題、家が黙っていないの繰り返し。公爵家を余計に怒らせるだけと判断された。


「ユユ。大丈夫か?

 やはりここは大人の我々だけで、」


「いえ、先生。大丈夫です。潔白だからこそ前に出ます」


 先生方とは、事前に話す内容を相談し決めている。

 私には、令嬢が語るデートその日に、学舎に存在した記録があった。


 授業の補佐やら、書庫の貸し出し記録。

 デート先、商業区への入場記録も確認されていない。

 疑いを晴らすだけの情報はしっかり持っていた。


 無理はするなよ、と言う学年主任に頷き、視線はまた、ギャラリーの生徒達へと向かう。


 グレイは、……まぁ、いないか。

 間借りしている寮部屋で、「大丈夫だからな」と私に声をかけくれたが、……声音は強張っていた。

 私より緊張しているやつに大丈夫だなんて言われたんだ、私の緊張も抜けるというもの。


 さぁ、公爵家の人族が口を開いたぞ。


 戦いだ、証明してやるよ、私の身の潔白。





 そして。


 こちらは名門校の教師陣のバックアップの元、しっかりした状況証拠がそろっていた。

 理路整然とした証明に、公爵家はあっさりと、『ジキ・ユユ』という名を持つ森妖精が潔白であると認めた。

 話は名を騙った森妖精の処遇に移るが、


 公爵家に、唯一、私の潔白を認めない者がいた。


 アビゲイル・ロドリット。

 公爵令嬢その人だ。



「私は認めません!あなたがジキ!

 私に愛を囁いてくれたのは、紛れもないあなたです!」


「ロドリット公爵令嬢、あなたが仰ったジキ・ユユとの会瀬の日、彼は学舎にいたと証明されています」


「そんなもの、私がジキと会った日を思い違いしているだけ!

 日が違うなら破綻する事じゃない!」


 とんでも理論だ。私の全日の記録を出せと言うのか、頭が痛くなる。

 それとも、……裏付けのない言葉は虚言にしかならない。公爵家という身分が、裏付けだと言いたいのか。


 先生方も、教師として否定してやりたいが、公爵令嬢相手であるために、反論に困っているようだった。


 ならば私が、と口を開く。


「ロドリット公爵令嬢。

 ぼくがあなたとお話したのは、今日この時が初めてです。

 ぼくの声、ぼくの話し方、ぼくの姿に覚えはありますか?

 ジキ・ユユはぼくですが、あなたと話したジキ・ユユは、あなたに偽名を使った、ぼくではない別の森妖精です」


「声や姿は魔法で変えられる!

 話し方だって、そう演技しているだけでしょう?」


「いいえ、僕は魔法を使い、あなたの前に現れたことは一度たりともない」


「いいえ、いいえ!認めないわ!

 あなたが私に言ったの!

 あなたが私に愛していると言った、異種族でも構わないと、ずっと側にいると!」


「ロドリット公爵令嬢」


「あなたが言ったのよ!早く認めなさい!」


「……森妖精には、名と、一族を示す姓、そして、氏族名を持ちます。

 あなたは、外見では判断出来ない、ぼくの氏族がわかりますか?

