第15話(累計・第96話) クーリャ88:街道を進むわたし。何か嫌な予感がするの!
「それでは、学院長先生。帰りにまた来ます!」
「くれぐれも無理はするでないぞ! 皆ともう一度会えるのを楽しみにしておるのじゃ!」
学院長先生に見送られて、王都を旅立つわたし達。
次に目指すは国境との中間の村、アエリア。
ここから先は宿場町が殆ど存在せず、村とかに泊る事になる。
宿泊所が無い場合は野宿だが、ノミやダニの多いベットに寝るよりは随分と快適。
……わたし、住環境には拘ったもん!
テストゥード号は、簡易宿舎としても十分なくらい装備を充実させている。
防音と断熱用・更には防火・防弾用にとガラス繊維を作り、それをベークライトで固めて布袋に詰め、外部装甲と内張りの間に仕込んでおいたのだ。
これは二重装甲の意味もあり、弓矢などの貫通も防ぐ。
……フェノール樹脂の作り方も覚えておいて良かったわ。フェノールは石炭から、ホルムアルデヒドは木酢液から乾留したメタノールから作ったの! やっぱりお金あると、なんでも出来るの!
「エル君、貴方が大公国から来たときは、ここの街道を通りましたのよね」
「うん! 確か5年くらい前になるかな。冬になる前に王都につく用に移動したんだよ。途中、大きな川があって通るのが大変だったよ。細い橋で、手すりも無かったし。その上、検問所もあったよ」
この世界、街道といえど大きな川には橋が通っていない事も多い。
建築技術の問題もあれば、防衛的な問題もある。
大軍がやすやすと移動できる橋を作ると自軍を動かす時は有利だが、敵軍を通す道にもなりかねない。
……沈下橋なのね。いつでも通せんぼ出来るようにしているのは、防衛を考えているのかしら?
周囲の山は少しづつ秋色に染まりつつある。
後半月もしたら、紅葉で綺麗になるだろう。
「クーリャ様。様子が少し変ですわ」
助手席の先生が前を見て指し示す。
先生の指先には、商人らしき人々が馬車で立往生していた。
「何でしょうか? Uターン出来そうな場所で一端停車して、様子を確認しましょう」
「では、アタシ行ってきます!」
停車すると同時にカティが飛び出していった。
わたしの眼には、商人の方々が橋の前で守備兵らしい人と言い争っているのが映る。
……橋は無事そうだけれども、何か事情があって通行止めになっているっぽいの。もしここが通れないのなら、大回りして別の橋を渡らなきゃ。
「聞いてきましたぁ。この先の小さな村がゴブリンの集団に襲われて、大変な事になっているそうですぅ」
息も切らさずに走って帰ってきたカティ。
戦闘訓練もこなしているとは聞いているが、実に頼もしく可愛い。
「そうですか。どうしますか、皆様。ゴブリンくらいでしたら、奇襲を受けない限り負ける心配は無いのですが。ここを迂回するとなると2日近く余分に時間がかかりますの。それと襲われた村の様子が気になりますわ」
わたしは、一端全員の意見を聞く。
わたしが勝手に暴走するとろくなことがないのは自覚しているから。
この世界は古来からのファンタジー世界を模倣している。
なので、ゴブリンやオーガ等に代表される人型魔物や、ドラゴン等の恐るべき魔物も存在する。
……ゴブリンの集団だと、襲われた村は大変な事。R18案件が発生しているのでしょうね。
エロだけでなくグロもあるR18なのは、正直わたしは見たくない。
だけれども、知ってしまえば放置するのも嫌。
「ここの領主様はどうしていらっしゃるのやら。橋の部分で通行止めをしていらっしゃるなら、討伐隊も派遣なさっているとは思いますが……」
先生は、領主が動いているだろうことを語る。
……確かに何か動いているのは確かなの。じゃあ、わたしが無理に動く必要も無いのかな?
