剣乙女ロニ、同行者になる
一話更新
レジナルドが合流場所に決めておいたのは、関所から王都に向かう街道沿いにいくつかある、旅人のために設置された休憩所のひとつだ。
雨風を凌げるよう屋根と壁がありつつも、街道側には壁や扉の無い開放的な造りをしており、兵士がパトロールの際に不審な人物がいないのか一目でわかるようになっている。
とはいえ夜中にパトロールはなく、関所から追手が来れば直ぐに気付き、逃げられるからという理由で、此処に決めたのだ。
休憩所に辿り着くなりレジナルドは倒れてしまう。しばらく経ち、彼が目を覚ました時には、アデラが出来うる限りの説明を終えた後であった。
「……アデラ……そうか、あの後気を失って……」
見知らぬ天井だけでなく、アデラの顔も同時に視界に映り、それで手に感じる温もりが彼女のものだとわかる。
「レジナルド……良かった、目を覚まして……」
「心配かけたみたいでごめん。……この感じ、サリーナさんが治してくれたんだよね?」
「ええ。ばっちり完治しているわ。治癒魔法って凄いわね……。私も使えれば良かったんだけど」
レジナルドは包まれている手だけでなく、酷い火傷を負ったはずの身体からも痛みを感じない理由を察する。自警団員の時、何度もサリーナの治癒魔法を受けており、さすがの腕前だと思うばかりだ。
アデラがうかない顔をする理由は無力感からで。生まれ持っての才能の差で思い悩む気持ちがレジナルドにもよくわかる。
「才能ばっかりは気にしても仕方が無いさ。代わりになるものは自分で用意するしかない」
「レジナルドの場合、それが鍵開けだったり、錬金具だったりする訳ね」
「そういう事だね。今回、とても役に立った。覚えておいて良かったよ。……起き上がるから手を離してもらってもいい?」
「ええ。急に動いたら駄目よ?」
頷いたレジナルドはゆっくりと身体を起こした。雷に打たれた側の腕を軽く回してみるが動作に違和感はなく、身体に痛みもはしらない完璧な治癒を確認する。
自分の身体を見下ろせば、焼けたはずのインナーシャツは綺麗なものに変わっている。まさかと思い、掛けられていた毛布の中を確認するも、そこは倒れる前と変わらないズボンのままで安堵した。
「シャツ、駄目になってたから捨てちゃったわよ」
「わかった。着替えはアデラがしてくれたのか?」
「そうよ。旦那様の着替えなんだから当たり前でしょ。カイトにも手伝って貰ったけどね」
「そうか……。それで、なんでカイトたちは黙ったままこっちを観察しているんだ?」
レジナルドがアデラの後方へと視線を移せば、カイトたちの姿を確認できる。
カイトとサリーナは好奇心を隠しきれない笑みを浮かべており、シルトは興味深そうな眼差しをレジナルドたちに送っている。
保護した剣乙女の女の子も視線はしっかりと同じ方向を見ており、注目されるレジナルドはなんとも居心地の悪さを感じてしまう。
「ちゅう、しないの?」
「しないよ! それ待ちだったの!?」
かくん、と首を傾げるシルトの言葉にレジナルドとアデラが顔を赤くする。
「ん、愛する人と再会したらするって聞いた」
「サリーナさんですね? 変な事を教えないでくださいよ……」
「ええ〜、間違ってないと思うけどなぁ。私たちが居なかったらするでしょ?」
「人目があるとこではしませんって。それより皆で別行動中の話をしましょう」
「うん、そうしよっか。アデラとこの子だけじゃなくて、レジナルド君からも聞きたかったし」
改めて一同がレジナルドのまわりに集まる。
彼の口から語られる内容は、アデラの話と大筋が変わらない。カイトたちと別れてからアデラを見つけるまでの話を除けばほとんど同じであり、彼らもすんなりと話を聞き入れた。
しかしアデラが剣乙女になるという大事だけは、二度話を聞いても信じがたいものがある。彼女の手にある剣乙女の紋章と、シルトがアデラの気配が同族に変化していると証言しなければ、信じられなかっただろう。
当然ながら、カイトたちは後天的に剣乙女になるなんて話を聞いたことがない。原作知識を持つレジナルドですらないのだから、アデラの剣乙女化を説明できる者がこの場にいるはずもなかった。
当の本人がけろっとしているため、深刻な雰囲気にならないのが救いである。むしろ上機嫌であり、その理由を聞けば。
「これで私も町で留守番しなくていいわよね。私はレジナルドの剣乙女なんだから」
と返されてしまい、レジナルドは再び顔を赤くする。
ちゅうする? と期待の眼差しを向けてくるシルトや、お熱い事でとからかってくるカイトに咳払いで誤魔化し、彼らはアデラも冒険者になるという結論を出した。
「あの子……ロニちゃんの事なんだけど……」
次にレジナルドは、自分連れてきた剣乙女の女の子について、彼女の口からこれまでの経緯を聞いたサリーナから説明を受ける。
それはアシホルの非道さがよくわかる話であった。
ロニは剣乙女である事を隠し、村で普通に暮らしていたが、ふとした出来事でバレてしまった。するとアシホルが家を訪れ、ロニを引き渡すよう両親に要求をした。
否と言う両親を兵士たちが痛めつけ、遂には命を奪おうとしたため、ロニは泣く泣くアシホルに同行する事にしたのだ。
その後の扱いはひどく、まともな衣服はもとより食事も質素をきわめ、道具のよう扱われたと言う。
不幸中の幸いだったのは、発育が良くない身体つきだったため、女の尊厳を損なう行為が無かった事だろう。その分、躾と称した虐待めいた行為が多く、ムチで打たれたりと言いなりになるまで辛い毎日だったと、ロニが話した内容を、レジナルドは聞いた。
「……もっと殴っておくべきだったな。顔がボッコボコにしても足りない所業だ」
「……でもおにーさんのお陰で少しだけすっきり、しました……。それから、私も連れてきてくれて、ありがとう、ございます……」
控えめだがしっかりと話すロニの様子は落ち着いたもので、それを見ただけでも連れ出して正解だったと思える。
レジナルドが眠っているあいだに、同族のシルトとアデラだけでなく、サリーナの優しさに触れたお陰で、ロニは表面上笑みを浮かべるだけの余裕を取り戻していた。
とはいえ心の傷は根深い。笑みを浮かべているのも、心とからのものでなく、助け出してくれたレジナルドたちに心配をかけまいとするところが大きかった。
「レジナルド君が寝てるあいだに相談したんだけど、ロニちゃんをご両親の元に届けてあげたいと思って。どうかな?」
「良いと思います。きっとあの貴族は今回の件で失脚するでしょうし。彼女の故郷はどこかわかりますか?」
「それは王都で調べようと思ってる。冒険者になった後、彼女の故郷の方面で依頼を受ければ、修行がてら送り届けれると思ってさ」
「確かにね。えっと、ロニさんもそれでいいかな?」
「……うん。よろしく、お願いします」
こうしてカイトたちの目的に『ロニを故郷に送り届ける』が追加された。
その後、追手を警戒し見張りを立てながら一夜を過ごすことを決め、順番に休む。
結果的に朝まで追手は姿を現さず、レジナルドたちは王都を目指し休憩所を立つことが出来たのだった。
ロニが同行者に加わった!




