ロニ、薬師見習いとなる
一話更新
裏通りから出たレジナルドは、話の辻褄をあわせるためにメインストリートを歩き、『錬金具』の店先をさらっと眺めてから、露天で昼食を買い、適当に胃へ詰め込んだ。
時刻は昼過ぎ。予定通りに宿へと戻るレジナルドは、道中で甘いパンをアデラたちのお土産にと購入する。
「ただいま。二人とも、お土産買ってきたぞー」
「おかえり、レジナルド。お土産なんて気が利くじゃない」
「おかえりなさい、おにーさん。お土産、ですか?」
レジナルドが部屋に戻ると、彼女たちは予定していた調薬を終えたようで、テーブルの上を片付けているところだった。
中級のレッドポーションとブルーポーションを詰めたガラス瓶が収納箱に5本ずつ入っており、調薬の成功を物語っている。
アデラの技量は薬師として独り立ちできるほど高い。両親が王都に固定客がつくほど腕が良いため、親元で勉強しているあいだ、見習いと自称していたにすぎなかった。
「うん。オヤツにどうかと思ってね」
「あ、これ王都で評判の甘パンじゃない! 一度食べてみたかったのよ。よく買えたわね」
「運良くパンの焼き上がりに通りかかったみたいで、結構人が並んでいたけどなんとか買えたんだ。ほら、ロニさんもどうぞ」
紙袋からアデラが取り出したパンは、中にクリームが詰まったもので、少々値が張る。王都の平民が子供の誕生日など特別な日に買い求めるパンのため、田舎住まいのレジナルドたちは、誰一人クリームパンを食べたことが無い。
ロニにいたってはお高い物だとすら知らず、勧められるままパンを口に運ぶ。
「んんっ、おいしい〜! あま〜いっ!」
「本当! 行列ができる理由もわかる気がするわ」
ロニは人生で一番甘く美味しいと感じ思わず手をパタつかせ、アデラも満面の笑みを浮かべる。なんとも微笑ましい気持ちになったレジナルドがお茶を出せば、彼女たちは更に喜んだ。
「ここまで喜んでくれると並んだかいがあったよ」
「おにーさん、ありがとうございます!」
「ありがとね。レジナルドは食べないの?」
お茶しか口にしていないレジナルドが気になり、アデラが問うも彼は笑いながら首を横に振る。
「あー、俺はいいんだ。甘いの得意じゃないし」
「せっかくだし一口どう? 話の種になるわよ」
甘い物が得意ではないが、嫌いでもない。二人が絶賛している様子を見れば、どんな味なのか彼も気になってしまう。
「なら一口貰うよ」
「いいわよ。はい、あーん♪」
口をつけていないところをちぎり、レジナルドの口元にパンを運ぶ。突然の事に彼は固まってしまい、頬を赤くしたロニに見つめられているとわかると、なおさらに恥ずかしさを覚える。
しかしアデラは当然といった顔をしており、早く食べてと言わんばかりに唇に触れるギリギリまで近づけてくる。レジナルドは恥ずかしさに目をつぶり、指先に口が触れないよう注意しつつパンを食べた。
「……甘くて、美味いな」
「でしょ」
照れ隠しのぶっきらぼうな反応に、内心で胸をきゅんきゅんさせるアデラは、わざとらしくパンを食べさせた指を舐める。その仕草が色っぽく、ロニまでドキドキしてしまう。
妙な雰囲気を変えるべく、レジナルドはポーションの収納箱を見ながら口を開く。
「完成したポーションを売ったら、また材料を仕入れて調薬を繰り返す、でよかったよな」
「そうね。材料を買う分利益は少ないけど、町から出ない分安全よ。レッドやブルーの材料なら値段も安定しているし、安定して作れるようになれば食いっぱぐれることもなくなるわ」
自分で薬草を摘めば材料費は安くなるが、魔物に襲われるリスクがある。薬師ギルドが抱える在庫等で薬草の価格は上下するので、利益を求めるのなら自ら摘みに行くべきだが、それは自衛が出来ることが前提となる。
ロニもアデラも剣乙女であるが、自ら戦う術はない。一度魔物に襲われただけに、アデラは安全を優位とし、ロニに教えていた。
「そうだわ。実はこの中に入っている下級のレッドポーションとブルーポーションの内、1本ずつはロニちゃんが作ったものなのよ。だから彼女を薬師ギルドに登録しようと思ってんだけど、レジナルドはどう思う?」
「いいんじゃないか。というか直ぐに作れるようになるなんて凄くないか?」
『錬金具』を自作しているレジナルドは、ポーションの作成手順を見て、調薬が繊細な魔力のコントロールを要すると理解している。
作る物に適したベース液の作成。煮込む時に注ぐ魔力の量の均一性。そういった作業の感覚が育たなければポーションの調薬は成功しない。
普通なら一人前の薬師の元で見習いとして働きながらじょじょに身につけるのだが、ロニはあっという間にその感覚を身に着けてしまったのだ。
「ええ、凄いわよ。私だって両親に教えてもらったけど、作れるようになるまで数日はかかったもの」
「あ、あの……魔力操作の加減は、なんとなくわかるみたいで……。な、なんででしょうか……?」
「感覚……感覚、ね。そういえば昨日今日と魔力操作の調子が良かったわね。もしかして剣乙女ってこういうのが得意なのかしら」
「その可能性はありえるな。武器化、人化を本能的にしているんだろう? 魔力の扱いに長けていると考えるほうが自然だ」
「な、なるほど……。だから私なんかでもポーション作りが上手くいったんですね……!」
原作ゲームをプレイしたレジナルドだが、剣乙女が魔力操作に優れるという設定に覚えは無い。しかし当人たちの体感を元にした証言ならば信用に値する。
ひとり納得するレジナルドを横目に、アデラだけは膝をかがめ、ロニと目線を合わせた。急な事にビクリとする彼女に、アデラは優しく語りかける。
「私なんか、なんて言ったら駄目よ。ロニちゃんは凄い事をしたの。胸を張っていい事なのよ」
「……でも、それは……私が剣乙女だからで……」
「それもロニちゃんの個性よ。……一緒にいるあいだ、私が色々教えるわ。ロニちゃんが自分に自信が持てるように……だから、今日はからロニちゃんは薬師見習いよ。いいわね?」
「……はい。あの、頑張って覚えます……」
一度徹底的に折られた自尊心は容易く戻るものではない。それでもアデラはロニの卑屈さを取り除いてやりたいと思っていた。ポーション作りの手伝いを通じて、彼女が失った自尊心を取り戻してくれたらと思う。
ロニもまた親身になってくれるアデラの期待に応えたいと思う。理想のオトナである彼女に少しでも近づけるようにと、折れた心にほんの少しだけ熱が宿った。
その後、彼女たちと共にレジナルドは薬師ギルドへ向かう。ポーションを売却し、再び材料を仕入れながら、アデラはロニを薬師ギルドへ登録の希望を出す。
下級レッドポーションの作成、という実技試験を難なく突破したロニは、見習い薬師として薬師ギルドに登録されたのだった。
年末年始は更新が遅れます。
なるべく更新したい……。




