闘技大会と冒険者の登録
一話更新
宿屋にロニを残したレジナルドたちは、当初の予定通り闘技大会に参加申請をするため、町の中央にある闘技場を訪れた。
闘技場は武を競う四角い舞台を中央に、その周囲を観客席でぐるりと囲う円形をしている。収容人数はかなり多く、王都に万一のことが起こった時、避難所に指定されているほどの広さを誇る、王都を象徴する建築物のひとつでもある。
それだけの広さのある闘技場の観客席が満席になるほど、年に一度の闘技大会は盛り上がりをみせる。各地から腕自慢が王都を訪れしのぎを競い合う様子に、民は声を枯らすほどの声援を送るのが通例の事だ。
建物入口にある受付カウンターで、カイトは出場希望用紙に記入をする。一通り書き終えたところで、彼が振り返る。
「なぁ、本当にレジナルドは出ないのか?」
「うん。カイトを応援するつもりだからね。」
「ちぇっ。せっかくなら一緒に参加したかったのに。アデラも居るんだしやっぱり参加しないか?」
「しないって。今回はカイトのサポートに専念するよ」
諦めきれないのか未練たらたらのまま、カイトは受付に用紙を提出する。レジナルドが頑なに参加を断ったのは、当然寝取られフラグが関係している。
原作ゲームにおいて、カイトの行動拠点になる王都には様々な寝取られイベントが発生する。
その中には闘技大会の試合中に発生するイベントもあり、レジナルドはそれを阻止するため、大会に参加する訳にはいかない。
「本当に良かったの? 実は出てみたいとか……」
「本心だよ。カイトの特訓、アデラも協力してくれ」
「わかったわ。少しだけレジナルドが闘技場で戦うところも見てみたかったけど……」
びとりと寄り添う妻に良いところを見せたくとも駄目なのである。察してくれとばかりに頬をかく彼に、アデラも深く聞かずそれ以上のことを言わなかった。
レジナルドたちは申し込みを済ませたカイトと共に受付の職員からの説明を聞く。
「カイト選手は予選からになります。大会本戦の二日前に行われる予選大会を勝ち抜いた選手が、本戦に出場する事が出来ます。シード枠の選手はこれに該当しませんので、あらかじめご了承ください」
カイトが頷くのを見てから、職員がカウンターの上に丸いバッジをのせる。表面に『206』と記されたそれを、彼は手に取った。
「予選大会の初日は、十数人で戦う多人数戦となります。これを何度か繰り返し、成績の優れた者が、二日目の個人予選戦への参加が認められます。二日目はいくつかのグループで総当たり戦を行い、最終的に12名が本戦に参加できます。そしてシード枠の選手4名を加えた16名の選手で本戦が行われます」
職員の説明する闘技大会のルールは、原作と同じもの。差異が無いことにレジナルドは内心でホッとする。他にも遅刻は棄権扱いになる、バッジの紛失は参加資格を失うなど、一通り説明を受けるが、特に気になるところは無かった。
話を聞き終えたカイトたちは、職員に礼を言って闘技場を出る。バッジを無くさないよう収納し、彼らは冒険者ギルドへと向かう。
王都の一等地にある冒険者ギルドの建物は大きく、カイトやサリーナは想像よりも立派な建物に驚いてしまっていた。
しかし冒険者ギルドは国の管轄。国で暮らす民たちの依頼を一手に引き受けるのだから、その本部である王都の冒険者ギルドが立派なのも当然といえば当然のことだろう。
「ほら、中に入るよ」
「……そうだな。入ろう」
田舎からのお上りさんぽく足を止めてしまった二人に声をかければ、彼らは建物の中に入る。それにレジナルドたちも続いた。
ギルドの内部は広いものの整然としており、とても静かだ。彼らはワイワイガヤガヤと冒険者たちが騒がしいイメージを抱いていたが、実際は職員と冒険者の会話や、職員たちの筆記音が大半をしめている。
いくつものカウンターや長椅子があり、武具で身を固めた冒険者たちだけでなく市民も大人しく待っている様子や、職員に番号を呼ばれた者が入れ代わり立ち代わりカウンターを行き来する姿に、レジナルドは妙な既視感を持ち、気付く。
(前世の市役所とかに雰囲気がそっくり! そんな事ある……? 確かに原作でもNPCオブジェクトは少なかったし、BGMも落ち着いていたけどさ)
『新規登録』『依頼申し込み』『依頼請負』『ご相談窓口』といった吊り看板が余計に役所感を出しており、今度はレジナルドが呆気に取られてしまっていた。
「レジナルド、どうかしたの?」
「ああ、いや、うん……想像よりずっと綺麗で驚いて」
「私も。もっと騒がしいところだと思ってたわ」
そんな事を話していれば自然と視線を集めてしまい、レジナルドたちは口を閉じる。
静かにして当然。待つのが当然。そういったこの場の空気感が新参者を大人しくさせる効果があるのだと感じながら、彼らは『新規登録』のカウンターへと向かう。
その後の冒険者登録はとてもスムーズに終わった。
冒険者の身分を示すドッグタグに血を一滴垂らしたものに、職員が魔法をもちいると表面に本人の名前と『E』という文字が浮き出てくる。
Eの文字は冒険者の等級を示し、依頼の達成など功績を積むと昇級していく。特例の『S』を除き『A』が最上位であると説明を受ける。これらの設定は原作ゲーム通りであり、施設内の雰囲気こそ違えどそれ以外はイメージ通りなため、レジナルドはまたも内心で安堵した。
とはいえアデラ誘拐のように、原作と相違ない状況でも想定外の事は起こる。原作でイベントの無い宿でさえ起こったのだ。
原作で寝取られイベントがある冒険者ギルドで警戒を怠ってはならないと、レジナルドは自分を戒めながら周囲を見渡した。
仕事中の職員たちの顔を順番に見ていく途中で、不意に視線を感じたレジナルドが向いた方向には『購買所』という吊り看板が書けられたカウンターがある。
その奥に立つ男こそが、レジナルドの警戒する王都に居る寝取り男のひとり。
冒険者ギルドの職員で高身長かつ細身な青年ーーデミシ。
彼は様々な道具に精通し豊富な知識で冒険者をサポートする裏で、幾人もの女性冒険者と肉体関係を持っているという遊び人。
彼の関係する寝取られイベントは色々な魔法の道具を使ったものが多く、一定の層から高い人気を得た間男でもある。
そんな彼が見る先にいるのはサリーナだった。デミシは明らかに見惚れており、その様子に原作にあった彼のモノローグを思い出せてしまう。
『なんて綺麗な子なんだ。絶対ヤりたい。……いつものように道具を使って……ぐふふ』
その表情から、彼が良からぬことを思い浮かべたのだと、レジナルドは察する。
(推しの幸せは俺が守る……!)
登録を終え冒険者ギルドを後にする中、彼は原作知識を惜しむことなく使い対抗しようと考えるのだった。




