情報屋への依頼
一話更新
宿を出たレジナルドは、大勢の人だけでなく馬車も行き来するメインストリートから、そこそこの人が歩くセカンドストリート、更にもうひとつ奥の裏通りへと足を運ぶ。
セカンドストリートより更に人通りは少なく、着ている服の質も明らかに低い。レジナルドが歩を進めるなり、あちこちから視線が注がれる。
それに彼が気づかないはずもなく、向けられる視線ひとつひとつに視線を向ければ、注がれていた不躾な視線は無くなっていった。
(考えなしに襲って来ない分、気が抜けないな。用心して進もう)
レジナルドの立ち居振る舞いは明らかに素人ではない。であれば彼は裏通りに迷い込んだカモではなく、誰かのお客様の可能性がある。
そう判断した裏通りの住人たちは、初めて見る顔の男の通行を容認する。それがこの裏通りの暗黙のルールなのだ。
ぱっと見には民家しか並んでいないように見えるが、扉が開きっぱなしの建物の中を覗き見ると、商品が並んでおり、店員が見張るように立っている。
メインストリートやセカンドストリートのように、店外まで商品が出ていないのは治安の悪さを物語っており、少しでも目的地に早く着こうと彼は歩みを速めた。
(あった。原作だとここがそうなんだけど……)
レジナルドがたどり着いたのは、古びた家が並ぶ住宅地にあるうちの一軒。平屋の窓は全て木の板で塞がれており、誰も住んでいないように見えるが、彼は構うこと無く扉のハンドルに手をかける。
見た目に反し、扉は軋むことなく静かに開いた。中に入ると窓が全て潰されているだけあって真っ暗で、扉を閉めてしまえば何も見えなくなるだろう。
それに構わずレジナルドは扉を閉めた。暗闇の中、彼はその場で独特なリズムを刻むよう、その場で足踏みをして音を鳴らす。
そのまま待つ事暫し。変哲もない天井の一部が開き、陽の光と共に隠し階段が下りてくる。レジナルドは言葉を発することなく、原作と同じ演出で出てきた隠し階段を登った。
天井裏は思いのほか広く居間のようで、天窓から差し込む日光のお陰で室内は十分明るい。部屋にポツンと置かれたデスクの奥、椅子に腰掛けた人物が立ち上がる。
その人物は顔がわからないよう仮面を付けているうえ、体型もわからないようローブをはおっていた。
原作ゲームの情報屋も同じ姿をしており、その正体については原作でも語られていない。情報屋はあくまで攻略情報を買うだけの存在なのだ。
レジナルドが登りきって直ぐに隠し階段は上がり始め、密室が出来あがる。そこでようやく情報屋が口を開く。
「本日はどのようなご要件で?」
原作と同じ台詞を話す声は、男とも女とも感じる事ができる高さで、レジナルドには判断がつかなかった。
しかし情報屋の性別は依頼になんら関係がない。好奇心を押さえ、彼は知りたい事を言葉にする。
「友人の様子がおかしい。他人の意思を操るような道具は『魔法具』や『錬金具』にあるのか。それを知りたい」
「それなら金貨一枚で答えるよ」
金貨一枚。それは原作と同じ情報料だった。平民の平均収入は月金貨20枚から30枚のあいだであり、ポンと出すには躊躇う額だが、レジナルドは迷う素振りもなくデスクの上へと置く。
「では答えよう。人を操る……ようは催眠だね。それは『魔法具』でも『錬金具』でも可能な事だよ。厳密には『違法な改造を施した錬金具』ならば可能、という話だ」
「……やはり属性魔法か。人の精神に干渉するとなると闇属性の可能性が高い……。錬金具への魔法石の使用は違法だろうに」
「なんだ、知っているんじゃないか。冷やかしなら帰ってくれても良いんだよ」
呆れたような声を出す情報屋に対し、レジナルドは首を横に振る。彼が口にしたのは原作知識であり、現実でどこまで同じなのか確証が持てずにいた。情報屋が正しいと言ってくれるのなら、自分の考えに自信が持てる。
魔法石とは、属性魔法を魔石に封じた物である。魔法石は『魔法具』にしか使用してはならないという法律があり、『魔法具』も属性魔法の素質がある者にしか販売してはならないと定められている。
魔法石に封じる事ができるのはひとつの魔法だけだが、属性魔法の素質がなくとも魔力があれば使用する事が可能であり、魔法石が自由に使えればもっと錬金具は便利になるだろう。
しかし属性魔法の素質を持つ者が多い貴族が『錬金具』なんかに魔法石を使うなど許せないと訴え、魔法石は『魔法具』にのみ使用しても良い、という法律が成立している。
デミシの罪が重く、長い地下牢生活を送る事になるのは、この法を破り貴族たちの怒りを買ったからだと推測していたが、やはり正しかったと確信する。
「趣味で錬金具を作っているんだ。その経験から推測しただけで確証は無かった」
「へぇ、簡単に信じるだ。こんな格好をした僕の情報」
どこか嘲るような口調で話す情報屋。
確かに外見だけの話をするのなら、仮面で顔がわからないだけでなく、性別すらもわからない。情報屋本人の事は何もわからないのに、語られる情報を簡単に信じて良いのかと、普通の人ならば思うだろう。
訳あって情報屋は顔を晒す事が出来ない。
情報屋は多くの人に情報を売り生計を立ててきた。裏取りをした自分の情報には自信があるし、依頼人の期待に応えられなかった事はない。
しかし紹介されてやってくる者の半数は、正体を隠す情報屋を疑う。残る半分だって心から信じると言い切れない態度を取る。
そのせいで情報屋の心はすっかりやさぐれてしまっていた。危険をおかして良い仕事をしても信頼されないという事は、仕方が無いとわかっていても心に淀みを生じさせてしまう。
(どうせコイツも……)
だがその予想を裏切り、レジナルドは迷うことなく言い切る。
「情報屋の仕事を信じるよ。だってあなたはプロだろう?」
原作で情報屋の攻略情報に誤りは無かったから、と心の中で彼は付け加える。あまりにも愚直だと感じる言葉に情報屋は仮面の奥でぽかんとしてしまう。
その信頼が原作ありきのものだと情報屋は知らない。だが心の内でずっと望んでいた言葉を初めて貰った情報屋は、内心で喜びに震えつつも表に出さず、堂々と胸を張ってみせた。
「ーーああ、勿論」
「ならもう1点。冒険者ギルドのデミシという職員がいる。彼の家の場所を知りたい。ーー調べられるか?」
後ろ暗いことがあるのは明白な依頼だが、ここは裏通り。似たような仕事を情報屋は何度も引き受けたことがあった。
何故知りたいのか? と情報屋が問うことはない。客が知りたい情報屋を仕入れ、売り渡すのが仕事であり、用途を尋ねるのは信条に反する。
プロはプロらしく、仕事に専念するだけだ。
「当然。2日後、また来て」
頼もしい返事を聞き、レジナルドは頷き返すのだった。




