旅立ちの朝
旅立ちの朝。レジナルドはアデラを連れて村の出入り口でカイトたちを待っていた。
自警団を辞めたため、レジナルドの防具は小鬼の巣を滅ぼした時と異なる。とはいえ軽鎧に代わりなく、自警団の目印が無くなった程度の差だ。野宿ができるよう道具が増えた分だけ大きくなった背嚢を地面に置き、彼はカイトたちの姿を探している。
アデラの格好は、旅に適した厚手の生地を使った肌の露出が少ないロングスカートのワンピースにフード付きマントというシンプルなもの。悪路を想定した頑丈なブーツと野宿道具込みの背嚢もあり、旅の準備としては十分な物を一通り揃えていた。
色気の欠片もない旅人らしい格好だというのに、アデラの着こなしは完璧で、地味だからこそスタイルの良さがはっきりとわかる。レジナルドは大きく盛り上がった胸の膨らみを意識せずにはいられない。
既に衣服の下を見たうえ、直接揉んだこともあるのに、初々しさを感じさせる遠慮がちな視線に、彼女は満更でもないどころか内心で悦に浸っていた。
(はぁ〜、好きな人に見られてるって思うと、ちょっと興奮するわぁ〜……♡ レジナルドは気づかれてないって思ってるわよねぇ)
押せ押せでお嫁さんになったアデラにとって、レジナルドから向けられるそういった眼差しは完全なご褒美である。旅の準備と両家への挨拶で忙しなく、出発前夜をそれぞれの家族とすごしたため、彼女たちの初夜はまだなのだ。
アデラの理想は、愛し愛される夫婦。夫が自分の身体に性的興奮を覚えるのなら、来る日に期待ができる。なので、もっと見て! 性欲を溜めてっ! というのが彼女のまごうことなき本心なのである。
なのでカイトたちが来るまでのあいだ、胸の下で腕を組んでみたり、軽く身体のスジを伸ばしてみたりと、アデラは夫を誘惑しながら待った。
「悪い! 待たせたっ!」
「大丈夫。まだ時間前だよ。おはよう、三人とも」
先に待つレジナルドたちを見つけたカイトたちが走り、合流すると互いに挨拶を交わす。そうして一通り終えたところでレジナルドは咳払いをし、アデラの背中に右手を添える。
「昨日話したけど改めて。俺の妻になったアデラだ。これからは夫婦でよろしくお願いするよ」
「カイトさん、サリーナさん、よろしくお願いします。冒険に役立つポーションの作成は任せてください」
礼儀正しく頭を下げ、柔らかく微笑むアデラの様子は、レジナルドに対する押せ押せモードと全く違うお淑やかさがある。彼女曰く、仕事用の立ち居振る舞いで、素はレジナルドや家族と一緒にいる時の方、との事だ。
まだ疎遠の頃、自警団へポーションを納品する時に会ったアデラは常に仕事モードだった。そのせいか男性団員から人気があったし、カイトたちもアデラの立ち居振る舞いに違和感なく言葉を返す。
「こちらこそよろしく! アデラさんみたいな薬師が一緒に来てくれるなんて心強いよ」
「アデラと一緒で嬉しい。旅の仲間としても、同郷の夫婦としてもよろしくね」
「ええ、こちらこそ。お互い新婚夫婦ですし、色々と相談しましょう」
なによりアデラとサリーナが気兼ねなく話せる友人だというのが大きい。村で一、二を競う容姿の良さの彼女たちだからこそシンパシーを感じるものがあるようで、手を取り合い喜ぶ姿から本当に仲が良いのだとわかる。
そんな二人に向かい一歩を踏み出すシルトも彼女たちに負けない美少女だ。アデラとほぼ一緒の衣服を身にまとう彼女は、無表情のままだが丁寧に頭を下げる。
「シルト。……よろしく」
「アデラです。よろしくお願いします」
「ん」
アデラがにこやかなだけに、どうしてもぎこちない雰囲気になってしまう。しかし彼女はあらかじめレジナルドからシルトが感情表現の苦手なタイプだと聞いており、交差する眼差しから負の感情を感じ取れず、彼の言い分が正しいと感じた。
