解放される力
一話更新
武器と化したロニが槍をかたどったことにレジナルドは驚くも、ありがたいと感謝しそれを構える。
原作知識のある彼も知らない。剣乙女がどんな武器へと変わるのかが、契約者と『契約』する時に決まるということを。
ロニが強く思ったのは、使い手のレジナルドだけでなく憧れのアデラの姿。それ故に槍の形は理想と殆ど違いがない。前の契約書に使われ、何度も切り結んだ経験があるだけに、その再現度はかなり高く、槍はレジナルドの手によく馴染む。
後天的剣乙女のアデラはレジナルド専用のため、自身の髪の色の『赤』でなく、彼の色である『黒』がベース色だが、普通の剣乙女であるロニの色は、彼女の髪に近い朱色となっている。
しかし柄には黒と赤のラインが入り、二人がロニの心の大きな支えになっている事を示していた。もっともその深層心理を読み取ることができる者は、この場にいないのだが。
『あの人と全然違う。……あたたかい……すごく、落ち着く……』
単なる物として扱い続けた男との『契約』は苦痛でしかなかった。その苦痛が心を苛み、ロニの心を無へと変え、人形のように従う他なくしたのだ。
だが、ロニが勇気をもって望んだ『契約』は、正しく心と心を繋げた。決して諦めない不屈の心は優しくもあり温かくもあり、恐怖に怯えるロニの心をそっと包んでくれる。
この人になら身を任せても大丈夫。剣乙女の本能がそう察した時、ロニは身体の内からこれまで以上の力が湧き上がるのを感じた。
望まぬ使われ方をしていた彼女は、自分が剣乙女でなければこんな目に合わなかったのにと、自分で自分を否定していた。それが極めて強いストレスとなり、剣乙女としての成長を阻害していたのである。
望んでいなかったとはいえ、ロニは兵士長の武器として様々な敵を屠ってきた。原作ゲームで言うなれば、剣乙女は装備者が敵を倒した経験値でレベルが上がる。この世界においても戦いを通じて剣乙女は成長をするものであり、今まで一切成長していなかった方がおかしかったのだ。
『本当に、大丈夫ですか……?』
『はい……平気です。もう怖くありません』
想像よりずっと芯のある思念に、レジナルドは意表を突かれる。感情が伝わるのは互いのことであり、ロニが虚勢をはっているのではないと理解した彼は、これまでの『いかにして逃げるか』という思考から『目の前の敵をどう倒すか』という思考へと切り変える。
それは敵を殺すことすら視野に入れた物騒な思考だが、ロニに怯えた様子はない。であればレジナルドは単に倒すだけでなく、今後似たようなことが起きないよう落としどころをどうすべきか、ということにまで思考を巡らせる。
もっとも楽なのは、彼らの口を封じてしまうことだろう。確かにメンツは大切なモノだ。しかし戦闘部隊を全滅させる相手にいつまでも刺客を送り続けるような採算の取れない行動を裏組織がするとは思えない。
しかしここは薬師ギルドの倉庫の中。殺してしまえば死体の片付けに困る。処置を誤り、血痕一つ残せばそれネタに別の切り口で責めてくる可能性が生まれてしまう。
面倒だがトラウマになるぐらい徹底的に痛めつける方向で考えをまとめるレジナルドに、思いもよらぬ提案がロニから飛び出す。
『あの、私の力を使えば跡形もなく燃やせます……』
膠着状態となり、様子見するばかりの男たちと睨み合いを続けていたレジナルドは、ロニの提案に驚いてしまう。
『ロニさん?』
『斬った相手を一瞬で焼き尽くす炎塵っていうものがあるんです。これなら倉庫が火事になりません』
厳密に言うと、相手の魔法に対する抵抗力が低いという条件があるのだが、ロニの目で炎塵に耐えうる抵抗力を持つ男はひとりもいない。弓の剣乙女を持つ頭目とて葬れると、ロニの本能が囁いている。
誰が聞いても死体を残さぬ惨い技であるが、おおいに助かるのも事実。だが殺人という罪に彼女を巻き込んでも良いかという葛藤が生じてしまうのも無理はないだろう。
そんな彼を優しい人、とロニは思う。それと同時に、レジナルドなら危険極まるこの技を悪用しないとも思える。だからロニはそっと背中を押す。
『あの人たちは悪い人なのでしょう?』
『恐らく。少なくとも違法道具にかかわりのある組織の人間なのは確かです』
『どうしてそんな人たちに狙われているのかは後で教えて貰いますからね……。ともあれ遠慮のいらない相手ならやっちゃいましょう』
口調こそ軽いものの、ロニの言葉に重みを感じる。命を奪う経験を持つ者の重みを。前の使い手を考えれば、ロニがアシホルに逆らう者たちに振るわれていたと想像するのは容易だ。
炎塵という名は、レジナルドの原作知識にもある。ゲームでは『赤』の剣乙女が覚える技のひとつで、極めて高い威力を誇る単体攻撃スキルだった。
普通にゲームをプレイしていれば、その技を覚えるのはシナリオの中盤で、大会が終わりカイトが勇者に命じられて以降の時期。つまり彼女はそれほどの経験値が溜まるほど多くの人を斬っているという事になる。
『私なら大丈夫です。きっとレジナルドさんより私の方がたくさんのーー』
『わかった、それ以上言わなくて良い。ありがとう、ロニさん。……君の力を貸して欲しい』
辛い過去を語らせてしまう前にロニの覚悟に応えるべきだったとレジナルドは自分を恥じた。
『はい!』
『でも一つだけ。例え多くの人を斬っていたとしても、ロニさんが罪の意識を抱く必要はありません』
『……えっ?』
その言葉はロニが兵士長にぶつけられてきたものと真逆のもので。
〈俺がコイツを殺すとわかっていて、お前は我が身かわいさに剣となった。お前が契約しなければコイツは死ななかった。だからお前がコイツを殺したのだ。お前は罪人なのだ〉
ずっとそう言われてきた彼女は、それが正しいと思い込んでいた。しかしレジナルドはそれを真っ向から否定する。
『武器を使った責任は、使い手が負うものです。ここで彼らを殺すと決めたのは、俺です。だからこの罪は俺だけのーー』
『二人の、です』
ひとりで全てを背負おうとする彼の言葉は、ロニを慰めるためのものでなく、心からのもの。そんな彼となら一緒に背負えるーーそう思ったら自然と言葉を遮っていた。
『二人で決めたことですから。そうでしょう?』
それが虚勢からの言葉ではないと察したレジナルドは、口元を緩める。
『そうですね。……アデラが俺たちを探しているはずです』
『心配かけちゃいましたね。直ぐに戻りましょう』
取り囲む男たちの隙間を縫うように矢が飛来する。何もしなければ心臓に命中する軌道の矢を、レジナルドは槍で斬り払う。
矢切りーー極めて練度の高い戦士なら誰でも出来る技だが、冒険者になったばかりのものが出来る技ではない。驚く頭目は、斬られた矢が一瞬で塵となり燃え尽きる様を見て、両目を見開いた。




