奪還と脱出
一話更新
レジナルドは魔力が枯渇寸前だったが、剣乙女となったアデラからの供給で〈身体能力上昇〉と〈身体操作〉の魔法を維持する。
しかし本来、魔力には個人差があり、他人の魔力をそっくりそのまま譲り受けることが来ない。それは『契約』した契約者と剣乙女についても同様である。
故に原作で、主人公カイトは剣技をテクニカルポイント、魔法をメンタルポイントで使い、剣乙女シルトの能力を、彼女本人の魔力で使う。
カイトの魔力が尽きてもシルトの魔力を流用できず、それぞれのキャラクターの数値管理が攻略するうえで大切だった。
だが、特定の人物への思いで覚醒した後天的剣乙女は、自分の魔力を譲渡する事が可能だ。その反面、生涯契約者を変えられないという制約も生じている。
もっとも選んだ契約者と生死を共にする覚悟が無ければ覚醒しようもないので、それをデメリットと呼ぶかは、今後の二人次第と言えるだろう。
『アデラ、ありがとう! 魔力、助かる!』
『やっちゃいなさい! レジナルド!』
極限状態のレジナルドは、頭が働いておらず疑問を抱く余裕がなく、アデラは剣乙女の本能に従いガンガン魔力を送り込んでいた。
「契約したばかりの素人などにっ!」
兵士長が振り下ろすの赤い刀身の剣乙女を、レジナルドは赤黒の穂先の剣乙女アデラで、この戦闘で初めて真正面から受け止める。
長年愛用していた槍を切断した赤刃状態の刃を受けても、槍に損傷は一切なく、槍と化したアデラも、衝撃を感じたものの痛みはなく、熱さも感じない。
これならイケる、とレジナルドの守り優先の意識が攻勢に転じたのをアデラは感じ取り、心の中で拳を突き上げた。
『ぶっ飛ばしちゃえ!』
「おおぉぉっ!」
赤い刀身を弾き、レジナルドが反撃の突きを放つ。兵士長がそれを受け、反撃の一太刀を振るう。
しかしレジナルドは容易く防いだうえ、初撃よりも鋭く突きを放つ。兵士長がそれを防ぐも体勢が悪く、更にもう一撃を防がねば反撃をするタイミングが掴めない。
兵士長が斬りかかり、レジナルドが反撃をする形で始まった攻防の応酬は、次第にレジナルドの攻撃を兵士長が防いで反撃するというものへ変わっていく。
その事に気付いた兵士長は、冷や汗を流す他ない。
(ま、まずい、このままでは……!)
剣乙女という差が埋まった今、勝負を決めるのは互いの技量が大きい。そのうえ権力に胡座をかき、権力の力で忖度を受け、下々の者を踏みつけてきた兵士長と、才能溢れる幼馴染たちについていくため努力を続け、妻を取り戻すために力を尽くすレジナルドでは、戦いへ挑む気迫が全く違う。
彼の獣のようなギラつく目に、兵士長は完全に気圧された。顔が引きつり、僅かに硬直した隙をレジナルドは見逃さない。
ひときわ強く槍を振り上げ剣を弾くと、兵士長は剣を持っていられず手放してしまう。クルクルと回転しながら剣はとび、建物の壁に突き刺さった。
兵士長は予備の武器を持っておらず、両手を前に突き出し精一杯の声を上げる。
「まっ、待て! 投降す、ごぺぇっ!?」
しかしレジナルドが止まるはずもなく、彼は槍を回転させ、兵士長の下顎を石突でカチ上げた。骨が砕ける音がし、衝撃で身体が浮く。その無防備な身体を、ダメ押しとばかりに再び石突で突く。
「ぎゃぁぁっ!?」
「な、なんだあ!? おい、どうした!」
吹き飛んだ兵士長は壁に激突、床に仰向けで倒れた。彼の絶叫と音に、ようやく視力が戻りはじめたのを床を見て確認していたアシホルは、四つん這いのまま顔をあげる。
