関所へ侵入
一話更新
時はアデラが目覚める前にさかのぼる。
村を出たレジナルドたちは、日の傾き始めた街道を彼の案内で進んだ。関所の門が遠目に見える頃には薄暗くなり始めており、普通の人だけでなくカイトやサリーナですらもはっきりと門が見えない中、レジナルドだけは既に閉門しているのを目視していた。
「やっぱり閉まってるね。これなら作戦通りにいけそうだ」
「この距離でよく見えるな。流石はレジナルド」
「〈身体能力上昇〉だけは負けられないからね。……こっちだ。街道から少しそれるよ」
適正属性が無いレジナルドは、魔法の鍛錬を全て〈身体能力上昇〉に注ぎ込んだお陰で、他人より器用な使い方ができる。
さっきは視力を重点的に強化し、はるか遠くの門の上に立つ兵士が、やる気なさげにあくびをしている姿を見つけている。ここまでの事はカイトやサリーナにも出来ない。
向こうから視認される前にレジナルドたちは街道沿いの木々の中へ姿を隠し、さらに接近していく。
関所は高い壁で四方をぐるりと囲まれており、門を通らなければ侵入できない作りになっている。空を飛んで壁の上を通ることは可能だが、いくら兵士にやる気がなくとも目立ちすぎるため、見つからずに侵入できる可能性は低いだろう。
では原作でどうやってカイトは潜入したのか?
それは夜間に大きな門を開かずとも出入り出来るよう作られた通用口を通ったのである。外壁に模して作られた扉はぱっと見ではわからないが、おおよその位置を知るレジナルドならば発見が容易い。
そのうえ目立たないよう関所の側面に扉があるため、見張りの兵士の盲点にもなっている。そのため茂みから隠された扉までレジナルドが走っても見つからなかった。
そして彼が取り出したのはピッキングツール。魔法で固定されていない普通の鍵ならば、鍵開けの訓練を積んだレジナルドにとって、解錠は簡単だ。
カチリと音が鳴り、当たり前のように扉が開く。中を確認するが通用口なだけあって人気もなく、彼が手招きすればカイトとサリーナ、シルトを含めた四人は、なんなく関所へと侵入することが出来た。
「あっさり入れちゃった……。レジナルド君って本当に色々できるよね」
「鍵開けの練習はしてましたから。冒険者をするならひとりくらい鍵開けできた方が便利でしょう?」
「それはそうなんだけど……。カイトが冒険者になるって決めたのつい最近なんだけど……。レジナルド君って、妙に準備が良い時あるよね」
「俺も冒険者に興味があったんですよ。属性魔法が使えないから、代わりに色々出来るようにしておこうと思ってたんです。男の子は誰もが一度くらい冒険者に憧れるものですから。なっ、カイト」
「ははっ、確かに。でもレジナルドみたいな実用レベルになるまで練習するのは稀だぜ?」
「そうだよねぇ……」
「……いいだろ。鍵開け、楽しかったんだよ」
子供っぽい理由を恥ずかしげに語るレジナルドをにまにまと幼馴染ズが見て笑う。そんな中、ほのぼのしている場合ではないとレジナルドが咳払いをひとつし、まとう雰囲気を変えれば彼らも表情を引き締める。
「来る途中に話したけど、アデラが居る可能性が高いのは二箇所。関所の地下にある牢屋もしくは責任者の貴族の寝室だ」
「地下牢にはアデラの他に捕まっている人が居るはずだよな。出来れば一緒に助けてやりたいけど、三人じゃあ無理か」
「うん……。でも悪い奴を懲らしめるのは有りだよね?」
「ああ。こっちは派手に暴れていいんだよな?」
頼ると決めた以上、レジナルドはカイトとサリーナに危険な陽動役を任せた。アデラの居る本命は寝所だと思うが、地下牢に居る可能性も0じゃない。
建物の北にある寝所と建物の南にある地下牢は真逆に位置している。カイトたちが騒ぎを起こし、人を南側に引きつけてくれればそのぶんだけ北側で動きやすくなる。
寝所にアデラが居ればレジナルドが連れ帰り、地下牢に居るのならレジナルドが責任者の部屋近くで暴れ、人目を引きつけ直しているあいだにカイトたちが連れ帰る、という作戦だ。
「うん。被害が大きくなれば隠蔽も出来ないはずだよ。そうすれば監査も早まるはず。捕まっている人の救助はその人に任せよう」
「カイト、今はアデラを助ける事に集中しよ?」
「……よし、そうだな。シルト、いけるか?」
「ん。『契約』」
結論が出たところでカイトとシルトが手を取り合う。次の瞬間、ツインテールの少女の姿は、一振りの白い剣となる。彼女を手にしたカイトは、湧き上がる全能感に高揚を覚えるも、冷静さを保ち佇む。
そんな彼にサリーナが触れ魔法を唱えると、剣や髪の毛が白色から赤色に染まっていく。それは色を変えるだけの簡単な光属性の魔法の効果によるものである。
色の変化はカイトだけでなくサリーナ自身にもおよび、人相が変わっていなくとも受ける印象は完全に別人で、変装として十分すぎる役割を果たしていた。
『なんか変な感じがする』
「悪い、シルト。今回は我慢してくれ」
『大丈夫。アデラのためだから』
『契約』の時よりも光が鈍く変化し、シルトなりに変装の協力をしているのだとわかり、カイトは嬉しげに笑う。彼らのやり取りの最中に、レジナルドはサリーナに手のひらサイズの球体を手渡す。
「これが合図に使う閃光玉です。アデラを見つけた方がこれを使い、撤退して外で合流しましょう。地上で使えば敷地内どこにいてもわかるくらい光るはずなので、使う際はしっかりと目を閉じてください」
「うん、わかったよ。……これも自作よね?」
「こんなモノ売ってるはずがないじゃないですか」
こんなの作ったの? というサリーナの眼差しにレジナルドが平然と頷き返す。本当に手先が器用だと思う一方で、他にどんな事が出来るのか妙に気になってしまうが、今は余計な話をしている時ではない。
「それじゃあ上手くやれよ、レジナルド」
「うん。カイトとシルトもよろしく。サリーナさん、ふたりをお願いします」
「わかったわ。ちゃんとふたりで帰ってきてね」
頷くレジナルドを残し、カイトたちが先に関所の奥へと進む。彼もまた、アデラを探しに歩みだすのだった。




