彼女たちと共に
一話更新
結論から言えば、裏組織の頭目はレジナルドの条件を受けて入れた。〈戒めの炎〉を植え付けられた二人は、条件を守るべくすぐさま倉庫を後にする。
彼らが条件を守り逃げ延びようが、条件を守れず焼死しようが、レジナルドはもう興味がない。彼が気にするのは、置き去りにしてきてしまったアデラの事だけだ。
人の姿に戻ったロニと薬師ギルドのホールに戻ると、そこではアデラがギルド職員と激しく言い争っているところだった。
他人の目があるところでお淑やかなフリをする彼女が、素をあらわにし未だ戻らないレジナルドの行き先を追求しており、倉庫へ案内した職員が知らぬ存ぜぬを貫いているのが遠目にもわかる。
どうやらその職員は地位があるようで、他の職員たちはオロオロとするばかりで、他の利用者も遠巻きに見るだけに留まっている。彼はアデラが痺れを切らし、ギルドから追い払える口実になりえる行動を起こすのを待っていたのだが、その目論見はレジナルドたちが戻ってきたことで崩れることとなった。
「アデラ、お待たせ。ごめん、ちょっとトラブルに巻き込まれていたんだ」
「レジナルド! 良かった、心配したわよ。トラブルって?」
レジナルドの姿を確認し、安堵の表情を浮かべ駆け寄るアデラに対し、職員の顔色は悪く、なぜ生きているのだと言いたげな顔つきをしていた。頭目に提示された賄賂に目がくらみ、悪事の片棒を担いだのだから無理のない反応とも言える。
「ちょっと倉庫を汚してしまってね。申し訳ないから片付けの手伝いをしていたんだ。思ったよりも時間がかかってしまったから、先に言伝をするべきだったよ。本当にごめん」
「そうなの……。もう、次からは気をつけてよね。本当に心配したんだから……」
「ああ。報酬は貰えている?」
「ええ」
「ならもう行こう。カイトたちが待ちくたびれているだろうし」
「そうしましょう。……お騒がせしました」
アデラが頭を下げて謝れば、ことの成り行きを観察していた他の利用者たちはおのおの自分の用事へと戻っていく。職員たちも同様に、ホッとした様子で業務に戻る。誰もが薬師ギルドの敷地内で殺人が起こっているとは夢にも思っていない。ただひとりレジナルドたちを倉庫に案内した職員だけが、立ち去る彼らの背中を呆然と見送っていた。
(まさか、返り討ちに……?!)
彼は倉庫内が凄惨なものになっている想像をしてしまう。倉庫の責任者は自分だ。他人にそれを見つけられては、管理責任を問われるだろう。
自己保身の思いだけで倉庫に向かい、意を決して扉を開ける。そこに広がる光景は、最後に見たままのいつも通りの倉庫内のもので。あまりにも普通すぎて、呆けてしまった。
(いったいなにがどうなって……?)
確かに賄賂を受け取り、二人をここに案内した。その前に裏社会の人間がここに居たのも確認している。それなのに、倉庫内に争った跡がない。
(まさか何事もなく話し合いで解決したのだろうか。そ、それならよかった! なんの問題もないな!)
都合よく考える男は知らない。一人暮らしの家を頭目たちが家探しし、賄賂を回収されていることを。家を荒らされた理由を騎士団に言えず、泥棒被害を出す他なく、休日がまるっと片付けで潰れることになるのを。
人の命にかかわる悪事の片棒を担いだ代償として破格の安さなのだが、彼がそう思い至ることは無かった。
一方のレジナルドたちは、薬師ギルドを出た後、何とも言えない気不味い沈黙を保ったまま歩を進めていた。
その原因は笑顔をキープしたままのアデラの発する無言の圧力であり、レジナルドとロニは黙って後ろに続くほかない。暫く歩き、集合場所に向かう途中で人通りの少ない裏道に入ったところで、アデラが立ち止まり振り返る。
「それで、本当のところは何があったの? あの場で言えないような事があったのはわかってるからね」
ギクリとロニは肩を跳ねさせてしまうが、レジナルドは想定通りの言葉を聞き、あらかじめ考えていた通りに簡潔な説明をする。
職員に案内された先で裏組織の人間に狙われたこと。その理由が今冒険者ギルドを騒がせている違法道具に関する情報を、騎士団に匿名でたれ込んだのがバレたからだと。そしてロニが勇気を出して『契約』してくれたお陰で乗り切れた、と。
「こんな事にならないよう匿名で通報したんだけど、向こうの方が上手だった。ロニさんのお陰で命拾いしたよ」
そう締めくくるレジナルドを見るアデラの表情は険しい。
必要な時に傍に居なかった己の不甲斐なさを感じずにはいられず、一人で危ない事をした彼への不満があるも、それが親友を助ける為の密告だと理解しているだけに、文句を言うのも違う気がして、何を言っていいのかわからない。
