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夜のオハナシ

 すぐに家へ帰るのが面倒だと思うぐらい思う存分飲み食いをしたレジナルドは、アデラの両親の好意で一泊していくことになった。


 湯の入った木桶とタオルを借り身体を清めた彼は、アデラの父親の衣服を寝間着代わり借りて着ている。通された客間に敷かれた布団の上に寝そべり、ぼんやりと窓から月を見ていると、不意に部屋の前に人の気配を感じた。


「……誰ですか?」


 レジナルドの問いに返答はない。彼が上半身を起こしたところで、いきなり扉が開く。そこに立っていたのはアデラだった。


「入るわよ」

「ちょっ」


 ベージュ色のワンピース形の寝間着を着た彼女がするりと部屋に入り扉を閉める。彼が静止する間もなく、アデラはレジナルドの目の前に座った。


 薄いワンピースが彼女の大きな胸で盛り上がり、そのうえ胸の下で紐が結ばれているため、はっきりと胸の形がわかってしまう。夜、男の部屋を訪れるにはあまりにも不用心であると同時に、己の魅力を伝えるのに適している服でもある。


 レジナルドは視線がおっぱいに吸い寄せられそうになるが、なんとかアデラの顔に合わせた。それはそれでドキドキしてしまうのだが。


「返事する前に入ってくるなよ……」

「いいじゃない。私の家なんだし、私の自由でしょ」

「そりゃそうだけど。こんな時間に男の部屋に来るもんじゃないぞ」

「なぁに? 意識しちゃう?」


 にんまり笑い、ぎゅっと両腕でおっぱいを寄せて上げる仕草に、レジナルドの顔が赤くなる。前世を含めてもアデラほどのおっぱいを間近で見た事がなく、つい視線が吸い込まれてしまい、はっと気づくと慌てて目線を顔に戻し、軽く睨む。


「からかうな。まぁ、その調子ならもう心配する必要もなさそうだな」

「レジナルドが助けてくれたお陰よ。そうじゃなかったらこんな風に話せなかったと思うわ」

「……だろうな」


 小鬼の巣に連れされた原作のアデラは、カイトたちに救い出されたが心を壊してしまい、話しかけるコマンドを選択しても『……』としか表示されない。


 転生したレジナルドとしても、村を訪れる冒険者たちから様々な話を聞いて知る小鬼の犠牲者がたどる凄惨な末路は、失敗が絶対に許されないと思わせるところがあった。


 それ故にアデラの立ち居振る舞いをレジナルドはおおらかな気持ちで受け止め、苦笑いだけで済ませる。その態度がアデラに懐の大きさを感じさせ、彼女は胸の奥がきゅ〜っと締め付けられる感覚を味わう。


(ヤバ……。私って、ちょろかったんだ……。こんな簡単にレジナルドのこと……特別に感じちゃうなんて)


 見つめる眼差しに熱がこもり、鐙色の瞳に真剣さが宿る。雰囲気が変わったのをレジナルドは肌で感じ、部屋を追い返そうと思い口を開こうとするが、アデラの行動の方が早い。


 敷き布団に右手をつき、彼女がぐっと身を乗り出す。綺麗な顔が近づき、彼は思わず息を呑む。


「レジナルドは、恋人がいないはずよね。私なんてどう? お付き合い、してみない?」

「お、落ち着けって。一晩寝て冷静になって考えた方が良い」

「ちゃんと考えて気付いたの。私……レジナルドのこと、好きだなって……」


 アデラが左手も敷き布団につき、更に一歩分前へと進む。思わずレジナルドが上半身をのけ反らせるくらいふたりの距離は縮まる。


 掛け布団の下にある彼の下半身をアデラの上半身がまたぐ格好になっており、レジナルドがそれ以上後ろに動きづらい状態のまま会話は続く。


「だってこんなにドキドキしているんだもの。村の男に口説かれた時だって、こんな風になったことなんてないわ」

「それは……ほらあれだ。生命を助けられたからだろう。アデラが感じているのは恩義とか感謝とか、そういったものじゃないか?」

「違うわ。絶対に違う。ねぇ、ちゃんと私を見て。目をそらさないでよ」


 じっ、と間近で視線が絡み合う。わかっていて目をそらしていただけにレジナルドは罪悪感を覚えずにはいられない。そんな表情の変化をアデラは見逃さなかった。


「やっぱりわかっててあんな風に言ったんだ。あーあ、傷つくなぁ。真剣に告白したのに」

「ぐ……悪かったよ。ちゃんと返事をする。……ごめん、今はアデラとは付き合えない」

「どうして? もしかして他に好きな人がいる……あ、サリーナとか?」

「違う。というかサリーナはカイトがいるだろ。ふたりのあいだに割り込むなんてとんでもない」

「あ、うん、だよね? なら理由を教えて」


 誤魔化すことを考えたレジナルドだが、真剣なアデラの顔を見て思いとどまる。全ては話せないが誠意をもって彼女の思いを断ち、この村で幸せに暮らしてもらおうと、彼は口を開く。


