表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/29

プロローグ

「クレイド!」


 女神は彼の名を叫び駆け寄る。


 999人目の勇者クレイドが魔物の攻撃で吹き飛ばされ、切り立った崖の固い岩に強く打ちつけられた。


 勇者はぐしゃりと音を立ててその場に倒れる。みるみるうちに赤い血が滲み出す。


 相手は巨大なモグラのような姿の魔物だった。素早く土の中を移動し、クレイドたちは序盤から翻弄された。


 彼の仲間だった女騎士ベルナットとヒーラーのエセルはすでに四肢を切り裂かれ、魔物の近くにバラバラになって散らばっている。僧侶バルトロは、数分前に頭から喰われ、残った死体にはそのもぐらの子供と思われる小さな魔物たちが群がっていた。


「クレイド! しっかりして! 今助けるわ……ここはいったん引いて、傷の手当てを」


 クレイドは大量の血を吐き出し、震える唇で言う。


「いいや女神様。オレたちはどうやらここまでらしい」


「なに言ってるの! まだ手立てはある。ベルナットたちだって身体の一部が残っていれば、蘇生の可能性だって」


「この近くの村に蘇生師はいない。そのくらいバカのオレにもわかるさ」


 クレイドの顔はみるみるうちに白くなっていく。


 女神は顔を真っ赤にして、大粒の涙をいくつも落とした。


「……ごめん。ごめんなさいクレイド。私のせいで……私が女神として未熟なばかりに……」


 クレイドは血だらけの手で、女神の手をとる。


「ありがとうユレイナ」


「……なんで」


 クレイドはそれには答えずに笑うだけだった。


「それと、すまない。世界を救えなかった……君のチャンスはあと二回だけだというのに……役に立てず、本当に申し訳なかった」


 もぐらの魔物が大地を裂き、こちらに迫ってくる。


「そんな……そんなこと……」


 クレイドの真っ赤な手は、光の粒子のようなものになって末端から消えていく。


「次の勇者の武運を願う。じゃあな。女神様」


 999人目の勇者の身体が完全にこの世界から消えてなくなった。


 それと同時に女神ユレイナは別の場所へと転移する。


 ユレイナはその場にへたり込んだ。そこは「勇者の(ほこら)」。転生者が旅を始めるとても神聖な場所だ。だがユレイナにしてみれば暗くてじめじめしているだけの、ただの陰気な洞窟だった。


 強いて言うなら、絶望の象徴だ。


 転生者が死ねば、絶望と共に女神は祠へ戻される。そして次の転生者を召喚し、新たな絶望が始まる。


 次は1,000人目。


 最後の召喚。


 ユレイナは涙を拭って、乱れた髪を整え、腫れぼったくなったまぶたを直した。


「クレイド……私ね、本当は天界で“ヘボのユレイナ”とか“ドン底女神”って呼ばれてるの。いつも前向きで明るかったあなたを不安にさせたくなくて、結局最後まで言えなかった」


 洞窟の中央が淡く光り始める。


「ちゃんとしなくちゃ。この世界を統べる創造主らしく。女神らしく」

よければブックマークと評価をお願いします!

執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