第17話(累計・第98話) クーリャ90:ゴブリン殲滅戦! わたしも頑張るの!
「この先の遺跡がゴブリンの巣ですわね」
「はい、です。しかし、男爵令嬢様に討伐のお手伝いをして頂けるとは……」
わたし達はゴブリンに襲われた廃村で一夜を明かしたのち、ゴブリンの足跡を追跡した。
そして追跡途中で、領主が派遣していた討伐隊と合流した。
お互いの情報を交換した結果、近隣の村々を襲い女性たちを多数連れ去っているのが確認できた。
「それは、ノブレス・オブリージュですわ。持てる力がありますなら、今が使うときですの」
討伐隊は二十人程で二名の魔法使いが居る。
普通のゴブリン相手なら十分過ぎる戦力だとは思うけれども、シャーマン以上の上位種がいる群れ相手では心もとない。
ここはわたしが頑張るところ。
「わたくし達には秘策がありますの。協力願えないですか?」
「とても助かります。こちらも想定以上の敵戦力なので、困っていましたから」
討伐隊の隊長さんは、とても心苦しそうに話す。
……まさか女の子の助けを借りるとは思っていないだろうから、しょうがないの。
「では、敵を完全殲滅。女の人たちを絶対に救うの!」
◆ ◇ ◆ ◇
「ふぁぁぁ」
気が抜けたようなあくびをするゴブリン。
今は夕刻、ゴブリンからすれば「夜明け前」の一番油断する時間帯。
「ぐるぅ?」
もう一匹の門番ゴブリンに小突かれて、被っていたボロ兜を被り直す。
そして持っていた短剣を握り直した瞬間、首元が熱くなり激しい痛みに襲われた。
倒れ伏すゴブリンの眼に、もう一匹のゴブリンが頭部を破裂させて倒れるのが見えた。
息も出来ず、どんどん暗くなる視界の中、ゴブリンは何に襲われたのかを知ることも無くこと切れた。
◆ ◇ ◆ ◇
「お見事です、お二人とも」
ゲッツとマスカーが、100mは離れていたゴブリンを狙撃した。
2人の放った銃弾は、ゴブリンの首と頭部に着弾、確実に一撃で殺害していた。
「なんとぉ。この距離で銃が当たるのですか? それに発砲音が静かです!」
2人の銃口には乾燥させた海綿が沢山詰まった筒、サイレンサーが装着されている。
……こんな事もあろうかと狙撃用の二脚とサイレンサーを準備していたの! 次は照準器の開発ね。元デザインが狙撃も出来るモシン・ナガンだし、良く当たるの。確か前世世界のフィンランドの英雄さんが使ってたっけ?
「こちら、当方の領内で試験運用中の銃ですの。詳細は、ニシャヴァナ男爵までで宜しくですわ」
まちがってもわたしが開発したなんて、口が裂けても言わない。
迂闊に秘密はバラさないのだ。
「では、入口まで攻め入りますわ。次は、これで行きますの!」
わたしは、次の作戦準備を開始した。
◆ ◇ ◆ ◇
「お姉ちゃん、怖いよぉ」
「アンナちゃん、大丈夫だからね」
遺跡の中にある広間、そこに村々から集められた若い女性、少女達が捕まっていた。
時々、ゴブリンによって数名が連れていかれる。
そして必ず彼女達は帰ってこない。
時折、悲鳴や泣き喚く声も聞こえる。
……もうダメなのぉ。次はわたしの番かもしれないの。でも、絶対に妹は守るわ。だって父さんも母さんも……
小さな村で両親や妹と一緒に暮らしていた少女、リーズの日常はゴブリン達の襲撃で終わった。
父は大きなゴブリンの振り下ろす斧で真っ二つにされ、子供たちを庇った母はゴブリンの集団に囲まれて慰み者にされて死んだ。
残るリーズと妹のアンナ、そして村内の少女、若い女性たちはゴブリンに引きずられる様にして、古代に作られた砦、遺跡内に連れていかれた。
そこには周囲の村々から集められた女性たちが沢山いた。
今日で連れてこられて3日目、満足な水や食料も無く倒れていく人達も出ている。
そして、ゴブリンに連れていかれた先で行われているだろう非道な行為。
男女の「営み」を詳しく知らないリーズですら、ゴブリンに捕まればひどい目にあい、生き残ってもゴブリンを産む「孕み袋」にされる事は知っていた。
「アンナちゃん。もしわたしに何かあっても絶対に希望は捨てないで。絶対に誰か助けに来るからね」
「おねーちゃん!」
2人で話していた時、閉じ込められていた部屋の扉が開けられ、汚らしいゴブリンが顔を出した。
そして中にいた女性たちを見回し、視線をリーズに向け、下品そうな顔をした。
「いやー! やめてぇ!」
「お姉ちゃんを離せぇ!」
ゴブリンに引きずられていくリーズ。
そして姉にしがみつき、引き留めようとするアンナ。
「ぐる!?」
アンナが邪魔に思えたゴブリンは、短剣を振り上げる。
「アンナ!!」
刺されそうになったアンナを抱きかかえて庇うリーズ。
「おかぁさん、アンナだけは助けて!!」
リーズは恐怖に眼を閉じ、しっかりとアンナを抱きしめた。
そして迫る刃に背中を刺されるだろう事を思いつつ待った。
しかし、一向に痛みは訪れず、ゴブリンの短剣はリーズを刺ささない。
不思議に思ったリーズは恐々と眼を開き、振り返ってゴブリンを見た。
そこには、短剣を落とし眼を抑えて苦しむゴブリンがいた。
そして次の瞬間、リーズの眼にも激しい痛みが起きた。
「痛い! 一体何が起こったのぉ!」
人質になっていた女性たち、そして見張りをしていたゴブリン達も眼を抑えて苦しんでいた。
◆ ◇ ◆ ◇
「カプサイシン攻撃、再びなのぉ!!」
わたしは遺跡の入り口で、カプサイシン・スプレーの原液をたっぷりと散布した。
そして、それを先生が操る魔法の風で遺跡内へと蔓延させた。
密閉空間での催涙ガス攻撃、これで敵の大半は無力化できる。
後は、人質を回収したら遺跡ごと焼き払って殲滅。
それが今回の作戦、その為に秘密兵器その1が準備済みだ。
「十分、ガスが回ったら潜入お願いします。皆様にご武運がありますように!」
「はっ!」
「殲滅作戦開始なのじゃ! まずは狙撃による見張りの排除、続いて遺跡内への催涙ガス攻撃。近代戦のお見本のような戦法なのじゃ! 流石は古今東西の戦法に詳しいクーリャ殿なのじゃ!」
普通の催涙ガスですと人質に被害が多数でますが、今回のは眼の一時的な痛みだけ。
安心して存分に使えますね。
そして人質救出に成功すれば、後は遺跡ごと焼き払えば確実に殲滅。
問題は上位種がどう動くかです。
「明日の展開が待ち遠しいのじゃ。まだ人質も多数生きておる。ぜひとも救出をしたいのじゃ!」
では、明日の更新をお楽しみに!