であればアデラが歩み寄ってみようと思うのもおかしくはない。前日からシルトと一緒に居たサリーナがあいだに入れば、より会話はスムーズに進むようになる。
「仲良くしてくださいね。道中いろいろお話しましょう」
「ん。仲良くしたい……」
「シルトちゃんはちょっと口下手だけど良い子だよ。昨日はきちんと話せたもんね。好きな食べ物とか、いろいろ教えてくれたの」
「あら羨ましい。私にも教えてくれますか?」
「大丈夫……ちゃんとアデラにも話す」
和気あいあいとしだす彼女たちを見てレジナルドはホッと胸を撫で下ろす。原作で数多くの一枚絵があるヒロインたちと並んでも引けを取らないアデラの見ていると、直ぐ側まで近づいたカイトが小声で話しかけてきた。
「急な結婚で驚いたぞ。幼馴染だったなら教えてくれても良かったじゃないか」
「親の仲が良いくらいで疎遠にしてたからね。俺はカイトたちと訓練してて忙しい毎日を送っていたし」
「その事だけどさ、レジナルドがアデラに見合う男になるための特訓だったって噂がまわってきたんだけど本当の事なのか?」
カイトとサリーナと一緒にレジナルドとアデラまで旅立つという噂話はあっという間に拡散していた。村で一、二の美女が揃って幼馴染に嫁ぎ、村を出るという話に村の独身男たちが血の涙を流したのは言うまでもないだろう。
「なにその根も葉もない噂は……出どころどこだよ……」
「レジナルドの母さんがあちこちで話してるらしい」
「ちょっと出発前にとっちめてくるわ」
「待て待て待て、やめとけ。もう何言っても照れ隠しとしか思われないぞ、たぶん」
レジナルド母による『息子が美人の幼馴染を射止めるために努力を重ね続けた美談』は既に村中に広まっている。彼が並々ならぬ努力で腕を上げたのは周知の事実であり、傍から見れば美談の通りにしか見えないのだ。
レジナルドの元にアデラを連れ出す事への抗議をする若者が現れないのも、幼少期の大半を捧げてアデラを射止めた勇者には敵わないと誰もが思ったからだったりするのだが、本人たちはそれを知らない。
なおカイトとサリーナについては『ようやくくっついたか』としか思われていなかったりする。
「恨むよ、母さん……」
「きっと噂話も長続きしないって。闘技大会が終わる頃にはおさまってるといいな」
「駄目な気しかしないんだけど……まぁ、今はいいや。シルトが武器を持ってないけど、護身用に何か持たせなくていいのかい?」
レジナルドが話をそらす先に選んだのはシルト。彼女は護身用の武器を携帯しているように見えない。使わせるつもりはないが、彼はアデラに短剣を持たせていた。
「昨日準備しているあいだに色々わかったんだが、シルトに戦闘経験がないんだ。剣の扱い方を知らないし、足運びとかも素人同然だった。下手に戦うより俺の傍にいてくれた方のが良いと思ったんだ」
「ということは、旅のあいだずっと剣の状態でいてもらうのは無理なんだね?」
「そうだな。体力……って言って良いのかわからないけど、剣状態は疲労が溜まるみたいだ。いざという時に剣になれなくなるのは不味いだろう」
「そうだね。ならカイトの言う通りにするのが最適解だと俺も思うよ」
原作ゲームでシルトは、カイトの装備品にカテゴライズされていた。ステータスもHPなどの項目はなく、威力などの武器のパラメーターを持っていた。余談になるが、身体の開発度等のヒロインステータスもある。
もしかしたらシルト単独でも戦力になるのでは? という期待もあったが、現実は甘くない。彼女には原作同様、カイトのメインウェポン役に専念して貰おうとレジナルドは考えた。
「そろそろ出発しようぜ。日が暮れる前に隣の村につきたいしな」
「うん、そうしようか。みんな、行こう!」
レジナルドの声に各々が返事をし、心の拠り所にする男の隣に並ぶ。カイトの左右にサリーナとシルトが、レジナルドの隣をアデラが歩くのだった。
明日も17時