 愛を囁くほど大切に思う相手に、教えないわけがありません。

 ……大切に思う相手に偽名を教えるなんて、尚更、有り得ない」


 ――皆、わかっていたことだった。

 偽名を使われていた、という話はすぐに噂となり、広がってしまった。


 婚約を申し込む相手に偽名を使い、騒ぎの中、愛を誓った相手の前に姿を現さない。

 そんな不義理な男に本気になっている、哀れで、……異種族婚を軽視している、無学で浅慮な公爵令嬢。

 それが、アビゲイル・ロドリット。


 彼女自身もわかっているはずだ。自分が遊ばれていただけであると。


 その矛先を向ける相手が用意されているのに認めようとしなかったのは、――プライドの問題か。


 美しい森妖精との、都合の良い、夢物語のような生活を求め、

 家が決めた役目ともいえる婚約を反故にしようとし。

 幻想の“真実の愛”に溺れ、愛の結果の、混血児の危うい不遇な立場には目を閉じる。

 自分自身の事でなければ、公爵令嬢の立場にある彼女こそ、心から馬鹿にした話になっただろう。


「……わかったわ、……ええ、わかった」


 ついに折れたか。俯いた彼女から、掠れた呟きが漏れる。


 ……ここまで追い詰めたくはなかった。

 痛みの伴う勉強になってしまったな、と思う。


「ジキ・ユユ」


 顔をあげた令嬢は、――泣いていると思ったが、違う。


 嫌な目付きだ。

 権力者の高慢さを宿したその目は、真っ直ぐに私を見ていた。


「あなたが代わりになればいいじゃない。

 森妖精の責は、同じ森妖精のあなたが背負うべきよ」


「――は、」

「お待ちください!いったい何を!」


「黙りなさい!学校の管理不足でもあるののよ!

 悪しき森妖精を入学させ、野放しにしたのはあなた達!」


 その舵切りは最悪だ。

 メンツを守るため、ロドリット公爵家そのものが令嬢の話に乗ってくる可能性だってある。――いや、乗ってくるだろう。


 娘のやらかしが真であるなら、あとは何を蹴落としても、家の格を落とさないよう立ち回るはずだ。


 ユユの姓に家格はない。

 森妖精の庶民であると、不当な扱いをしても、揉み消せる相手であると、公爵家は判断しているはず。


「ジキ・ユユ。あなたが私の妾になりなさい。あなたが偽りの愛の言葉を囁くの。私が飽きるまで、ずっとね。

 それが森妖精であるあなたの責務」


 殺気ではないが強い意思を感じ、視線で確認する。

 フィオさんがお嬢様と海妖精の留学生に止められていた。うそだろ。


 フィオさん、……フィオちゃん!!!

 落ち着いて!ね!私大丈夫だから!そのまま止まってくれ頼むから!海妖精負けそうになるなその体格は飾りか!?


