隣村へ到着
生まれ故郷を離れたレジナルドたちは、無事に隣町へたどり着く。道中で魔物と遭遇したが彼らの敵ではなく、大きな怪我をする者はいなかった。
レジナルドの戦う姿を初めて見たアデラは、素人ながらも彼の槍さばきとその勇姿に見惚れ、ますます惚れ込んだのだが、当の本人はそれに気づかず妻を守り続けた。
旅路では守られるだけのアデラだったが、村に到着すると率先して宿まで先導する。両親と共に薬の納品のため定期的に王都へ行く彼女は、宿を営む奥さんと顔見知りなのだ。
宿に到着し、にこやかに挨拶をするアデラが二人部屋と三人部屋を頼むのだが。
「……四人部屋しか空いてない、ですか?」
「アデラちゃん、ごめんね。もうすぐ王都でイベントがあるでしょう? そのせいでお客様が多いのよ」
彼女が両親と王都へ向かう途中、この村の宿に泊まる時期は、決まってイベントのない閑散期だったと説明されれば、納得する他ない。この村に他の宿はないので、空いている四人部屋を借りた一行は、鍵を受け取り部屋へと入った。
「残念だわ。せっかくなら夫婦で寝室を分けようと思ったのに」
「まぁまぁ、せっかく旅をするんだし、大勢ですごすのもいいじゃないですか。シルトもアデラさん立ちが一緒の方が嬉しいよな?」
「ん。今日はアデラと一緒がいい」
「あら。いいですよ。一緒に寝ましょうか」
四人部屋なのでベッドが4つしかなく、誰かが二人で寝る必要がある。一日一緒に歩いたお陰か、シルトはすっかりアデラに懐いており、彼女もまたシルトに心を許していた。
幼子のように抱きつくシルトの白髪をアデラがゆったりと撫でる様子に、レジナルドは母性を感じる。覚醒シたばかりのシルトは大きな子供と言えなくもなく、アデラも気にかけてくれるのならより悪い男が付け入る隙はなくなるだろう。
(寝室を分けたい理由は明白だよな。カイトはその理由を全く察してないのか……)
カイトだけでなくサリーナも一緒の部屋に欠片も文句はないらしく、アデラとシルトの戯れに加わって楽しげにしている。
幼馴染から恋人をすっとばして夫婦になったせいなのか、結婚してもふたりの様子に表立った変化が全くなく、そういうことを意識している自分が1番スケベなのではないとレジナルドは思えてしまう。
溜め息を吐く彼が荷物を整理していると、いつの間にかアデラがすぐ近くいる。彼女がレジナルドの荷物の隣に自分の荷物を置く際、そっと身体を寄せた耳元で囁いた。
「王都までお預けみたいね、私も残念」
思わずビクリと肩が跳ねてしまう彼を見て、楽しげに笑うと、アデラは軽く手を振りまたシルトたちの元へと戻っていく。ワンピース越しに揺れるお尻を凝視してしまうレジナルドは、衣服の下を知るだけに心のなかで同意する。
転生前に一通りの経験があるだけに、正式な夫婦となった今、レジナルドに我慢する理由はなにもない。彼から夫婦の営みに誘うのは、積極的なアデラに対するわかりやすい愛情表現のひとつになるだろう。
(アデラも俺と同じか。そう思うとカイトたちの純粋さが眩しすぎる……いや、気にしては駄目だ。ペースは人それぞれ。俺は寝取り男の排除に集中するだけにしないと。お節介は良くないぞ、うん)
心の中で自分に言い聞かせ、お節介オジサンと化さないよう戒め、今後の流れに思考を移す。
まず幸いなことに、この村で発生する寝取られイベントはない。問題なのは明日村を出てから向かう関所だ。
王都の東西南北にそれぞれある関所は、各地の町から来る人々の中に犯罪者等がいないか調べたり、王都に持ち込みが許されていない禁制品を調べたりする役割がある。
重要な場所がゆえに管轄は国がしており、国に仕える貴族が責任者として派遣されているが、栄えある王都外の仕事ということもあり人気がない。王都で暮らす貴族の中には閑職だと感じる者がいるほどだ。
そのせいか定かではないが、責任者の貴族が鬱憤晴らしを兼ねて平民に厳しく当たるケースが多々ある。その中でもこれから行く予定の南関所の現責任者は、女好きで強引にでも手を出す下衆という設定が原作にはあった。
なお下衆の配下はもれなく全員下衆であり、関所ぐるみで悪事を働いているという成人向けゲームあるあるを完璧に踏襲していたりする。
