呆気ない捕縛
一話更新
二日経ち、レジナルドは再び裏通りにある情報屋の元へ向かっていた。そのあいだの彼らの日々は順調そのものだと言えるだろう。
まず、カイトたちは順当に狩場のレベルを上げていた。王都近郊から王都近くの森へと倒す魔物を変え、修練に励んでいる。
それは原作ゲームと同じ順当なルートであり、宿に帰ってきた時にするポーションの補充も下級ポーションを一、二本程度。怪我らしい怪我もなく、今日も意気揚々と彼らは出かけていった。
アデラとロニの薬師組も順調だ。
見習い薬師となったロニの為に、アデラは調薬道具の基本セットをプレゼントした。下級や中級のポーションといった最低限の道具で調薬可能な物が作成可能な一式で、それを貰うなんてとロニは恐縮するが、もう買っちゃったからと押し付けた形だ。
とはいえやはり嬉しいようで、ロニは毎日下級のレッドポーションを作成している。真剣な表情で調薬と向き合う彼女は少し大人びて感じ、弱いだけの存在から脱却すべくもがいているようにも見えた。
アデラはロニへ指導しつつ、更に上の難易度となる上級のポーションを作成したりと、支出を補うよう儲けの出る調薬をしている。
この調子が続くのなら大会まで資金が足りなくなるような事は無いだろう。
(となれば後は憂いの元を取り除くだけだ。情報屋は調べられただろうか)
前回と同様に家のギミックを操作し、屋根裏の隠し部屋へとレジナルドは足を踏み入れる。そこには以前と変わらぬ仮面姿の情報屋が座っていた。
「来たね。お望みの情報は仕入れておいたよ」
「流石だ。報酬は?」
「金貨二枚。家の場所を探すだけだったからね」
「わかった。ならこれで」
「確かに。情報はコレだ。地図はサービスだよ」
デスクの上にレジナルドが金貨を置けば、直ぐに情報屋からメモ書きが渡される。メモを見ると、言葉の通りに簡易的な地図が書かれており、王都の町を知る人が見れば一目でわかるようになっていた。
王都の町並みに詳しくないレジナルドはわからないが、これさえあれば家の位置の特定は容易い。やはり情報屋を頼って正解だったと思い、彼は満足げにメモ書きを懐に収納する。
「助かった。また依頼があったら来る」
「ん、ご贔屓に。……身辺には十分気をつけると良い」
隠し部屋を出ていくレジナルドの背に、小さな声が投げかけられるが、彼は深く考える事をしなかった。寝取り男たちの存在もあり、周囲に十分すぎるほど気を配っている自覚があったがゆえに。
裏通りを出た彼は、その足で図書館へと向かう。蔵書にある王都の簡易図でメモ書きにある場所を大まかに調べ現地へと行くと、すぐに家の位置はわかった。
(ここか……。何の変哲もない家だな。……人通りもあるし、今は玄関から入れないか)
デミシの家の正面を素通りしつつ、ごく普通の一軒家を横目で観察する。玄関はそこそこ人通りがある道に面している為、ピッキングは出来ない。
レジナルドがしようとしているのは、不法侵入というまごうこと無き悪事である。デミシの悪事を暴くためとはいえ、本来してはならないこと。
カイトたちに迷惑をかけないためにも、誰にも見つかることなく侵入しなくてはならなかった。
(家の裏通りに行ってみるか)
地図を見ると家の裏手にも道が通っていることがわかる。素知らぬ顔のままぐるっと大回りをした彼は、家の裏側の道を歩き観察を続ける。
表側に比べ、裏側は人通りが少ない。更にデミシの家には裏口がついており、玄関に比べて簡易的な作りな扉だとひと目でわかった。
(あのタイプの扉の鍵なら30秒もあればイケる。……やるか、今……!)
さっとまわりを見渡してもタイミング良く人が居ない。日をあらためる事も考えたが、一日でも早く問題を解決するに越したことはない。まだリーフが毒牙にかかりきっていないうちに、騎士団へ証拠を送りつけねばならないのだから。
レジナルドは速やかにデミシ宅の裏口に駆け寄ると、手にするピッキング道具を使い数秒で鍵を開ける。その上〈身体能力上昇〉の魔法を使い、何があっても即座に反応できるようにしてから扉を開く。
しかし彼の予想に反して、裏口には何の仕掛けも施されていなかった。それどころか家の中に罠らしい罠が無く、いとも容易くに宅内を物色できてしまう。
(違法物を持っているのに警戒心が薄すぎやしないか? あ、見つけた)
物置部屋と思わしき一室で、レジナルドは多数の『錬金具』を見つけた。ぱっと見ではわからないが、心得のある彼が作りを見れば、魔法石が内蔵されているのがすぐに分かる。
ズラリと綺麗に並んだ違法錬金具は、まるで店で展示しているかのようだが、値札などは無い。しかし物が物だけに値札をつけられないかと思い直す。
(冒険者ギルドの職員をしながら、違法道具の売買に手を染めているのか………?)
冒険者ギルドの職員は中々に狭き門だ。しかし余程のことが無ければ定年まで働けるうえ収入も大きいという手堅さがある。
こんな違法行為に走らなくとも生活には困らないはずだし、バレたら懲戒処分でクビになり職を失うだろう。レジナルドからすれば、リターンよりもリスクの方が高いと思えてしまう。
はたまた高いリスクを負ってでも違法道具に魅せられてしまったのか。原作を知るレジナルドにもわからなかった。
(……まぁいい。これをひとつ拝借して騎士団に密告しよう。それで事は済む)
棚にある違法道具の中からひとつ、素人目でもわかりやすい物を選んで彼は手に取る。それをあらかじめ書いておいた密告文と共に封書に詰めると、レジナルドはデミシの家から出て鍵を閉めた。
後を逃さぬ撤収ぷりは、デミシがよほど神経質か、常に自分の不在中に誰かが部屋に入ったと疑っていなければ、家探しされたとは気づかないだろう。
その足で騎士団の詰め所へ密かに封書を置いてレジナルドは宿へと戻る。常駐する騎士が封書に気づいたのは、彼が去ってしばらくしてからのこと。出所の怪しい密告文であっても同封してある物が物だけに騎士団はデミシの元へ騎士を向かわせる。
職務中の騎士の訪問、更に証拠たる違法道具を突きつけられ、問いただされるなんて、デミシからすれば青天の霹靂でしかなく、取り繕いきるなんて不可能だ。多くの罪人を見てきた騎士の目を誤魔化せるはずもなくデミシは捕縛。家から証拠品として数々の違法道具が押収されることとなる。
冒険者ギルドでの逮捕劇の話は、あっという間に王都中に広がるのだった。
インフルエンザ明け更新