 くそ、気になる。

 だが今は、目の前の令嬢への対応を。


「申し訳ありませんが、お断りします。

 僕は名を騙られただけの、ただの留学生です。

 責を負うべき森妖精は他にいる」


「その男はいらないわ、あなたでいいの。

 あなたの名が使われたのだから、あなたにも責任があるわ。

 それとも、公爵家として、正式に責を追及しましょうか?この学校と、あなた個人に対して。

 あなたがこの場で、皆の前で、私に恥をかかせたことには代わりないのよ」


 観客をいれたのは君だろうに。

 思い描く物語のような、劇的な異種族婚の顛末を見せびらかしたかったのか、……令嬢の思惑はわからない。


 これ以上の恥をかかせればさらに大変なことになりそうだ。


 ――惜しいな、手っ取り早いのは退学して逃げることなのに。

 カレンフィルドには有力な味方も多いし、学校だけならなんとかなる。

 私も一国ではなく公爵家相手なら、逃げ切る自信がある。


 ……ごめんね、ご令嬢。

 君が男性を愛するからこそ、私には、切れる最大の手札が残っているんだ。


「ロドリット公爵令嬢、」


 と、口を開いた時。

 目の前にいる令嬢や、公爵家の者たち、集まったギャラリーの視線が、僕の背後に集中しているのがわかった。


 静寂の中、こつ、こつと、ゆったりとした足音もまた、僕の背後から聞こえる。


 先生方も振り返り、息を飲んでいた。


 ――海妖精は、海の匂いをまとう。

 漂う慣れた匂いに、口角があがりそうになった。

 振り返らずともわかる。誰が来たのか、なんて。


「アビゲイル・ロドリット……公爵令嬢と、つけるべきかしら」


 底から響くような、冷えきった声音。

 視界に入る海妖精たちは、声に出さない歓声をあげていた。目を輝かせているのは、フィオさんとお嬢様。


「顔を合わせるのは初めてね、公爵令嬢さん。

 (わたくし)、グレイシア・レヴィ・アブソルマーレと申します」


 アブソルマーレの名に、公爵家の者たちは狼狽えていた。

 観客にもざわめきが広がっていく。


 この国の公爵家の者なら、国王と和平条約を結んだ女王の名を知らぬはずがない。

 このカレンフィルドにも、かの女王は視察に訪れていた。


 アブソルマーレは、海妖精の王族の名だ。


 その王族が、冷えた声音と、怒りを抑えるようなひりついた魔力を纏い、乱入してきたのだ。


「それで、あなた、誰が欲しいと言ったのかしら。

 私にもう一度、聞かせてくれる?」


「っ、……あなた様には、関係ないことかと」

「アビゲイル!」


 駆け寄り娘を止めたのは、ロドリット家当主か。

 そろそろ振り返りたいが、私のために頑張っていると思われる王族に、私の視線分の負担すらかけたくない。


「ああ、驚いた。関係あるわ、あるから出てきたのよ。

 あなたは私の――王族の所有物を奪おうとした。

 ええ、わかっているわ。どんな種族にも間違いは起こりうる。 

 だから|私、間違いを正すお手伝いをしたの。だって彼、ずぅっと私の側にいたんだもの。

 穏便に済ませようと、皆に止められたから、私、前に出なかったのに……

 あなたは、あなた方は、――ひどいわ、私の慈悲を無下にしたのね」


 後ろから抱き寄せられた。

 微かに腕が震えている、肩越しにグレイを見上げ、――黒に浮かぶ、金の輪円を見た。


 この目を知っている。

 感情の昂りで瞳孔が開き、目が黒に染まるのだ。色付いた瞳の色だけが輪円となり、爛々と輝く。


「これは私のものよ。最初から、私だけのもの。

 稚魚のようなあなた、もう一度問うわ。

 あなたは、誰を、欲しいと言ったの?」


 寒いぐらいに空気が冷えている。

 グレイの魔力だろう。魔法ではなく魔力で冷気を出すか、すごいな王族。


「……申し訳、ございません。私が、……間違っていました、」


 当主に頭を押さえつけられ、無理やり頭を下げさせられていた令嬢から、……ついに、謝罪と、間違いを認める言葉が出た。


 これで仕舞いだ。

 これ以上追い詰める理由はない。


「わかってくれたのなら、いいの」


 帰ろう、と言うように、僕を抱き寄せる腕の力が強まった。

 肩越しに見る絶世の美女相手に、小さく頷く。二つの夜空には満月が戻っていた。


 事を把握しきっていない先生に、先に戻りますと合図をし、公爵家に向け深々と一礼。


 この場を去ろう、今すぐに。

 今にも倒れてしまいそうな演技派の友達が安心出来る場所へ行こう。

 そう考え、グレイの手を引き、場を後にしようと公爵家に背を向けた、


 瞬間、反射で身体が動く。

 爪と尾が出た。


 去ろうとする王族の背にたったの一瞬。

 令嬢は確かに、苛立ちを向けた、魔力を固めてしまった。

 爪は令嬢の首へ、床を抉る尾の斬撃に公爵家の私兵が怯む。


「例え公爵家の者であっても、王族を害することは認められません」