同時に彼の前にレジナルドが立つ。見上げたアシホルと見下ろすレジナルドの視界が交わり、殺意の眼差しを向けられている事を理解したアシホルの顔が、一気に青くなった。
「な、なにをしてる兵士長! アシホレ! お、おい! 誰かワシを助けよ!」
情けなく後ずさりながら叫ぶも、かえってくるのはうめき声ばかり。壁に突き刺さったままだった無もなき剣乙女は、既に人の姿に戻っていたが、虚ろな眼差しで天井を見上げるばかりである。
唯一無事な彼女に気付いたアシホルが、懸命に叫ぶ。
「お、おい! なにをしておる! 早くワシを……!」
レジナルドに追い詰められるアシホルを見た少女は、虚ろだった瞳に焦点が定まる。自分を虐げ、尊厳を踏みにじっていた男の情けない姿に、胸のすく思いがわきあがり、歪な笑みを浮かべる。
ざまあみろ、と言わんばかりの笑顔は痛々しく、レジナルドとアデラはなんとも言えない感情を抱くも、平民を見下しているアシホルには耐えられない屈辱であり、怒りのままに声を荒げようとする。
だがレジナルドが槍を振り上げたのを見て、アシホルは意識を目の前の脅威に戻さざるをえない。
「止めろ止めろ! 今ならまだ許してやる! いや、ワシの配下になるのだ! そうすれば平民では味わえぬ贅をくれてやる! だから」
(価値観が違いすぎて言葉をかわす価値もない)
レジナルドは喚く男へ容赦なく槍を振り下ろす。その殴打でアシホルは一撃で気絶した。
決着がつけば関所に用は無い。逃走する時間を稼ぐため、レジナルドは倒れる面々でまだ『麻痺』の札を貼っていない者へ片っ端から貼り付けていく。
これでもし意識を取り戻したとしても、誰かに札を剥がして貰わない限り身動きは取れない。例え尿意や便意がわきあがっても、垂れ流すしかないのは、彼らのプライドを凄まじく傷つけるだろう。
後は関所から脱出するのみ、となったところで、レジナルドはずっと感じている視線の方へ向き直る。ぼろ切れを着る剣乙女とばっちり目が合うが、無機質な瞳からは彼女の意図が読めなかった。
『ねぇ、レジナルド。彼女、連れていけない?』
『……あの格好からすると、国に属する剣乙女じゃないと思うから、連れて行くことは可能だけど……本気?』
『放っておけないでしょ。ここに残していったら絶対に酷い目に合うじゃない。助けてあげましょうよ』
剣乙女に覚醒したからか、アデラはボロ着の剣乙女のおかれた状況が不憫でならない。鎖と首輪、扱いから契約を強要されたと推測するのは容易く、同族として憤りを感じての言葉だ。
アデラが望むのであればレジナルドに否と言う理由もない。頷いた彼は床に座る薄い赤髪の剣乙女に片手を差し出す。
「一緒に逃げるか?」
「……うん。きゃっ!」
『あ、ズルい!』
しっかりと手を掴んだ彼女を引き上げ、レジナルドはお姫様抱っこをする。腕の中で縮こまる剣乙女を落とさないよう抱え直し、槍の姿のアデラを背負うと彼は階段を下った。
これだけ激しく戦ったにもかかわらず階下に兵士の姿はなく、レジナルドは不思議に思いながらも関所の脱出をはかる。
カイトたちが大暴れしすぎたせいで、関所中の兵士が地下牢付近に集まり、指揮の取れる者を含めて軒並みノックアウトしていたからだと知るのは、脱出した後の事。
無事に関所を抜け出したレジナルドたちは、カイトたちと合流すべく、泊まる予定の村ではなく王都へと向かう街道を進んだ。
星の輝きが照らす夜道をひたすらに走るレジナルドは、アデラを寝取られることなく奪還する事が出来て良かったと、ただただ安堵するのだった。
関所イベント攻略!