「今日の件はまだ終わってない。あんなところに小鬼の群れがいるって事は、森の中に巣が出来たと予想できる。明日、俺とカイトとサリーナの三人目で偵察に行く予定だ。だから駄目だよ」

「命を懸ける戦いに行くから?」

「あぁ、何があってもおかしくない。付き合って一日で死に別れるなんて普通に嫌だろ。……あ、アデラ?」


 レジナルドの話を聞いているうちに、アデラの表情は真剣なものから、より甘いものへと変わっていく。


 その事情なら告白を受け入れ、布団に押し倒し、思い残しながないよう一夜を楽しむという選択があっただろう。だというのに彼はアデラを気遣ったのだ。


 好きになった人の優しさにふれ感極まった彼女は、愛おしいという感情に従い、レジナルドの腕の中へ飛び込む。彼が咄嗟に抱きとめてしまえば、ふたりは抱き合う格好となる。


「良かった。私が嫌いだからとかじゃなくて」

「……好きも嫌いもないだろ。今日まで挨拶するぐらいの仲だったんだ。というか離れてくれ」

「い〜や! 好きな人とくっつきたいもの。レジナルドだって悪い気しないくせに〜」


 レジナルドも若い男だ。アデラのようにスタイル抜群の美女に好意を向けられ、密着し、近くで微笑む姿に何も感じないはずがない。理性と本能のあいだで揺れてしまい黙る彼に、彼女はイタズラっぽい笑みを向ける。


「黙ったってことは図星なんだ。いひひ♡ 素直じゃないな〜、レジナルドは」

「そう言うアデラはずいぶん積極的だ」

「追われるより追う方のが好きみたい。本気で好きになったのレジナルドが初めてだから私も知らなかったわ」

「そうかい……。いい加減離れろって」

「や。これレジナルドに有効っぽいし。うりうり〜♡」


 アデラが惜しげもなく身体を擦り付けるせいで、レジナルドは寝間着越しに感じるおっぱいの柔らかさやお尻の柔らかさ、温かな体温と女の子特有の良い香りに、どんどん顔が赤くなるどころか一部が反応してしまう。


 ソレをお尻で感じ取った彼女の『してやったり』感あふれる笑みに、レジナルドはドキッとしてしまい、片手で両目をおおう。


「勘弁してくれ……っあ、理由も話しただろ」

「んーん、あれは諦める理由にならないわよ、レジナルド」


 不意に声のトーンに真剣味が宿る。アデラがそっと目を隠す手を外し、戸惑うレジナルドの目を見つめながら続きを話す。


「確かに死別は悲しい。でもそれを恐れていたら何もできないわ。戦いじゃなくても病気だったり……今日の私みたいな場合だってあるもの」

「……」

「だから私は未練を残さないようにするわ。好きな人には好きって伝えるのだって止めないわよ。私を悲しませたくないのなら断るんじゃなくて、付き合って。そして、生きて帰ってきて」


 覚悟を感じる彼女の前向きな眼差しに、レジナルドはアデラ心の強さを感じずにはいられなかった。ヘタれて好意から目を逸らした自分よりよほど強いな、と自虐気味に笑う。


 本気の告白を断りきるには、やはり自分も本気でなくてはならないとレジナルドは考え直す。しかし今、旅に出るという未来の話はできない。


「生きて帰るのはわかった。でも付き合う前にお互いを知る時間が欲しい」

「恋人になった方がもっとよく知れるわよ?」

「だめ。今はまだアデラと同じだけ気持ちが返せる自信がないからな」

「真面目。でもそこが好き♡」


 艷やかに笑うアデラを見て、レジナルドの背筋に冷や汗が伝う。獲物を狙う肉食獣を思わせる眼差しを送ってくる彼女を落ち着けようと思うが、彼は容易く押し倒されてしまい。


「ちょっ、アデラっ。どこさわって……っあっ」

「んふふ♡ 絶対帰ろうと思えるように未練でも作っておこうかな〜って♡ 私、好きな人には尽くすタイプみたい」

「限度ってもんがある……うう、ほんとだめだって」

「大丈夫、最後まではしないから♡ だから、ね?」

「……」


 レジナルドはアデラの愛情に屈した。

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