 たったの一瞬。すぐに思い直したとしても。

 アビゲイル・ロドリット。君は攻撃の意思を王族へ向けてしまった。


「最も近いのが私で良かった。

 その一瞬の殺意で、命を刈れる者が他にいたことを、忘れないで下さい」


 床への攻撃は牽制だ。公爵家の私兵相手ではない。

 この場にいる、海妖精へのもの。


 十年だ。海妖精の王が変わってまだ十年。

 その前の海は、ずっと“赤色”だった。

 止まれよ、海妖精。相手は戦争を経験していない。少し前まで戦時中だったお前らとは格が違う。

 学生として積み上げてきた人族との友好関係は、この一件で取戻しが聞かない程に崩れ去ってしまう。


 引けよ、引いてくれ、頼む。

 その輪円を元に戻せ留学生チーム。

 お前達の上司は私が安全圏まで連れていくから。


 腰を抜かしたのか、崩れるように座り込んだ令嬢。――これが、引く合図になってくれた。

 爪と尾をしまう。無表情を装っているが、さっきより震えた腕を取り、広間を後にした。

 誰も私たちに声をかけようとしない。

 早足は、徐々に重くなり。


「……グレイ、グレイ、足元から何か出てる」


 広間から離れるにつれて、頑張っていた王族の足元から冷えた白い霧のようなものが溢れ出ていた。

 周囲に霧が満ちていく。視認距離は、すぐ側のグレイの姿が確認出来る程。あとは、……真っ白だ。


「なぁ、グレイ。あの演技、誰かの真似?」


「……嫌いだった、ネチネチ責めてくる、僕の継母」


「僕はキミの継母を見たことないけれど、威圧感とネチネチさは凄かった。キミが嫌いになるのも頷けるよ」


 声音の変化や女装での登場には驚いたが、一番驚いたのは、グレイらしからかぬ、遠回しに詰めるような口調だ。

 参考にしたモデルがいると聞き、少し安師。


「……ああした方が、……良いと思ったんだ。調べた令嬢の性格から、……君が連れて行かれる可能性があって、…………もの扱いしてごめん」


「演技であることも、本意の発言でないこともわかってるよ。

 ありがとう、助けに来てくれて」


「……うん」


 王族だから引きこもっているわけではなく、グレイ自身の性格で引きこもっていたことはわかっている。

 女装して嫌いな継母の演技をしながら表に出てくるなんて、その心労は計り知れない。


「振り返らずともキミだと気づけたけど、心配だった。

 キミが恥ずかしさで倒れてしまわないか」


「倒れそうだったよ。息の仕方を忘れそうになるぐらい緊張した。

 ……けど、滅茶苦茶言われているのを聞いて、腹も立っていて」


「滅茶苦茶言ってたなあ、困っちゃったよ。特に、……キミに手を出そうとする気概とか」


 ロドリット公爵令嬢、一番のやらかしは、森妖精に本気になったことでも、

 プライドから間違いを認めずにいたことでも、

 私を代わりにしようとしたことでとない。

 王族を害する意思を向けてしまったことだ。

 ――人族の王族へなら我慢出来ただろうに、海妖精をどのように見ていたのか、わかってしまう。


「ジキ。皆を止めてくれたこと、感謝してる」


「ふふー、ぼくも案外動けるって、わかってくれた?」


「……うん、すごかった。あの爪と、見えない尻尾、なに?」


「鎌の氏族は、敵対者をかっ切る専門でさ。カマイタチ、とも呼ばれる。

 一般庶民ではあるけど、お日様の下を堂々と歩けるような氏族でもない」


「……知らない事だらけだ。君の氏族も、君のことだって」


「おいおい、ぼくら二年の頃に出会った仲だぞ。なんでしょんぼりするかな王子サマ」


「君に王子扱いされたくない」


「悪かったって、グレイ。」


 隣を歩く海妖精は、広間全員の視線を奪った美女であったくせに、今はその片鱗すらない。下がり眉で、目に浮かぶ満月には滲む雲がかかっていた。……何を気にしてるんだか。


「キミの正式な名前さ、初めて聞いたよ」


「偽名じゃないよ」


「偽名であるものか。あの場で偽名使う度胸あったら、羞恥で死にそうになってないだろ、キミ」


「氏族は竜。王族の妖精体は皆竜になる」


 海には竜がいる、だなんて。

 物語だけの話と思っていたが、本当に氏族として存在したのか。


「いいな、カッコいいじゃん。いつか見せてくれ」


「……君は」


「ん?」


「偽名だったりするの。

 君が言う鎌の氏族が、本名で入学するとは思えないから」


「そりゃ偽名だよ。ジキル・ユユルエルを省略しただけだから、偽名にしてもお粗末だけどね」


「……本名を僕に明かしていいの?」


「外は本名で堂々と練り歩いてるぞ、ぼく。

 ただ、学校に申請した書類とは違うから、秘密ね」


「…………わかった」


 うむ、機嫌が戻ったようだ。

 可愛いやつだな、まったく。


「寮に戻ったら、作戦会議しないとな。

 先生方には演技と伝えるにしても、公爵家が関わる以上、生徒には演技と言えないし。

 ぼくは謎の王女の部下ってことでいいか?