ハラハラした表情をしているロニに悪感情はない。契約者を独占したい気持ちは、彼女が後天的剣乙女という事もあって薄く、助けとなってくれた事に対する感謝の気持ちが大きかった。
「……もう危険はないのよね?」
「ああ。ロニさんの魔法で対策済みだから、この件で同じような事はないはずだよ」
「……ならいい。でも今度から危ない事をする時は私にも教えて。私はレジナルドの剣乙女。パートナーなのよ」
切実に訴えるアデラの瞳は、今にも涙がこぼれ落ちそうなほど潤んでいる。レジナルドを失いたくない一心で剣乙女に覚醒した彼女の思いの強さを軽く見ていた訳では無いが、もっと彼女を頼るべきだったと思い直す。
「もう二度としない。アデラの力を頼るよ」
「うん、よろしい!」
いつもの勝ち気な笑みに戻り、レジナルドとロニが胸を撫で下ろした。しかし次の言葉で再び緊張が走る。
「後はロニちゃんの気持ちを聞かせて貰おうかしら。『契約』したことに思うところはないわ。でもレジナルドの一番のパートナーを渡すつもりはないわよ?」
「そ、そんな! アデラさんに取って代わろうなんて……! 本当に、あのときは必死だっただけで……」
「でも契約は続けていたいんでしょ。契約解除するつもりなら、私に会う前に出来たものね」
それはレジナルドがあえて聞かないままでいた事でもある。ロニと契約したお陰で切り抜けられたのだ。用が済んだら直ぐに解除、とは言い難く、折を見て話をするつもりだった。
恩を感じているがゆえに、彼はそこまで詰めるような言い方をしなくとも、と思ったが、同時に契約を解消する良い機会だとも考える。ロニにとっても、あの場を切り抜けるための契約だと思ったいただけに、アデラの指摘はお門違いだと、そう思っていた。ロニは直ぐに謝り、契約を解除すると告げるとも。
「……はい。アデラさんが許してくれるなら、これからもレジナルドさんの力になりたいと思っています」
「そう。心地いいわよね、レジナルドとの契約」
「はい。契約がこんなにも温かくて、幸せなものだなんて知りませんでした。私にとって契約は、苦しいだけのものでしたから」
剣乙女にしか理解のできない感覚の話に、レジナルドはついていけていない。しかし同じ男と契約した彼女たちは通じ合っている。『推し』の為に努力を惜しまず、他人のために一生懸命になれるレジナルドの真っすぐな心は、心で繋がる彼女たちを魅せるに十分な素養がある。そんな彼に命がけで守られた彼女たちは、彼の心と立ち居振る舞いに大いに惹かれ、好意を抱くに至った。
じっと見つめ合うアデラとロニ。重い雰囲気はレジナルドの介入を許す雰囲気でないが、それでも何とかしようと二人のあいだに入ろうと彼がした時、アデラは雰囲気を一転させ笑みを浮かべる。
「ならこれからはロニって呼ぶわ。一緒に戦うならもう子供扱いできないもの」
「っ! それじゃあ、アデラさん!」
「よくわかったと思うけど、レジナルドはひとりで突っ走るところがあるの。これからはロニも気を付けて欲しいわ」
「はい! 私もしっかり見張ります!」
「ええっ、そういう話の流れだった……? いや、いいんだけどさ……納得したなら……」
ぴりついた空気が嘘のように無くなり、がっちりと握手する彼女たちにレジナルドは戸惑うばかりだ。剣乙女の契約の重みは、人の感覚では理解しきれないものなため無理もない。だが、彼女たちが契約者を共にする事に心から異論がないという事だけは、はっきりと伝わってくるので、そういうものだと割り切ることにしたのである。
そんな彼の利き腕にアデラが、反対の腕をロニが絡ませた。
「そんな流れよ。さ、早く行きましょ。きっと待ちくたびれているわ」
「王都散策、楽しみですね、レジナルドさん」
彼女たちに腕を引かれ、レジナルドは歩を進める。釈然としないままだが、これからもロニが力になってくれるのはありがたい。まだまだ王都に寝取り男は沢山いるうえ、原作の物語が進めば敵の力も強大になっていくのだから。
(二人に愛想を尽かされないようにしないとな。……とりあえず王都散策が終わったら話し合おう)
彼女たち剣乙女の価値観を少しでも理解できるようにしなければと、レジナルドは思うのだった。
ロニと契約編まで書いたので完結します。
二人と契約したのがカイトに知られ、成り行きで闘技大会に参加。他の参加者(寝取り男含む)を次々と蹴散らしたレジナルドは、決勝でカイトと戦う。
シルトを手にする主人公に、レジナルドはアデラとロニの二槍で立ち向かい、大接戦の末に降参する。
優勝したカイトは、王に褒美を問われると、王都にある大教会で、サリーナとの結婚式を挙げたいとのべ、その願いは承諾される。
幸せな結婚式を挙げる推したちを見ながら、レジナルドは今後もアデラ、ロニと共に推したちを寝取りフラグから守ると誓う、ところまでがプロットでした。
供養。




