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プロローグ

3日間は7時と17時に更新する予定です。

 見晴らしの良い平原と深い森の入口の境界あたりに藁で編んだ籠が落ちている。籠の近くの地面に何かを引きずった跡がつき、それは森の中へと続いていた。


 平原からは見通せない茂みの裏で、頬を腫らした赤い髪の村娘が震えている。そんな彼女を取り囲むのは小鬼と呼ばれる魔物だ。


 身長は子供ぐらいしかない弱い魔物だが、戦う力のない村娘には十分すぎる脅威である。地面に倒され、衣服を引き千切られた彼女を犯すべく、三匹の小鬼は腰に巻かれる布切れの奥で醜い逸物を膨らませて嗤う。


(誰か、誰か……助けて……!)


 震えるを彼女は、叫ぶという行為を忘れるほどの恐慌状態に陥っていた。小さな村の薬師の娘である彼女がこうなってしまったのは、遠目で貴重な薬草を見つけたことから始まる。


 平原で採取をしていた彼女は、偶然に見つけた彼女は、決して森に近づいてはいけないと両親に言われいたことを思い出す。魔物が潜んでいるから、と言われたが、彼女の目には危険そうな見えず、森の中に入るならまだしも、入口にある薬草を一本取って離れるだけなら大丈夫だろうと思ってしまったのが運の尽きだった。


 貴重な薬草に気を取られた彼女の不意をついて小鬼たちが飛びかかり、彼女はあっという間に捕まってしまう。頬を殴られ、乱暴に引き倒され、もうどうにもならないと悟り後悔しても全てが遅い。


 抗う力のない村娘がどうなるかなど、わざわざ語るまでもないだろう。


 届かないとわかっていても女神に祈ることしかできぬ絶望の象徴たる小鬼が、いよいよ彼女の尊厳を破壊すべく腰布に手をかけた時、彼女の顔に緑色の鮮血が降り注いだ。


「ギャァァァァ!?」

「ひぃ……っ!?」


 彼女の目の前にいた小鬼の胸から鋭い穂先が飛びでており、傷口から溢れ出す血が彼女の顔を汚したのだ。戦いの素人である彼女には、それが槍の穂先だとわからず、衝撃に声ならぬ声をあげることすらできない。


 小鬼たちの意識が彼女に集中しているあいだに、いつの間にかひとりの青年が小鬼の背後を取っており、手にした槍で小鬼を背中から貫いていた。魔物の皮で作られた皮鎧を着る黒髪の彼は、流れるような手さばきで槍を引き抜くと、急襲に慌てふためきろくな行動を取れない残りの小鬼をまたたく間に突き殺す。


 あっという間の制圧劇に村娘は呆然と青年を見上げ、彼が同じ村に住むレジナルドだと気づく。


「レジ、ナルド……?」

「アデラ! 直ぐにここを離れるぞ!」


 呆然と呟くアデラを、槍を背負ったレジナルドが両腕で抱え上げる。直ぐ様平原へ向けて走り出す彼の腕の中で、彼女はようやく助かったという実感がじわじわと湧き上がり始め、ポロポロと涙をこぼす。


「あり、がとう……レジナルドぉ……」

「礼なら無事に村へ戻ってからにしてくれ」

「ぅん……! もう駄目かと、おもったぁ……」

「ったく。森に近づくなっておじさんとおばさんに言われてただろうが」


 前を見て走るレジナルドが一瞬視線を下ろし、涙を流すアデラの鐙色の瞳と合う。しかしその視線が顔から下へと一瞬移り、すぐ上へ戻り正面に固定される。


 その不自然な動きを、どうして? と思うほどまだアデラの思考はまともに戻っていない。まだ動揺が収まっていないのだから無理もない、のだが。


「悪い、見た。前隠してくれ」

「え? っっ!?!?」


 顔を赤くするレジナルドの言葉でアデラはようやく自分の格好に気がついた。小鬼に衣服の前を引き千切られたせいで、たわわに実った乳房が丸見えなうえ、走り揺れる振動でその存在をたゆんたゆんと主張しまっていたのである。