 キミの姉か妹ってことにすれば、女装もバレない」


「もの扱いするような王女の部下でいいわけ?」


「甘いな、グレイくん。美女に『私の』って言われるのは、正直、悪い気はしないものなんだよ」


「君、変なやつだね」


「結構いると思うけどな~、ときめくタイプの妖精~、あと人族も」


 眉間に皺を寄せ、「わからない感覚」と呟くグレイ。

 ここで思い出すのもおかしな話だが、……名前も氏族も出してくれたんだ。

 わかっているとは思うが、私の口から話すのが筋だろう。

 ただ、どう言ったものか。

 突然「知ってると思うけど女で~す」なんて言うのもおかしいし。


「綺麗だったよな~、キミの女装姿。実は王女だったりする?

 でも、もし王女だったなら、ぼくが寮部屋に潜り込むことは出来なかっただろうな~」


「王女じゃないし、……王女だったとしても問題ない」


「異種族とはいえ男女だろ?問題あるって」


「……異種族だから、問題ない、と思う。友達だし」


「ふーん、そういう文化的な?海妖精の」


「そうだよ」


 お、そうか。いいね。それなら開示できる。これで胸のつかえも取れる。


「良かった。ここまでしてくれた相手に隠し事したくなくてさ。鎌の氏族だって聞いた時に知ったことだとは思うけど、

 男子の枠しかなかったから、男子生徒として入学したけど、私女なんだよね」


「!!!!????????!!!????」


「年齢性別、どちらも詐称して未成年面やってたわけよ。君も私に指摘しないぐらい、違和感無かったろ?」


「――――――」


「顔色が悪いぞ、グレイ。倒れるか?いいぞ、担いで部屋まで連れていってやる。――本当に倒れるじゃん~」


 ふらりと倒れたグレイ。意識無し。

 私より身長はあるが、見た目通り軽い。背負っていざ、寮部屋へ。


 その道中、ばったり遭遇したのは外交官殿。

 曰く、濃い霧でグレイの様子を察したらしい。この王子、調子が悪いと霧を噴出しだすとのこと。面白すぎる。


 私より、留学生の親玉こと保護者枠の外交官に預けた方が安心だろう。

 苦笑する外交官にグレイを任せ、私は現場こと広間に戻ることにする。

 詳細は作戦会議後に話すとして、必要な牽制だったとはいえ、抉ってしまった床の釈明がある。

 応援してくれたフィオさんとお嬢様への礼も早めに伝えたいし、海妖精留学生チームとも話しておかないと。危険視されても困るし、グレイの所在の報告もある。

 事の終息まで、もうひと踏ん張り、だ。




 ×××××





 ――公爵令嬢と森妖精の火遊びに巻き込まれたのは、カレンフェルド魔法学校三年の、陽気で真面目な留学生。

 不憫で無実な森妖精、ジキ・ユユの評価は、大広間での一件で、ものの見事に変わってしまった。


「……訂正、しないと……!

 君、君、王女の“お手つき”で定着してしまう……!」


 あの一件から数日寝込んだグレイは今日も寮部屋に引きこもっている。

 しかし優秀な部下がいるために、学内の噂はきっちり耳に届いたようだ。


 まーた顔色を悪くして。授業も終わり、寮に帰ってみればこれだ。問題ないと言ったのに。


「だーかーら、気にならないんだって。

 むしろプラス。他種族の王族のお手つき相手なら、公爵家が引く理由になる。

 ぼくはぼくで、お手つき兼王族の護衛と認知されたから、家柄の良さと反比例する性格の森妖精に変な絡み方をされなくなる」


 おまけに、というか。

 私の攻撃性は沢山の生徒に晒されたが、どうやら多感な未成年たちの目に、恐怖として映らなかったようだ。

 その代わりに、私の尾には“ひれ”が凄い勢いでついていき――簡単にまとめると、


“力を隠し人知れず異種族の姫を守ってきた忠義の少年騎士”