「危険な場所に姫様達をお連れするのはどうかと、警護側からすれば思ってしまいます」
「ですわね。ダニエラ様、クーリャ様。ゴブリンはドワーフにとっても不俱戴天の存在。ですが、姫様達のお命をかけてまで退治する必要がありませんですの」
マスカーやアデーレさんもわたしがゴブリン退治に動く必要はないと言う。
「しょ、しょうがないですわ。では、ここからUターンをして別の橋に向かいます。エル君、道案内をお願いします」
「うん! まかせておいて。ここから北に向かうと、もう一つの街道に繋がるから、そこから川を渡ろうね」
……このまま無事に次の目的地、アエリアに着けるのかしら? 何か嫌な予感がしますの。
わたしは、予感を嚙み殺し、テストゥード号をバックさせて別の道へと向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「シルヴァ。せっかく孫に会えたのに名乗らなくて良かったのか?」
「エフゲニー。お前もお節介焼きだな。我ら、長命種なれば、そう簡単に死ぬこともない。どうせ帰りにまた王都を通るだろうから、その時にでも話すさ」
王都コンスタンティアの魔法学院、夜の学院長室は魔法の明かりで照らされている。
部屋の中、学院長とエルフ青年が琥珀色の蒸留酒を飲みながら話している。
「そりゃクーリャちゃん達が一緒だから大丈夫だとは思うが、孫が可愛くないのかのぉ。ワシは、研究に没頭しすぎて妻子を持てなんだが、学院に通う子たちも、それよりも幼い子達も可愛くてたまらん。ワシなら、抱きしめて絶対に離さぬぞ」
「お前が言うと嫌らしいぞ、エフゲニー。まあ、子孫や家族への愛が短命種、只人族の強さかもな。世代を継ぐ事を大事にして子孫を愛し慈しむ。我らエルフ、こと寿命が無いに等しいハイエルフにとって子供なぞは、ある程度以降は勝手に育つというイメージが強いな」
もうどれだけ生きてきたのか、年月を数えるのも面倒になっているハイエルフ、シルヴァリオ。
多くの友や妻とも死に別れ、世間と触れ合うのが面倒になった彼は古くからの友人、学院長エフゲニー・ニコラエヴィッチ・ボトキンを頼り、母国を離れ王都の学院にて細々と魔法を教えている。
「それだから、娘や息子が困っていても助けないのか? 薄情よのぉ、シルヴァ。まあ、クーリャちゃんやエルロンド君がなんとかするさ。じじい達は孫らが帰ってきたら褒めて甘やかすに限る」
「確かにあの娘は面白い。異世界の知識を独り占めせず、世界を救うことに使う。お人好しすぎて逆に心配にもなるぞ。俺の孫があれだけ信用するんだ。俺も信用して息子もついでに助けてやるとするさ」
シルヴァリオの家系には、他人の悪意を敏感に感じる異能がある。
テレパスの一種だが、こと自らに向かう悪意に対しては敏感だ。
その血を継ぐエルが、あれだけ信用して助けようとするのであれば、善人には違いない。
全く関係ないドワーフ族の姫を友情以外の見返りも無く助けた事からも、お人好し具合が良く分かる。
「じゃな。ワシらも彼女の世界救済に力を貸そうぞ。これからが絶対に楽しいぞ。クーリャちゃんは、世界に大きな渦を巻き起こすに違いない!」
「あの暴走娘に乾杯!」
コツンとグラスを当てて素晴らしい未来を夢見る2人。
それはここ10年以上思わなかった、されど楽しい夢である。
「これはフラグいっぱいなのじゃ! しかし、やはりエル殿とシルヴァ殿は血縁ありなのじゃな。作劇的にもありがちなのじゃ!!」
ありがちですいませんね、チエちゃん。
一応、「チェーホフの銃」なのですけど。
「分かりすぎる伏線も必要じゃが、遠距離パスする伏線も大事なのじゃ! そこは修行するのじゃ!」
はいです!
では、明日の更新をお楽しみに!