多大なる影響
一話更新
素知らぬ顔で宿に戻ったレジナルドがデミシの逮捕を知ったのは、カイトたちが予定より大幅に遅れて宿に戻ってきてからだった。
冒険から戻って来た彼らは、ギルド内がバタついており、職員が捕まったと聞いて驚くばかりだ。しかも内容が違法道具の所持であり、他の職員や冒険者たちにまで影響がおよんでいた可能性があるとくれば、大騒ぎにならない方がおかしい。
幸いな事にカイトたちは登録したばかりだったため、ギルド内で取り調べを受けずに帰ることが出来たが、長らく冒険者ギルドを出入りしていた者は、違法道具の影響下にないか調べられている。
そのせいで業務が停滞し、宿へ戻るのが遅れてしまったのだ。思った以上の影響を与えてしまい、レジナルドが冷や汗をかいてしまうのも無理はないだろう。
「という訳で明日は冒険者ギルドが臨時休業になったんだ。だから明日は休養日にしようと思う。ここ数日、ずっと修行していたからな」
「ん……いいんじゃないか? 根を詰めすぎても良くないと俺も思う」
動揺を内心で隠し頷くレジナルドは自然体のままで、彼がこの騒動にかかわっているとは誰も思わない。
「だろ? せっかくだし皆で王都の散策に行こう。アデラさんたちも明日は休みにしてさ。どうだろう」
遅くなった夕食中にカイトがぐるっと全員の顔を見渡す。帰り道で相談して賛成してくれていたサリーナは笑顔で頷き、シルトも追従する。
「私たちも大丈夫よ。ポーションの材料は使い切ったし、出かける前に納品して散策の資金にしちゃいましょうか。ね、ロニちゃん」
「……はい。私も行ってみたい、です」
アデラだけでなくロニも乗り気のようで、何度もコクコクと頷く。田舎育ちの村娘の彼女も王都に来た事がなく、華やかな町を見て回りたいと思うのも、年頃の娘なら当然のこと。
ここ数日、僅かながらも薬師ギルドでポーションの売買をしているため、手持ちのお金が出来たのも大きい。
ロニはレジナルドに宿代を渡そうとしたが、彼は受け取らなかった。なのでプレゼントという別の形でお礼をしようと考えた彼女にとって、王都散策は密かにプレゼントを選ぶ絶好のチャンス。彼女が乗り気になったのはそれが理由だった。
「よっしゃ! なら明日は王都散策だ。朝までにどんなところへ行きたいところを決めておくように!」
「わかったよ。こっちの部屋でも相談しておく」
「おう。俺たちもそうするな」
翌日に王都散策をする事を決め、それぞれの部屋に戻る。レジナルドたちの部屋では、何度も王都に来ているアデラと行きたいところが特にないレジナルドが、ロニから上手く聞き出して候補地を決めた。
楽しみという気持ちを隠しきれない彼女の様子は、保護したばかりの頃と違い生気に溢れている。辛い経験は決して無くならない。しかしそれを乗り越えつつあるのだと思えたレジナルドは、良い思い出にしてあげたいと思う。
アデラも彼と殆ど同じ気持ちだ。薬師の知識を惜しみなく与えたのは、ロニの人生が幸いであれと思う同族意識と、きっと彼女はもう自ら誰かと『契約』し、剣乙女として力を使うつもりはないのだと、なんとなく察していたからだ。
ロニを親元に返す時は、刻一刻と近づいている。この王都散策が良い思い出になってくれればとふたりは思う。
そして翌日。王都の中央広場でカイトたちと待ち合わせの約束をしたレジナルドたちは、ポーションを売却するために薬師ギルドを訪れた。
いつもの落ち着いた様子と違うどこか浮ついた雰囲気は良いモノではない。職員の中には騎士と話している者もおり、嫌な予感を覚えつつも彼は理由を聞くべく近くの職員に声をかける。
職員も既に何度も同じ事を聞かれているようで、隠すこと無く冒険者ギルドと交流のあった薬師ギルド職員にも調査がおよんでいるのだと教えてくれた。
