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小鬼の巣へ

 明朝、レジナルドはアデラの家を出て自宅へ戻り、森へ向かう装備を整える。装備を身につける手際はテキパキとしており一切のよどみがない。しかし彼の脳内はこれから戦いにおもむく者にあるまじき状態であった。


(アデラってめちゃくちゃ押しが強い娘だったのか……。つい流されてしまった……)


 昨夜の事を思い返しレジナルドの顔が赤くなる。


 確かに最後まではしなかったので、彼はいまだ童貞のままだ。しかしズボンどころかパンツの下までアデラに見られたうえ、色々とされてしまった。


 レジナルドもアデラの衣服の下を見たし、さわった。前世を含めて最大級のお胸の魅力に彼は骨抜きにされ、たっぷり楽しんでしまったのである。


(……凄かった。それに、可愛いかった)


 原作の絶望に沈む顔しか知らなかったレジナルドは、一夜をすごす中で見たイタズラっぽい笑みや、愛しげに見つめる表情、色気たっぷりの艷やかな表情など、次から次へと表情を変える彼女をとても魅力的に感じた。


 叶うのならずっと隣に居て欲しいと思うほどに。いや、レジナルドが望めば叶うだろう。尽くすタイプと称したアデラの献身を知った彼は、容易く楽しい村人ライフがおくれると想像がつく。


(だが、駄目だ。俺は推したちを守護まもられば……!)


 ふたりが不幸になる可能性から目をそらして、自分だけが幸せになるという選択をレジナルドは選べない。自分レジナルドが関与しなくとも彼らが幸せになる可能性を信じられるほど、前世でプレイした原作ゲームは甘くないのだと、彼は知っている。


 アデラに未練が無いと言えば嘘になる。『本番つづきは無事に帰ってからと』色気たっぷりに微笑む彼女を抱きしめたいが、責任を取れず旅に行くレジナルドにアデラを抱く権利はない。少なくとも彼はそう考えていた。


(先ばかり考えても仕方が無い。まずは今日、小鬼の巣から無事に戻る事を考えよう)


 軽く頭を振って雑念もとい煩悩を振り払い、レジナルドは約束の場所へと向かう。村の入口にたどり着くと、既にカイトとサリーナが先に到着して待っており、彼は急いで駆け寄る。


「おはよう。それからごめん、待たせたかな」

「おはようっ。まだ時間前だし気にすんなよ。俺たちが早く着きすぎただけだからさ」


 そう言って笑うカイトの格好は、昨日詰め所で会った時と同じ自警団の軽鎧姿だ。腰に長剣と、左腕にバックラー、腰まわりにポーションホルダーと背中に背嚢という、基本かつ万全の準備を整えた彼とレジナルドの装備の違いは、長剣と槍ぐらいである。


「おはよう、レジナルド君。準備はしっかりできてる?」


 カイトと同じ自警団の軽鎧を着こなすサリーナも、メインウェポンの違いはあれど大部分の装備は同じだ。自警団の制服そのものが男性隊員と女性隊員で違うため、彼女だけロングスカートである。


 そして彼女の愛用する武器が、両手で抱える弩だ。キャラクター紹介に聖女と書かれるサリーナの武器が弩と知り、原作ゲームプレイ時に度肝を抜かれたのを覚えていた。


 彼女が公に『聖女』と呼ばれるようになるのはゲーム中盤以降であり、そもそもゲームスタート時では、カイトの幼馴染で片田舎の治癒魔法が得意なだけの自警団員の一員なのだから、弩を愛用しててもおかしくないな! と半ば無理やり自分を納得させたものである。


「もちろん。サリーナさんこそ心の準備はできてますか」

「うん。でもあんまり心配はしていないよ? カイトとレジナルド君が一緒だから」

「俺たち三人なら絶対上手くいく! そうだろ?」

「ああ。油断せずにきっちりやれば、ね」

「油断大敵って言うもんね」

「当然! 小鬼が相手だからって手抜きは無しだ」


 自信たっぷりに言い放つカイトと一歩引いたように冷静さを保ち話すレジナルド。そんな二人をサリーナは微笑ましげに見つめる。


 幼い頃からずっとカイトを見てきた彼女は、カイトの感情に身を任せがちな性分が、成長しても変わらないところに一抹の不安を抱いていた。


 情に厚く、誰かの為に頑張れる彼の良いところでもあり、サリーナがカイトの好きなところでもある。心無い人たちに利用されないか心配な一方で、人助けをする優しく頼もしい姿を見守りたいという複雑な思いがあった。