 という、お花畑がすぎる認知のされ方をしている。

 公爵令嬢が憧れたように、異種族間の信頼は、この差別溢れるご時世、特別なものとして映ってしまうのだろう。


 力を隠すのは当然だし、姫を守るどころか、守ったのは令嬢の命と海妖精達の世間体。

 登用されていないので、忠義以前の問題だったりする。私も泳げたのなら、登用してもらったのに。


「実はさ、普段陽気なのに、あの瞬間の冷静さと少年らしからぬ顔のギャップが良いって、ぼく、女の子たちからちょっとモテています。ドキドキしちゃうね」


「……幼体趣味(ロリコン)で通報しようか」


「やめてくれ。冗談に決まってるだろ?

 そりゃギャップも出るわ、陽気少年が演技だぞ!」


 だが、ギャップ云々のおかげで、陽気少年モードをオフが可能になった。

 目に未成年の輝きがなくとも、声音明るくなくとも、自然に受け入れてもらえるようになった。

 楽です。ええ、とても。

 周囲に人がいるのが当たり前な全寮制魔法学校だ。これまでオフに出来たのは、基本グレイの前のみ。

 学生生活三年目にして、限界だと警報を鳴らしていたストレスゲージも、今や三分の二程度に減った。


 定着しそうなお手つきという不純な関係については、学内に王女が存在しないと、学校側、教師陣こそわかっている。 

 演技にしても相談はほしかったという小言は素直に受け、謝罪。

 お手つきの噂については公爵家関わるということで、否定せず、肯定もしないで話がついた。


 私の攻撃性に関しても、これまで問題行動一切無しという実績がある。状況が状況であり、緊急事態ということで認められた。床の傷は経費。よし。

 学校としても、自国の者が他国の王族に対し、攻撃する意思をもってしまった事実は見逃せなかったそうで、

 管理不足と追及されるなら、あの場で令嬢を止められなかったことだと言っていた。


「お嬢様やフィオさんと少しだけ仲良くなれた気がするし、留学生チームも皆気の良い妖精だし。

 面倒事に巻き込まれたにしては、結果得することが多かったな」


「……君が得したって話なら、いいんじゃないの」


「代わりにグレイの方がマイナスになってそうだ。ぼくを助けるために無理してくれたし」


「……別に、僕も収穫あったし、頑張って良かったと思ってる」


「ほんとに?」


「本当だ。……寮で、友達との共同生活、憧れてたんだよ。それが叶った」


「その憧れのおかげで、ぼくは賓客部屋の間借りが出来たということか。

 いや、でもな、男女同室でも異種族で友達なら問題なしって、本当に通るとは思わなかったよ。

 成長速度も違うし、海妖精の文化は不思議だ。ぼくとしては嬉しい話になるけどね」


「………君、が、……女性だって、学校側に言うつもりはないんだよね」


「ないよ。仕事で入学して、その仕事が無くなっただけで、うら若い少女扱いされたかったわけじゃない。

 未成年面で未成年と過ごすのはちょっと辛かっただけだし」


「……君さ、……学生になったわけだし、未成年と友達になったりするの」


「いやー、初手が庇護対象って考えちゃうから。

 ……成人と未成年が同じ目線で話せるようになるまでは、……時間がかかるだろうな。

 年の差は大きいよ。お互い成人ならまだしも、さ。

 ……案外、お互い年なんて知らない方が、良い関係になるのかもね」


「……僕が子どもだったら、君は僕に年齢詐称仲間として、テンションを狂わせながら登場することもなかったんだろうな……」


 懐かしそうに言うグレイの顔に、当時のドン引き顔が重なった。


「驚かせたのはごめんって。当時のぼく、学生生活嫌々期真っ只中だったんだ。キミと話せたから、無事解消されたわけで」


「僕のおかげか、ふふ、」


 時々、グレイはとても幼く見える笑い方をする。普段すん、と澄まし顔のくせに。


 ……そういえば、私の方に年が近いと言っていたぐらいで、実年齢を聞いたことはなかった。


「君が隠し事で思うところがあったように、僕も一つ、言わなかったことがある」