ともあれ王都へ行く正規ルートは関所を通る必要がある。原作のカイトとサリーナは、別々の部屋でチェックを受けるのだが、武器化したシルトを持つカイトは早々に問題なしと言われ関所を通過できるも、サリーナが関所から出てこない。
彼が不審に思ったところで、ゲームプレイヤーの視点がカイトからサリーナへと変わり、彼女が関所の責任者である貴族から、身体検査という名のセクハラ行為をさせる直前に、時がさかのぼる。
サリーナの運命がプレイヤーの手に委ねられることとなり、無抵抗を貫けば関所こそ通過できるものの身体を蹂躙されてしまう。反対に抵抗の意思を見せれば、冤罪で捕まり関所の地下にある牢屋へ連れて行かれてしまう。
そこでプレイヤー視点がカイトへと戻り、サリーナを救出しに向かう『関所攻略』イベントが開始されるのである。
攻略中にカイトが力尽きると牢屋に捕まり、目の前でサリーナが酷い目に合う。彼女の元にたどり着き、関所を脱出すればイベント攻略、王都へ向かう流れとなる。
後日、関所を訪れると責任者の貴族は正当に裁かれたという話が聞け、なんの問題もなく通行できるようになっている。
(既に責任者が裁かれた後なら問題ないけど、そうじゃないなら関所を通るのはリスクが高い。サリーナが捕まるのならアデラも捕まってもおかしくない。アデラは戦えないからより不味い状況になる……)
関所を回避する方法はある。それは今使われていない旧道を使うというもの。しかしその道は使われなくなって久しく、兵士たちの巡回ルートからも外れているため、魔物の数が非常に多く危険という設定だ。
ゲーム内でもランダムエンカウント率が高く、出現する魔物の強さも強化されている。そのうえ道中で戦うボスキャラは、入念なレベリングをしなければ倒せない強さ設定のため、さっさとシナリオを進めたければ関所ルートを通る方が圧倒的に楽なのである。
(ここは現実。ゲームのように失敗したらロードしてやり直す、なんて事は出来ない。……まずは関所の噂とか調べてみないと)
明日の朝には村を出て関所に向かう予定をしているため、時間はないとレジナルドは考える。彼が和気あいあいと話す仲間たちに声をかけて聞き込みに行こうとした時、部屋の扉がノックされると、白いシーツを抱えた宿の奥さんが入ってきた。
ベットのシーツは部屋に入った時点で清潔だ。それなのにシーツを持っているのは、仕事で部屋に立ち寄った風に見せる小道具にすぎない。
「アデラちゃん、悪いことは言わないわ。王都に行くの止めたほうがいいわよ」
「どうしてですか? 私たち、彼が闘技大会に出るために王都に行かないといけないんです」
宿の奥さんは困ったように眉毛を寄せる。どこか周囲を気にし、話し辛そうにしながら言葉を続ける。
「ちょっと前に関所のお貴族様が変わったのよ。そうしたら色々と酷くてね……。この村じゃ悪い噂しか聞かないのよ。特に女の人がね……セクハラされたっていうのは序の口で、中には無実の罪で捕まって……酷い目にあったなんて話もあるぐらいなのよ」
その内容の酷さにアデラは絶句するほかない。カイトたちも同様であり、部屋がシーンと静まってしまう。しかし奥さんだけは、大きな溜め息を吐きながら苦笑いを浮かべていた。
「昔から稀にある話なんだよ。関所の責任者が変わる時にいざこざはあるものなのさ。ここまで酷いのは稀だけどね」
「そんな……。どうにもならないんですか?」
「このままなんて事はないさ。王都にも悪い噂は広まっているみたいだし、近い内に監査がきて責任者が捕まるはずだよ。だから王都に行くのはその後にした方がいいと思うわ。……それから」
最後に宿の奥さんはより一層声を潜める。
「この村は関所から一番近いだろう? たまにこの村に関所の人間が来る時があるんだ。村の若い娘はなるべく出歩かないようにしてる。アデラちゃんたちも気をつけるんだよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「いいんだよ。それじゃあ私は仕事に戻るね」
そう言って部屋を出ていく彼女を見送る。カイトたちは明日どうするのかと、頭を悩ませることになるのだった。
明日も17時です