 慌てて両手で衣服の残骸を引っ張り、前で縛り胸を隠すも、ぜんぶ見られてしまったという羞恥で彼女は顔を真赤に染めた。


「……すまん」

「……いえ、その、こっちこそ……」


 その後、なんとも気まずい沈黙がおとずれてしまうが、レジナルドは走る速度を緩めない。しばらく走ったところで、彼はようやく徒歩へと切り替えると、アデラを地面に下ろす。


「ここまでくれば大丈夫だ。悪いが籠を拾ってる暇は無かった。許してくれ」

「ううん、助けてくれただけで十分すぎるくらいよ。本当に、ありがとう……レジナルド……」


 誕生日に母が贈ってくれた大切な籠だが、命には代えられない。自分が助かったのは凄まじく幸運なことだと、アデラは理解していた。


 同じ村に住むアデラは、レジナルドが村の自警団に所属しているのを知っている。歳が近いこともあり会えば話をする仲であり、彼が非番の日は鍛錬のため森で魔物を狩っていると聞いたことがある。


 偶然にもレジナルドが非番で、偶然にも森へ向かう日で、偶然にもアデラの採取場所に近いところに居たから、アデラは助かったのだ。


「いいって。おじさんとおばさんにはいつも薬で世話になってるし。ほら、頭を上げてコレを使ってくれ。目に毒だ……」


 心もとない布地で隠しきれない胸の谷間が、頭を下げたことで丸見えになってしまっている。マントを差し出すレジナルドの顔は赤いが、同時に怖い目にあったアデラに性的な魅力を感じてしまっている後ろめたさを抱いていると、彼女にはわかる。


(え、可愛い……っ♡)


 消極的な態度にアデラは胸の高鳴りを感じてしまう。村で二番目に可愛く、一番スタイルが良いと評される彼女は、薬師の娘というステータスもあいまって様々な男に口説かれている。レジナルドと同じ自警団に居る腕自慢から村を支える店を構える家の息子までよりどりみどりと言える状況だ。


 しかし彼女が今のような胸の高鳴りを感じ事は無かった。美人を口説こうというだけに、彼らは総じて自信たっぷりで『俺が選んでやる』という上から目線を含んでいる事に、無意識ながらに気づいていたからである。


 その上、彼らの視線は大きく盛り上がる胸へと下りる時があり、簡単すぎるほど下心を察する事ができた。それでときめけという方が無理だろう。


 そんな男に嫌気がさしていた中、レジナルドの紳士的といえる反応は、グッと来るものがある。命の危機を助けてくれたという実績が、更に好感を倍増させた結果、アデラはぽーっとした眼差しでレジナルドを見つめながらマントを受け取った。


「ありがとう……レジナルドは、優しいのね」

「時と場合ぐらい選ぶさ。ほら、村に戻るまで安心したら駄目だ。歩けるか?」

「……ちょっとつらいかも。さっきみたいに抱き上げて村まで連れていってくれないかしら」

「わかった。アデラが良いなら……」

「よろしくね……♡」


 顔を伏せて話すアデラの様子に、よほど辛いのだろうと思ったレジナルドは、細身ながらも鍛えられた両腕で抱き上げ歩き出す。故に彼はアデラが顔を真っ赤にして内心悶えて興奮している事に気づかない。


(ヤバ、レジナルド……意外とがっしりしている……♡ ぜんぜん落ちるかもって思わない……力持ちなのね。自警団だけじゃなくて魔物狩りに行くくらいだからしっかり鍛えてるんだ……♡)


 顔なじみの心をガッチリ掴んでしまった事を知らぬまま歩くレジナルドは、若干(興奮して)息を荒げるアデラを見て憂いの表情を浮かべながら考える。


(怖かっただろうな。アデラが村を出る前に気づいていれば……。くそっ、イベントの日がいつかわかっていれば……)


 レジナルドは知っている。


 今、自分が生きているこの世界が成人向け同人RPGゲームと同じものであると。しかもジャンルにNTRのタグが付くものであり、レジナルドが前世でプレイしかことのある『寝取られ勇者の冒険』であるとも。


 アデラはゲーム最序盤の被害者になる予定だったと、レジナルドだけが知っているのだ。

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