「本当は王女とか?」


「ちがう」


「え、なに、怖い、掴むなよぼくの腕を」


「君が百歳になるように、僕も六十になる」


 森妖精としては成人している年だ。

 しかしこやつは海妖精。


「……………海妖精の成長速度は森妖精と違うので、人族換算でお願いします」


「教職五年目と次の……次の年に卒業する生徒ぐらいの差」


「~~っ、アウト!ぼくすぐに出ていきます!お世話になりましたありがとうございました!」


「逃がすか!妖精の四十歳差とか誤差だろ!!百歳越えたら数百離れてない限り誤差だよね~って皆言ってた!」


「ええい離せ離せ!誤差は百越えたらの話だ!現状は未成年と成人の差っ!

 可愛いところあるなと思ってたけど本当に若いじゃないか!!」


「でも言うまで気にしてなかっただろ!

 僕も君の性別気にしないんだから僕との四十歳差ぐらい気にするな!

 妖精の四十なんてすぐだろ、いずれ誤差になる!」


「世間体!私の世間体!」


「年齢詐称して学生面してしてる今世間体を考えるな!

 君は卒業まで僕と同室!移動するなら僕がその部屋に乗り込むからな!王族特権フルに使ってやる!」


「使う場所がおかしいだろ王族特権!一般寮に王族放り込めるか!」


 なんて面倒な王族なんだ!

 これが私の友達か!くそ、友達だわ!


「ああもう、わかった、わかったよ!

 もう知らずに友達になったんだし、助けてもらってるし、ぼくが折れてやるよ」


「よし!」


 笑顔が眩しい。金色の煌めいている。

 グレイの目が本物の夜空だとしたら、月明かりの輝きで昼みたいな明るさになりそうだ。


「なんでこれを許可してるんだ海妖精。

 未成年の王族が、成人済み異性異種族と同室とかおかしいだろ……」


王族(ぼく)がいいと言っているんだから、それでいいんだ。僕らは異種族でちょっとだけ年の差はあるけれど、友達なんだから」


 じっと見つめてくる、対の夜空とお月様。

 なーーんか、将来、この顔、この金色に振り回されることになりそうで怖いが。先のことを考えるのはやめだ。


「……そうだな、まぁいいか!よし!豪華な部屋最高!」


 確かに友達ではあるし、どうこうなることはない。

 辛かった学生生活だが、……なんだかんだと、卒業まで、楽しくやれそうだ。







 終



 





 閑話。

 海妖精の女王、弟の様子を聞く。




「あのグレイが森妖精の女と同棲?

 へぇ、まだまだ子どもだと思っていたのに、やるじゃないか。


 ――え?ただの友達?本人はそう言い張ってる? なら友達か。

 ……ん?見たところ、友情に恋情諸々混ざっていそう?グレイにか? なら嫁候補だな。

 おん?相手の森妖精にその気は全くない?完全に友達扱い? なら友達か。不憫なやつめ!


 残った王族の男はグレイシアだけであるし、私としては、グレイに王位を継がせる気ではあったんだが、

 ……うーむ、異種族婚の可能性が出てきたか。

 反発を抑えられるのは私が生きている間に限るし、忌避感を払拭するには途方もない時間がかかるだろう。

 それに、海で呼吸出来ない嫁と混血の子を、海に連れ帰ることは出来ん。生きる環境が違いすぎる。


 ……まあいい。私が次の王を産めば良いだけの話だ。

 ――なに、相手はどうするかって?

 ははん、そんなの、わかりきったことではないか。


 私の周りには、こんなにも有能な部下たちがそろっているんだぞ。


 ――おい、貴様ら。どいつもこいつも目をそらしやがって。

 いいだろう、所帯をもっていない連中、今後覚えていろよ。貴様らの誰かが次の王の父となる。ふはは、ははははは!!!」

 




 おわり

お付き合い感謝。

鎌鼬♀→←←←←←←竜♂

ぐらいの重さ。



完結作、村から離れたくない海妖精の話もよろしくお願いします。


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