 しかしレジナルドがカイトの友達になり、本当に無茶な時だけ強引にでも止めるようになる。そして彼が熟考する姿をたびたび見たカイトは、感情のまま動く前に一呼吸はさむ癖を覚えたのだ。


 故にサリーナはカイトに良い影響を与えたレジナルドに友人として高い好感を持っていた。


「よし! 出発だっ!」

「「おお~!」」


 その影響はカイトのリーダー適正を高めてもいる。


 彼の号令で森に立ち入った一行は、彼を先頭に小鬼の巣を探し始めた。森に生息する大きな蜂の魔物『ホーネット』や人を襲う植物『プラント』、体毛が灰色の狼『灰色オオカミ』らと遭遇しては難なく倒し先を急ぐ。


 そしてあまり深い森でないお陰で、森の奥にある洞窟が視認できるところまでレジナルドたちは容易く到着することができた。


 洞窟の入り口には一匹の小鬼が立っている。見張り役なのは明らかであり、洞窟が小鬼たちの巣になっているのは明白だ。カイトたちは木の陰に身を隠し、様子をうかがいながら小声で会話をする。


「見張りが一匹。それも武器は棍棒だけでろくな防具も身に着けていない。まだできたばかりの小さな巣のように見えるが二人はどう思う?」

「私もそう思う。群れが大きければもっと見張りも多いだろうし……早くに見つかって良かったかも」


 カイトの意見をサリーナが肯定し、レジナルドも同様に頷く。


「アデラが森の入り口で小鬼に会ったのは運が悪かっただけかもしれない」

「そうかもしれないな……」


 レジナルドたちは小鬼が群れを更に大きくすべく、繁殖相手を攫いに森を出ようとしたところで、アデラが偶発的に遭遇したのかもと推測する。 


 結果だけを見るのなら、アデラは無事に村へ帰れたし、アデラが襲われたお陰で小鬼の存在を知れ、群れが成長しきる前に発見ができた。村を守る自警団員としては良かったと言えるが、口にするのははばかられた。


「よし。なら村に戻ろう。団長に報告してから巣の殲滅を、っ!」


 カイトたちが引き上げようとした時、別方向の茂みから三体小鬼が姿を現す。奴らは気を失いぐったりシている女性を担いでおり、洞窟の中へと入っていった。


 レジナルドの知る原作に無いイベントシーンだが、カイトの撤退する気を無くすのに都合の良すぎる出来事がタイミング良く起こり、彼は原作に少しでも似せようとする修正力が働いたのではないかと疑念を抱きながらカイトの反応を待つ。


「っ、く……。サリーナ、さっきの人が誰か分かるか?」

「……ううん、見覚えないからたぶん別の村の人だと思う」

「そうか。なあ、ふたりとも……」

「助けに行きたい、か?」


 カイトが何を言いたいのか、レジナルドとサリーナには直ぐにわかる。実にカイトらしいとふたりは笑みを浮かべた。


「ああ。見ちまったからには放っておけない。辛い思いをする時間はちょっとでも少ない方がいい」

「まぁそうだね。当然、作戦はあるんだろ?」

「基本通りにやろう。入り口から順番に各個撃破しつつ最奥部に向かう。人を助け出すのは小鬼の脅威を取り除いてから。どうだ?」


 暗い小鬼の巣で気をつけなければならないのが挟撃や不意打ちである。個の力は決して強くないが、数の力は馬鹿にならず、大勢に囲まれればカイトたちとて危うい。


 三人という最小限の人数なため、先に女性を救出し誰かが背負ってしまうと、万が一見つかった時に戦えなくなる。救出対象を抱えて森から逃げ出すのは現実的ではない。


 ゆえに各個撃破、救出は最後。小鬼の巣を殲滅するときの基本なのだ。それを提示されればレジナルドは余計な口出しをせず頷くのみである。剣乙女との出会いイベントを起こすため、突入は彼も望むところだ。


「俺は良いと思う。サリーナさんは?」

「私もいいと思う。やろう、二人とも」


 同じ女性として見過ごせない、と意気込むサリーナもやる気十分だ。そんな彼女が手にする弩にボルトを装填する。狙うのは当然、見張り役の小鬼。


 見張り役が完全にひとりとなったタイミングで、彼女が小鬼目掛けてボルトを撃ち、完璧なヘッドショットを決めるのだった。

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