「こっちも調査か。ギルドの関係性を考えれば、そりゃあそうなるか……」
「ねぇ、レジナルド。私、リーフを探して来てもいい? 少し話がしたいわ」
「わかったよ。ポーションは俺とロニさんで売却しておくからアデラはリーフさんのところに」
「うん……ありがとう。ちょっといってくるわ」
職員の話はアデラが以前リーフに聞いた状況とあまりにも酷似している。デミシの名前は公表されていないが、直近で友人が冒険者ギルド職員と懇親会をしたと聞いていれば、心配になるのも当然だろう。
レジナルドの了解を得た彼女は、周囲を見渡しながら離れていく。そんな彼女に声をかけたのはリーフの同僚で、その人物と何度か言葉を交わしたアデラは、ジェスチャーで建物の奥を指さすとその方向へと歩いていった。
リーフの居場所を教えてもらったのだと察したレジナルドは、ロニと共にポーションの買い取りをしてもらうべきカウンターへと向かう。そこも人が少なく、若干慌ただしい様子に、彼の良心は痛むばかりだ。
「申し訳ありませんが、人手不足のためポーションを倉庫まで運搬をお願いしています。それでもよろしければ査定致しますが……」
「わかりました。ロニさん、いいかい?」
「大丈夫、です」
「ご協力感謝します。直ぐに査定をするのでこのままお待ち下さい」
申し訳なさそうに頭を下げる職員は、ホッとした様子でポーションの査定作業にうつる。提示された金額はこれまでと同じ額であり、十分に納得できるもので。レジナルドがロニに視線を向ければ、彼女は頷き、予定通りに売却を決めた。
「それではこちらに。裏の倉庫までご案内します」
職員の後ろに続き、レジナルドとロニはカウンターを離れる。薬師ギルドの建物から最も離れた倉庫に案内されても、二人はそういうものだと思い素直に従ってしまうーーそれが罠だと気づかないまま。
大型倉庫の中に足を踏み入れ、扉から離れたところで唐突に扉が閉まる。驚き振り返ってしまうロニの注意が扉側に注がれた時、倉庫内に隠れていた男が一気にロニへと接近する。
男が彼女を捕らえる、その寸前で反応していたレジナルドがあいだに割り込み、男を蹴り飛ばしてロニを背に庇った。
「い、いったい、なにが起こって……?」
混乱する彼女の疑問に対する答えをレジナルドは持ち合わせていない。彼がわかるのは、蹴った感触から相手が上手く衝撃を逃しており、ほぼ無傷であるという事と、倉庫内に複数の気配があるということ。
その状況から罠にはまったのだと推察する彼の前に姿を現した新たな若い男は、一目で裏社会の人間だとわかる雰囲気をまとっていた。冷ややかな眼差しに慢心は無く、いかにしてレジナルドを狩るかを思案しているのだと察せられる。
違法道具の件を騎士団にたれ込んだ報復。
彼の脳裏に浮かんだ考えは正しい。レジナルドは知らないが、デミシ宅にあった違法道具は、裏組織にとっても大切な商売道具であった。
原作ではカイトが騒ぎを起こしてから騎士団が捜査するまでにタイムラグがあり、そのあいだに貴重な道具は回収されている。そのお陰で原作のカイトへの報復は無かったのだが、レジナルドの立ち回りは裏組織が根回しする猶予を与えないものだった。
その結果、原作にはない報復イベントが発生してしまったのだが、それをレジナルドが知る由もない。武器どころか防具すらない丸腰の状態の彼は、どうにか逃げられないかと思考をめぐらす。
「よくもやってくれたな? ウチのメンツは丸潰れだ。……ケジメ、つけてもらうぜ」
それが甘い考えだと言わんばかりに武装した男たちが姿を現す。恐怖に震えるロニの悲鳴が倉庫に響くが、その声は魔法によって阻まれ外に漏れることはなかった。




